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『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』  作者: 月神世一


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EP 5

空を灼く煙(航空優勢の無力化)

「……戦車旅団が、全滅しただと?」

 インパール市街地、第14軍司令部。

 スリム中将は、前線から届いた絶望的な報告に、魂が抜けたように椅子に崩れ落ちた。

 虎の子のM4シャーマン100両が、一発の対戦車砲弾も受けることなく、泥と手作り爆弾によって鉄屑と化したのだ。

「閣下……もはや地上戦力で奴らを止めることは不可能です。ジャングルに近づけば、またどんな罠が待っているか……」

 副官スティーブンスの悲痛な声が響く。

 スリムの目から、理性の光が消え、代わりに狂気じみた焦燥の色が浮かび上がった。

 地上で勝てないなら、空だ。それも、生半可な攻撃ではない。ジャングルごと奴らを焼き払う、徹底的な破壊の嵐しか残されていない。

「……第3戦術航空軍に連絡。使用可能なすべての『重爆撃機』を出撃させろ」

 スリムは、血を吐くように命じた。

「戦闘機ではない。B-24リベレーター(米軍供与機)やウェリントン爆撃機だ。インパール平原の縁にあるジャングル一帯を、更地になるまで絨毯爆撃カーペット・ボミングせよ。……木の一本、草の一本も残すな!!」

 それは、名将の冷静な判断というよりは、追い詰められた獣の最後の咆哮であった。

     * * *

 ブォォォォォォォン……。

 数時間後。インパール平原の空気が、不気味な重低音に震え始めた。

「か、閣下! 空をご覧ください! あれは……!」

 佐藤師団長が、空を見上げて絶句した。

 西の空から現れたのは、これまでのような戦闘機の編隊ではなかった。

 太陽の光を遮り、空を真っ黒に埋め尽くすほどの、巨大な多発重爆撃機の大群。数十機、いや百機近いかもしれない。それぞれの機体に、数トンの爆弾が満載されている「空飛ぶ要塞」の群れだ。

「……来たな。スリムの最後の切り札だ」

 ジャングルの縁の陣地で、坂上真一(牟田口)は、空を覆う死の影を冷静に見上げていた。

 咥えたタバコの煙が、風になびいている。

「あんなものが頭上で爆弾をばら撒けば、どんな堅牢な地下壕も生き埋めだ。……物理的な破壊力だけなら、大英帝国は世界一だな」

「ど、どうなされますか!? 全軍を後退させますか!? 対空砲火も、これだけの数では焼け石に水です!」

 佐藤が焦りを隠せない。史実の日本兵ならば、この絶望的な光景を前に、戦う前から心が折れていただろう。

 だが、坂上はニヤリと笑い、足元のドラム缶を軍靴で叩いた。

「慌てるな。……現代イージスの戦争の基本を教えてやる。『見えない敵は撃てない』。それだけだ」

 坂上が指差した先。ジャングルの境界線に沿って、数キロにわたり、奇妙な山が築かれていた。

 雨季の間に切り倒し、たっぷりと水分を含んだ「生木の山」。そして、その上には、先日の夜襲でイギリス軍から奪い取った、質の悪い「重油」がなみなみと注がれたドラム缶が配置されている。

「工兵隊! 準備はいいな!」

 坂上の号令が響く。

「野郎ども、着火だ! 盛大に狼煙のろしを上げてやれ!!」

 ドォォォォンッ!!

 合図と共に、工兵たちが火炎瓶や点火薬をドラム缶に投げ込んだ。

 瞬間。インパール平原の縁が、紅蓮の炎に包まれた――のではない。

 水分を含んだ生木と、不純物の多い重油が不完全燃焼を起こし、この世のものとは思えないほど濃厚で、ドス黒い「煙」が爆発的に噴き上がったのだ。

 モクモクモクモクッ……!!

 黒煙は生き物のように膨れ上がり、風に乗ってインパール平原の上空へと広がっていく。

 わずか数分で、太陽の光は遮られ、真昼の平原は不気味な薄暮のような闇に包まれた。

「なっ……!? なんだこの煙は!?」

 上空のB-24爆撃機のパイロットたちは、眼下に広がった光景に愕然とした。

 目標であるはずのジャングルの境界線が、巨大な黒い雲海の下に完全に覆い隠されている。

「くそっ! 何も見えん! これでは照準が合わせられないぞ!」

「高度を下げろ! 煙の下へ潜るんだ!」

「馬鹿野郎! 視界ゼロの煙の中で、ジャングルの木々に激突する気か!?」

 無線がパニックに陥る。

 絨毯爆撃は、目標エリアを視認し、編隊を組んで正確に投下しなければ効果がない。盲滅法に落とせば、味方のいるインパール市街地に誤爆する危険すらある。

「……アーケード作戦(爆撃中止)! 全機、爆弾を投棄して帰還せよ! 繰り返す、作戦中止だ!」

 爆撃隊の指揮官が、悔しげに撤退を命じた。

 ドス黒い煙幕の下。

 爆音を響かせながら、一発の爆弾も落とせずに旋回して去っていく巨大な爆撃機の群れを見上げ、坂上はゆっくりと紫煙を吐き出した。

「……安いもんだ。ドラム缶数百本の廃油と生木で、大英帝国の戦略爆撃を封じ込めたんだからな」

 現代のハイテク兵器を知る男が選んだのは、最も原始的でありながら、この状況下で最も効果的な「環境制御スモーク」による防空システムであった。

「見事です……! まさか、空を煙で焼いてしまうとは!」

 佐藤師団長が、信じられないものを見る目で坂上を見つめる。

「……これで、奴らの手駒はすべて尽きた」

 坂上は、煙に覆われた薄暗い平原の向こう、インパール市街の方角へ視線を向けた。

「戦車も、爆撃機も通じない。……今頃スリムは、司令部で震え上がっている頃だろう」

 坂上の瞳から、J5の冷徹な光が消え、獲物を追い詰めた「元・暴走族総長」の、底知れぬ獰猛な色が浮かび上がった。

「佐藤。……仕上げにかかるぞ。第36話。奴の最後の希望である『補給線コヒマ』を、物理的にへし折ってやれ」

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