第31話 悪の組織の幹部といえば一触即発の関係性である
「カイナ、君を呼んだのは他でもない。ラゴウの監視役としての任を言い渡すためだ」
「0721番……ラゴウの、ですか。失敗を犯したとは聞いていましたが、何故自分が……?」
「君はラゴウにとって十剣の先輩であり、かつての教官と修練生でもある。お目付役として適任だとは思わないか?」
「それは……はい、そうかもしれませんが……」
チラリ、カイナの視線がこちらを向いた。
露骨に嫌そうな感情が込められていた。
おかしいな。真面目で熱心な修練生として好印象を与えていたはずだったんだが。
「……いえ、はい。承知いたしました。このカイナ・アスモダイオス、全霊を尽くして獅子王様の命を遂行してご覧にいれましょう」
「期待しているよ。ラゴウ、君にもね」
そういって、謁見の時間は終わりを告げた。
俺たちは王の間を後にすると、二人だけの通路で静かに歩を共にした。
「……あー、その、久しいな。0721ば……ラゴウ」
「0721番で構いませんが」
「いや、もうオマエも立派な団員でありワタシと同じ十剣の一員だ。かつての番号で呼ぶのは筋違いだろう。お目付役となった手前、そのまま敬語は続けてもらうが、立場上ワタシたちは対等だ」
「そうですか……なら気軽にラゴっちとでもラゴごんとでも呼んでください」
「呼ばんぞ?」
まずは小粋なジョークで場を温めるところから始めることにした。
原作でもラゴウはカイナ相手だと比較的礼儀正しく敬語口調だったので、少し馴れ馴れしくするくらいは許容範囲内だろう。
とはいえカイナとは修練生時代以降、そこまで接点がない。
アベリアとの契約における最重要人物である彼女だが、十剣にして教官でもあるためか日夜忙殺されていた。
そのせいで就任以降もあまり声をかけられなかったのだ。
就任から一年、ロクに進展がなかったからそろそろアベリアからも「おいオマエ、五年で計画を成就させると大言壮語吐いてたのはどこいったんですか。おい」とせっつかれていた。
ここまできたら後一年、本編ストーリーが終わるまで言いくるめて引き延ばそうかとも思っていたが、こうなったのなら行動に移さざるを得ないだろう。
そう考えればいい機会ともいえた。
フヨウの足止めに失敗する大ポカやらかした奴に飴を与えるのは癪だが、贋造魔剣を始め様々な魔道具の工作は全てアベリアに一任している。機嫌を損ねるのもマズイしな。
さて、原作通りならカイナとアベリアの関係は拗れに拗れまくっている。
ヒロインの一人が抱える最重要問題なのだから当然といえば当然だが、今回はあくまでライバルキャラ√。アベリア√ではない。
よってグランド√を参考にして、なるべく長引かないやり方で解決に向かっていきたいと思う。
何事も手短にいくのが一番だ。
「それにお目付役といっても、ワタシにもまだいくつか仕事が残っている。確かオマエはサイフォス王立剣士学園に潜入中だったか、ならワタシも潜入するために相応の身分を偽装しなくてはならない。処理する書類が山積みなんだ。実際に面倒見るのは少し先になるだろう」
「大変ですね」
「ああ、お陰で寝不足だ。誰かさんが余計な仕事を増やさなかったらもう少し余裕もあったんだがな」
「フ、道理で化粧ノリが悪いと思いました」
ぶん殴られた。
前が見えねぇ。
おかしいな。愚痴には共感しつつ軽妙なトークで笑いに変えるのが鉄板のはずなんだが。
「やっぱりオマエ苦手だわ……」
そういって、彼女は一人足早に去っていった。
うーむ、前世で部活の先輩や顧問に対してしていたような言動を心がけたんだけどな。
でもよくよく考えてみたら、前世の俺は孤高を好む一匹狼で態度は悪いが実力で黙らせるタイプのキャラ付けでいたんだった。
