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『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』  作者: 月神世一


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EP 9

ホワイトハウスの戦慄と、一枚のジョーカー(低コストな敗北への招待状)

「……冗談だろう。たった一度の爆撃任務で、最新鋭のB-29が12機も未帰還だと?」

 太平洋、マリアナ諸島・サイパン島のアメリカ陸軍航空軍基地。

 後に「鬼畜ルメイ」として日本を火の海にする男、カーチス・ルメイ少将は、提出された被害報告書を前に、葉巻を噛み千切らんばかりに顔を歪めていた。

「高度一万メートルだぞ。ジャップの豆鉄砲(高射砲)が届くはずがない。ゼロ戦だって上がってこれない空域だぞ!」

「そ、それが……生き残った搭乗員の報告によりますと、日本軍は『戦艦の主砲』を陸上に埋め込み、我々の高度と速度を完璧に計算して、空中に巨大な『一文字の弾幕(壁)』を形成したと……!」

「戦艦の主砲を、対空砲として陸で撃っただと……!? なんだその狂った運用は!」

 ルメイは机を叩き割る勢いで立ち上がった。

 これまでの日本軍は、精神論でバラバラに弾を撃ち上げてくるだけの「野蛮だが御しやすい敵」だった。

 だが、今回の防空戦は違う。狂気じみた発想でありながら、その裏には極めて数学的で、冷徹な「システム(指揮統制)」が存在している。

「まるで、見えない『巨大な盾』に激突したようだったと、パイロットたちは恐怖しております……。このまま昼間の高高度爆撃を続ければ、我が方の損害は天文学的な数字に跳ね上がります!」

「……クソッ。ジャップの司令部トップに、一体何らかの『バグ(異常)』が起きているというのか……!」

 超大国アメリカの圧倒的な物量が、極東の島国に突如として現れた「理性の化け物」の前に、初めて冷や汗を流した瞬間であった。

     * * *

 一方、帝都・東京。

 大本営地下の防空指揮所(CIC)では、B-29撃退の報に将官たちが歓喜の声を上げていた。

「やりましたな閣下! 無敵のB-29を12機も叩き落とすとは! これでアメ公も、帝都の空には二度と近づけまい!」

 佐藤賢了が興奮気味に叫ぶ。

 だが、作戦を指揮した坂上真一(牟田口)の顔に、慢心の色は微塵もなかった。

 彼は、雪川美奈子――専属の看護師として彼に付き従い、怪我の処置から体調管理までを平然とこなす22歳の白衣の天使――から渡された熱いブラックコーヒーを無造作に受け取ると、冷ややかに吐き捨てた。

「浮かれるな。たった12機だ。アメリカの工業力なら、一週間で補充される」

「し、しかし……」

「いいか、今の防空網イージスはあくまで『ハッタリ』だ。アメリカがいずれ、弾幕を避けやすい『夜間低空爆撃』に切り替えてくれば、目視頼りの人力システムは崩壊する。さらに、来年の夏には『原子爆弾』というチート兵器まで完成するんだ」

 坂上はコーヒーを飲み干し、美奈子にカップを返すと、血走った目で巨大な太平洋の地図を睨んだ。

「俺たちがB-29を落としたのは、勝つためじゃねぇ。アメリカの世論に『日本本土を攻めるのは、とてつもなく高くつく(コストがかかる)』と錯覚させるための、ただの『広告プレゼン』だ」

 防衛省J5において、数多の外交カードを切ってきた男の真骨頂。

 戦闘(物理)で相手に出血を強いたなら、次に行うべきは、相手が怯んだ隙を突く「交渉(テーブル作り)」である。

「……佐藤。スイスの駐在武官を経由して、アメリカの『OWI(戦時情報局)』に極秘電電を打て。宛先は、アメリカ政府の対日工作部門にいる『ベアテ・シロタ・ゴードン』だ」

「ベアテ・シロタ……先日保護した、あのユダヤ人音楽家夫妻の娘ですか!?」

 佐藤が驚愕に目を見開く。

「そうだ。暗号は使わず、平文の英語で送れ。内容はこうだ」

 坂上は、新しいタバコを咥え、ジッポライターをカチンと鳴らした。

『親愛なるベアテ・シロタ嬢。貴女の両親レオとオーギュスティーヌは、現在我々日本軍の新たな指導部が、最高級の医療と食事をもって安全に保護している』

「……なっ!? 敵国の政府機関に、人質の生存証明を送るのですか!」

「人質じゃねぇ。これは『ジョーカー』だ」

 坂上は獰猛な笑みを浮かべ、言葉を続けた。

『日本の狂った軍国主義者オールド・ボーイズは、すでに我々が物理的に排除した。我々は名誉ある玉砕などという非合理な真似はしない。貴国がこれ以上の無駄な出血コストを望まないなら、早期の「条件付き降伏」に向けた裏交渉のテーブルに着け。……両親の命と、数万のアメリカの若者の命。賢明なる合衆国政府の判断を待つ。――日本国・内閣特別防衛補佐官、牟田口廉也』

     * * *

 数日後。アメリカ合衆国、ワシントンD.C.。

 OWI(戦時情報局)の薄暗いオフィスで、一人の若い女性職員が、スイス経由で届けられたその電報を読み、顔面を蒼白にして震えていた。

 ベアテ・シロタ・ゴードン。

 のちにGHQ民政局員として日本国憲法草案の作成に深く関わることになる彼女は、同封されていた「笑顔でコーヒーを飲む両親の写真(美奈子が撮影したもの)」を見て、涙を流した。

「……ベアテ。どうしたんだ」

 上官である情報局の将校が、彼女の様子に気づいて声をかける。

「これを見てください……。日本の……新しい指導者からです。狂信的な軍部トージョーは失脚し、彼が実権を握ったと……!」

 電報を読み上げたアメリカ政府の高官たちは、絶句した。

 B-29部隊から報告された「異常なほどシステマチックで冷徹な防空網」。

 そして、特高警察の軟禁下にあったはずの重要参考人の両親をピンポイントで保護し、それを交渉カードとして切ってくる、悪魔的なまでの政治的嗅覚。

「……大統領ルーズベルトに至急連絡を取れ。日本は今、ただの野蛮な軍事国家ではない」

 情報将校が、冷や汗を拭いながら呻いた。

「極東の島国は……とてつもなく冷徹で、合理的な『理性の化け物』に乗っ取られているぞ……!」

 圧倒的な暴力と、未来を見据えた情報の非対称性。

 坂上真一の放った一枚の「ジョーカー」が、ついに超大国アメリカの国家中枢ホワイトハウスを根底から揺さぶり始めたのであった。

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