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『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』  作者: 月神世一


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EP 5

奪還した命と、鉄パイプの死神

 豪雨が降りしきる深夜のチンドウィン川東岸、『前進陣地イージス』。

 泥濘でいねいに車輪を取られながらも、ヘッドライトを消した数台の軍用トラックが、唸りを上げて陣地内へと滑り込んできた。

「……閣下! ご無事で!」

 ずぶ濡れになりながら待機していた佐藤師団長と久野村参謀長が、先頭のジープから降り立った巨漢――坂上真一(牟田口)に向かって敬礼する。

「おう。待たせたな」

 坂上は、泥だらけの軍用外套レインコートを脱ぎ捨てながら、後続のトラックを親指で指し示した。

「荷台に、ラングーンの兵站監部から『徴収』してきた特効薬キニーネと、大量の缶詰、それに真水用の浄水剤が積んである。……全量だ。一錠残らず、今すぐ野戦病院へ運べ」

「全量、でありますか!? おお……おおおッ!!」

 荷台の幌が開けられ、ぎっしりと積まれた木箱を見た瞬間、出迎えた兵士たちから地鳴りのような歓声が上がった。

 これで、高熱に苦しむ仲間たちが助かる。絶望の淵にあった陣地に、再び強烈な「生」の光が灯ったのだ。

 その歓喜の輪の隅で、トラックの荷台から泥水の中へ、ボロ雑巾のように蹴り落とされた男がいた。

「ひぃっ……! い、痛い……泥が、泥が口に……!」

 将官の軍服を剥ぎ取られ、みすぼらしい二等兵の軍衣を着せられた小太りの男。汚職の元凶であった元・兵站監の黒田である。

「おい、新入り。ここで寝てたらイギリス軍の砲弾の的だぞ」

 坂上は、這いつくばる黒田の頭を軍用ブーツの底で踏みつけ、泥の中に顔を沈めさせた。

「明日からお前は、この陣地の便所掃除と、塹壕の泥掻き係だ。飯は一日一回、塩抜きのお粥だけだ。……俺の若い衆(兵士)が味わった地獄を、骨の髄まで堪能しろ」

「あべぇっ……! ゆる、許して……!」

 無様に泣き叫ぶ黒田を冷酷に見下ろし、坂上は佐藤師団長に顎でしゃくった。

 佐藤は満面の、そして極めて悪意に満ちた笑みを浮かべ、黒田の首根っこを掴んで暗い塹壕の奥へと引きずっていった。

     * * *

 数時間後。野戦病院壕。

 特効薬の投与により、高熱にうなされていた兵士たちの震えは嘘のように引き、彼らの顔には赤みが戻り始めていた。

「……閣下」

 あの若い一等兵が、ベッドから身を起こし、視察に訪れた坂上に向かって涙を流しながら合掌した。

「閣下が、俺たちを見捨てずに……自ら薬を取りに行ってくださったと聞きました。……ありがとうございます。俺の命は、牟田口閣下のものです」

「俺たちは、死んでも閣下について行きます!」

 周囲の兵士たちも、次々と起き上がり、坂上に向かって拝むように頭を下げる。

 その瞳に宿っているのは、もはや単なる上官への敬意ではない。絶対的な「救世主(神)」を見る、狂信的な光だった。

 坂上は無言で彼らを見渡し、短く「……休め。またすぐ出番が来るぞ」とだけ告げて、踵を返した。

 彼の胸中には、安堵と共に、冷たく研ぎ澄まされた「次なる標的」への殺意が渦巻いていた。

     * * *

 司令部壕。

 ズドォォォンッ! と、相変わらずイギリス軍の嫌がらせのような砲撃が陣地を揺らしている。

「……内部のダニは駆除した。次は、外のうるさい羽虫(イギリス軍砲兵)を黙らせる」

 坂上は、机の上に広げた地図の「敵砲兵陣地」を指差した。

「夜襲をかける。この豪雨と泥濘だ。敵はまさか、我々が重火器も持たずに『歩兵だけ』で陣地に浸透してくるとは夢にも思っていないはずだ」

「し、しかし閣下。敵陣地には重機関銃の陣地が構築されています。いかに夜陰に乗じるとはいえ、銃を撃てばすぐに察知され、蜂の巣に……」

 久野村が懸念を示す。

「だから、銃は使わん」

 坂上は、不敵に笑った。

「音を立てずに、敵の歩哨を一人ずつ『物理的に』刈り取っていく。部隊には、腕に覚えのある荒くれ者……そうだな、内地でヤクザや不良をやっていたような血の気の多い奴らだけを五十人集めろ」

 坂上自身、かつて広島・呉で暴走族を束ねていた「総長」である。

 泥まみれの路地裏での殺し合いにおいて、重火器よりも恐ろしい「暴力の形」を、彼は誰よりも熟知していた。

「閣下自ら、陣頭指揮を執られるのですか!? ならば、せめてこの『関の孫六』をお持ちください!」

 佐藤師団長が、自らの名刀(将校用軍刀)を差し出す。

 だが、坂上はその美しい白刃を一瞥すると、首を横に振った。

「不要だ。刀は骨を断てば刃こぼれし、乱戦のジャングルや狭い塹壕の中では長すぎて取り回しが悪い。……泥まみれの夜襲には、もっと『実用的』なものがいい」

 坂上は司令部壕を出て、陣地の隅にある廃資材置き場――破壊されたトラックの残骸の山へと歩み寄った。

 そして、太い腕を突っ込み、泥の中から「それ」を引きずり出した。

 ズシリと重い、一本の分厚い『鉄パイプ』。

 元はトラックの車軸か、あるいは強固なフレームの一部だろう。大人の腕ほどの太さがあり、表面は赤錆と泥にまみれている。将官が持つ武器としては、あまりにも下劣で、野蛮な代物だった。

「か、閣下……? なぜ、そのような鉄屑を……」

 絶句する幕僚たちの前で、坂上は鉄パイプを片手で軽く振り回し、その重量バランスを確かめた。

「俺は、剣術の心得があってな」

 ヒュンッ!!

 突如、坂上の巨体がブレた。

 踏み込みと同時に、鉄パイプが空気を引き裂き、凄まじい風圧を伴って横薙ぎに振り抜かれた。

 ただの力任せの暴力ではない。重心の移動と丹田の呼吸を完全に一致させた、武術の理合。

 北辰一刀流。

 その極意を、刀ではなく、無骨な「鉄パイプ」に乗せたのだ。

「……打撃武器こいつなら、刃こぼれもせず、泥に塗れても威力が落ちることはない。人間の頭蓋骨ごと、イギリス兵のヘルメットを叩き割るには最適だ」

 坂上は、鉄パイプを肩に担ぎ、獰猛な牙を剥き出しにして笑った。

 その姿は、大日本帝国陸軍の中将などではない。

 闇夜の裏路地を血で染める、最凶の不良総長――『鉄パイプの死神』が、ついに覚醒した瞬間であった。

「さあ、夜這いの準備をしろ。大英帝国の坊ちゃん共に、本物の『暴力』を教えてやる」

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