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『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』  作者: 月神世一


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EP 4

狂信の刃と、裏路地の総長(鉄パイプ in 帝都)

 昭和19年、秋。

 空襲の脅威に備え、厳重な灯火管制が敷かれた帝都・東京の夜は、文字通りの漆黒であった。

 赤坂の高級料亭街。

 かつては大物政治家や軍高官の黒塗りの車が列をなしたこの場所も、今や不気味なほどの静寂に包まれている。

 その暗がりを、一人の巨漢がゆっくりとした足取りで歩いていた。

「……ふぅ」

 軍用外套レインコートの襟を立てた坂上真一(牟田口)は、口にくわえた『プレイヤーズ』のタバコから、細く紫煙を吐き出した。

 昼間の大本営会議室で東條英機らを完膚なきまでに論破した後、彼は自身の「派閥」を形成するため、若手官僚や海軍の一部反戦派と密会を重ねていた。

 その帰り道。

 坂上の歩みが、ピタリと止まった。

 ……チャキッ。

 前方の路地裏から、微かな金属音が響いた。一つではない。前後左右、暗闇の至る所から、濃密な「殺気」が坂上を包囲していた。

「……隠れてねぇで出てこいよ、大本営トージョーの飼い犬ども」

 坂上が低く、ドス黒い声で路地裏に呼びかける。

「……国賊・牟田口廉也。もはや逃げ場はないぞ」

 闇の中から姿を現したのは、黒ずくめの私服に身を包んだ三十名近い男たちだった。

 その手には、月明かりを妖しく反射する日本刀(軍刀)と、南部十四年式拳銃が握られている。

 彼らは、かつて坂上がインパールで半殺しにして病院送りとした狂信的参謀・辻政信の残党であり、大本営の「玉砕思想」に洗脳された急進派の青年将校たちであった。

「貴様が帝都に持ち込んだのは、敵の肉や白米ではない。大和魂を腐らせる『甘え』という名の猛毒だ!……陛下の軍隊を私物化し、統帥権を干犯した罪、この場で天誅を下す!」

 リーダー格の将校が、ギラリと目を血走らせて軍刀の切っ先を突きつける。

 会議室で正論を叩きつけられ、世論の支持によって表立って手が出せなくなった大本営の老害たちは、ついに「闇討ち」という最も短絡的な物理排除に出たのだ。

「天誅ねぇ……」

 坂上は、気怠そうに首の骨をゴキリと鳴らした。

「昼間、会議室オモテで数字を見せてやったのに、まだそんなポエムを喚いてるのか。……大日本帝国ってのは、本当に学習能力のねぇブラック企業だな」

「黙れッ!! 貴様の姑息な弁舌も、白刃の前では無力だ! かかれェッ!!」

 怒号と共に、三十名の暗殺者たちが一斉に斬りかかってきた。

 狭い路地裏。前後を塞がれ、逃げ場はない。常人であれば、数秒で肉塊に変えられる絶望的な状況だ。

 だが。

「……会議室のルールは終わりだ。ここからは、裏路地(俺のシマ)のルールでいかせてもらうぜ」

 坂上は、羽織っていた重い軍用外套をバサリと脱ぎ捨てた。

 そして、傍らの暗がりに立てかけてあった「それ」を、太い右腕でわし掴みにした。

 インパールの泥濘で数多のイギリス兵の頭蓋骨を叩き割ってきた、無骨な『鉄パイプ』。

 ヒュンッ!!

 凄まじい風圧を伴って、鉄パイプが横薙ぎに振り抜かれた。

「大和魂が聞いて呆れるぜ……ッ!!」

 ガキィィィィンッ!!!

 耳をつんざくような鋼の衝突音。

 先頭で斬りかかってきた将校の軍刀が、坂上の鉄パイプの圧倒的な「質量」と、北辰一刀流の完璧な「理合」の前に、まるでガラス細工のように根元からへし折られた。

「なっ……!? 刀が……ッ!」

 驚愕に目を見開く将校。

「隙だらけだ。喧嘩の基本がなってねぇよ」

 ドンッ!!

 坂上の重い前蹴りが、将校のみぞおちに深く突き刺さる。

「ごぼァッ……!?」

 内臓を激しく揺らされた将校は、胃液を撒き散らしながら路地の壁まで吹き飛び、白目を剥いて気絶した。

「ひ、ひるむな! 相手は一人だ! 撃て! 撃ち殺せ!!」

 後方の暗殺者が、慌てて拳銃を構えようとする。

「……遅ぇ!!」

 坂上の巨体が、まるで重力を無視したかのようにブレた。

 銃口が向くよりも早く、路地の壁を蹴って三角飛びの要領で間合いを詰め、鉄パイプを脳天から振り下ろす。

 メシャッ!!

 銃を構えた手首ごと、暗殺者の鎖骨が粉砕される。

「ぎゃあァァァッ!!」

「化け物……! な、なんだこの強さは……! これが将官の腕力かよ!?」

 パニックに陥る暗殺部隊。

 無理もない。彼らが相手にしているのは、机に座って命令を下すだけの軍人ではない。

 かつて広島・呉の闇社会を暴力とカリスマで統一し、路地裏の鉄火場で無数の修羅場を潜り抜けてきた、本物の『暴走族総長』なのだ。

 そこに「北辰一刀流」の剣術理合が乗った鉄パイプは、狭い路地裏において、いかなる名刀よりも恐ろしい「死神の鎌」であった。

「どうした、ポエム野郎ども。お前らの言う『名誉ある玉砕』ってのは、こんな暗い路地裏で泥水すする事だったのか?」

 坂上は、返り血で頬を汚しながら、獰猛な牙を剥き出しにして嗤った。

 背中に背負った『阿吽の仁王像』が、闇夜の中で業火を噴き上げているかのような錯覚を暗殺者たちに与える。

「天誅を下すんじゃなかったのかよ。……来ねぇなら、こっちから行くぞ」

 ゴキッ、バキィッ。

 それから数分間、赤坂の路地裏に響いたのは、高尚な理念のぶつかり合いなどではない。

 一方的で、暴力的で、一切の慈悲もない『路地裏の喧嘩リンチ』の音だけであった。

     * * *

「……あがっ……ひぃっ……!」

 路地裏の石畳には、三十名の暗殺者たちが、手足をあらぬ方向に曲げられ、折れた軍刀と共に折り重なって呻いていた。

 死者はいない。だが、全員が二度と刀も銃も握れないほど、物理的に完璧に「破壊」されていた。

 坂上は、彼らの中心で、血塗られた鉄パイプを肩に担ぎ、新しいタバコに火を点けた。

「……軍隊ごっこは終わりだ。お前らの大好きな『大和魂』とやらは、俺の鉄パイプより脆かったな」

 坂上は、足元に転がっていた数本の「へし折られた軍刀」を無造作に拾い集め、軍用外套でくるりと包んだ。

「さて……。この『おもちゃ』、明日、持ち主にきっちり返しに行ってやらねぇとな」

 夜の帝都。

 精神論の刃を、圧倒的な暴力で粉砕した「理性の化け物」。

 翌日、大本営の会議室で、東條英機をはじめとする首脳陣は、かつてない究極の「絶望」と「恐怖」を味わうことになる。

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