他人と深く接した経験皆無だわ。
そりゃコミュ力が育ってないわけだ。
「孤高系ライバルに憧れて自分から人に好かれようと動いたことがないのが仇になったか……っ」
今度からは下手に軽口を叩かないようにしようと心に決めた。
……しかし、やっぱり苦手とはどういうことだろうか。修練生時代は熱意ある模範生を演じられていたはずだが。
「うーん、謎だ」
まあ分からないことを考えても仕方がない。
切り替えていこう。
今回は失敗だらけでシャクヤに俺の存在を印象付けることも「ただでさえ強いのに魔剣を持っていたらどれほどの……!」展開も叶わなかったが、まだ共通ルートが半分も終わってない頃だ。
挽回の余地は十分にある。
ひとまずカイナのことはアベリアにはまだ伝えないでおくか。それくらいのお預けはさせてもらってもいいだろう、死にそうになったんだから。
「──よォ、第九位。無様な面ァ晒しやがって、失敗のお咎めでも受けたのか?」
「……貴様は」
痛む鼻を押さえて歩いていると、廊下の壁にもたれかかる人影に声をかけられた。
十剣第八位エアフォルク・アハトゥングス。
俺の一つ上の地位にいる、オラオラ系狂犬幹部キャラだった。
「エアフォルク・アハトゥングスか」
「エアフォルクさんだ、三下」
「そうか。この顔の傷は……カイナ・アスモダイオスにつけられたものだ」
「へェ、あの鬼教官に。そォいやテメェは第四位にしごかれた世代か、その繋がりか?」
「ああ。失敗のペナルティとして彼女が俺の監視につくことになってな……雑談中に寝不足だと言うから、化粧のノリが悪いと同調してみたら何故か顔面をぶん殴られた」
「いや当たり前だろォが」
やっぱりそうなのか。
「それより何の用だ? 貴様には関係のない話だと思うが……野次馬根性でも働かせたか?」
「そォだなァ、当たらずとも遠からずだ。顔合わせの時にあれだけ啖呵切ってた奴が、大事な任務中にやらかして説教のために本部に呼び戻されたと聞いちゃ黙ってられねェだろ?」
エアフォルクは意地の悪そうに口元を歪めると、
「無様すぎて、嗤わずにはいられねェからなァ」
これは……! 間違いない。
悪の組織あるある『失敗した幹部キャラを別の幹部キャラが笑いにくる』展開……!
原作だとゼンゼが率先してやってた覚えがあるが、まさかエアフォルクが煽ってくるとは。意外、ではないな。割とそういうとこあるキャラだ。
「……成程、随分暇と見える」
「あ?」
「そんな下らないことのためにわざわざここまで足を運んだのだろう? 暇と言わずして何と言う。──その体たらくでは、俺たちに追い抜かれて再び十剣最下位に転落するのも時間の問題だな。エアフォルク・アハトゥングス」
直後、本部基地の廊下が爆ぜた。
エアフォルクの踏み込みによる衝撃が、堅牢な本部の建材を容易く砕いたのだ。
「同期の奴らにちやほやされて、第一位にも気に入られてるからって調子乗ってンじゃねぇぞ。口先だけの雑魚が、どうせ生易しいエリート街道歩かせてもらってきたンだろォ?」
「そう思うなら刃を抜いて確かめてみろ。……それとも、口先だけの雑魚には難しいか?」
「ハッ、そォかそォか──殺す」
互いに腰に下げた魔剣の柄を握り締める。
やはり贋作魔剣などとは違い、長年振るってきた妖刀『永闇』は俺の手によく馴染む。
これならいつ抜剣されても対処できる。
張り詰めた空気が漂い、辺りを静寂が包む。
身じろぎ一つが戦闘開始の合図となり得る状況下、エアフォルクの瞬きすら見逃さず注視する。
そして。
奴の下緒に付けられた青い花の硝子細工が揺れ、互いの刀身が鞘から僅かに覗いた、その瞬間。
「はいはい、そこまでにしときなさいな。仮にも十剣が喧嘩なんてみっともないわよ?」




