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第32話 順位にこだわる幹部キャラっているよね

 いつの間にか背後にいた何者かが、鯉口を切らんとしていた俺の腕を抑えていた。


 慌てて振り返る。そこにいた紅紫マゼンタの髪色をした彼──否、彼女は視線を合わせると、妖しい笑みを湛えた。


「貴様は……十剣第七位シュヴェルト・ズィーベンコル・マクアルトか」


「やだ、フルネームだなんて仰々しい。コルちゃんって呼んでくれていいのよ?」


「断る。馴れ合いは好かん性質たちでな」


「やん、フラれちゃった」


 優しげな口調とは裏腹に、筋肉質な体に相応しい腕力によって柄はピクリとも動かせない。


 エアフォルクに気を取られていたとはいえ、こうも簡単に背後を取られるとは情けない限りだ。

 いや、流石は十剣シュヴェルトの一人といったところか。


 見ればエアフォルクの方は、どこからか伸びてきた鎖によって雁字搦めにされていた。


「て、テメェ……!! 離しやがれ第六位ゼクス!!!!」


「えー、なんで? 獅子王様がいる王の間の近くで抜剣しようとした不届者を制圧してるだけなんですけどー? ってか自力で抜け出せばいいじゃーん? あ、できないのかーごめーん」


「こンのクソチビがァ……ッ!!」


 身体中に包帯を巻いた緑髪の少女が甲高い声で笑う。

 奴を拘束している鎖は十剣第六位シュヴェルト・ゼクスゼンゼ・モルスが持つ鎖鎌の魔剣によるものだった。


「まったく。若者らしく血気盛んなのはいいことだけど、味方同士で刃を向け合うのはよろしくないわ。エアフォルク、あなたの方が先輩なんだから、もっと余裕を持って接しなさいな」


「ハッ、味方同士だァ? この組織はいつからンな甘ちゃんの集会所になったんだ? この世は弱肉強食。強ェ奴が上に立ち、弱ェ奴はそれに従う。そンだけだろが」


「ゼンゼに縛られながら言う台詞じゃないけどねー、ぷふふ」


 三人の間で繰り広げられる会話劇に能面じみた無表情を保ちつつ、内心で狂喜乱舞する。


 強さ至上主義を謳う狂犬キャラ、それを諌めるお姉さん系オカマキャラ、煽って楽しむサイコな子供キャラ……。


 十剣シュヴェルトは皆、表面的にはよくある属性をそのまま持ってきたようなキャラ性をしているのが特徴だった。


「ラゴウちゃんも、やる気満々なのはいいけどすぐ相手を挑発しちゃうのは悪い癖だわ」


 このまま観葉植物に徹しようかと思っていたが、会話を振られたので応じることにする。


「挑発? 事実を言ったまでだ……それに奴の言葉も一理ある」


「というと?」


「所詮この世は弱肉強食。強きが勝者に、弱きが敗者になる。……残念だ、エアフォルク・アハトゥングス。もしここで戦っていれば、俺が第八位アハトになれていたというのに」


「──テ、メェ……ッッッ」


 それだけ残して、俺はその場を後にした。

 背後から感じる敵意を無視して悠然と立ち去る。

 幾つかの曲がり角を過ぎて、完全に人の気配がなくなったことを確認して息を吐いた。


 ふう。

 最っっっっっ高だった……。


「これだよこれ、俺はこういうやり取りがしたかったんだよ……!」


 ラゴウにとって、黒十字騎士団はいつか裏切って壊滅させる予定の組織だ。


 孤高という名のぼっちキャラでもあったので親しい間柄の人間もおらず、他幹部とヒリヒリしたやり取りを交わしていた。

 俺もそれに従って、十剣シュヴェルトの面々にはなるべく刺々しい態度でいたいと思う。


 正直エアフォルクが難癖つけてきた時めちゃくちゃ興奮した。

 恐らくヤンキーよろしく下手やらかした下っ端に焼きを入れて上下関係を教え込ませようという企みだったのだろう。


 流石は良く言えば共通ルートのラスボス、悪く言えば共通ルートで処分されるかませ犬だ。

 とはいえあれで根は割とまともな面もあるし、過去のことを考えれば割と好きな方ではあった。

 程々にヒリヒリとした関係を築きあげたいものだ。


 一時はどうなることかと思ったが、こうして悪の組織の幹部キャラムーブを楽しめたのだから寧ろお釣りがくるというものだ。

 高揚から無意識に鼻歌を鳴らして、


「──楽しそうだね、ラゴウ」


「ああ、予想外の痛手は受けたが全体的に評価すれば上々といったとこ……ろ……」


 いつも聞き慣れた声に油断して、特に疑問にも思わず素直に答える。遅れて数秒後、気付く。

 今の声の主は誰なのか。

 ゆっくりと後ろを振り向いた。


「じゃ、帰ろっか」


 目尻を赤くしたセツカが、静かに立っていた。



「それで、話とは何かな。エアフォルク・アハトゥングス」


 ラゴウが去ってから少し経過した王の間にて。

 玉座に腰掛ける獅子王テンマ=ジナの眼前にかしずく、一人の男の姿があった。


「……実行に向けて最終段階に移行している計画について、例の提案を実現に移したく願い申し上げに参りました」


「ふ、ククッ」


「? な、なにか」


「いやなに、普段あれだけ粗暴な君が礼儀正しく敬語を話しているというのが中々に愉快で慣れなくてね。すまない」


 敵幹部の狂犬系キャラがボスには恭しく丁寧に接する。創作物において手軽にギャップを狙えるその属性は、とうのボス本人にも効いたようだった。

 最もそれは心からの尊敬というより動物の群れにおける順位制、上下関係故なのだが。


「計画に用意されていた魔物とは別の『ある魔物』を使いたい、だったか。……今回はあくまで例の『結界』の試験運用も兼ねた様子見だ。強力な魔物はそれだけ察知される危険も高まる。向こうにはあの『天眼フヨウ』もいる。計画失敗のリスクを背負ってまでするメリットは?」


「無論、太陽剣『ウテナ』の奪取です」


 野獣の如き鋭い眼光が獅子王の視線と混ざる。

 その瞳に宿る感情の色をどう読み取ったのか。テンマ=ジナは面白そうに口角を吊り上げると、


「いいだろう、申請を許可する。但し計画失敗の責任は全て君が負うこととする。黒十字に敗者は不要だ。大言壮語を述べたのなら必ず遂行するように。でなければ……」


 二の句を継ぐ必要はなかった。その先は黒十字騎士団に属する者なら言われずとも理解している。


「は、承知しております」


 そして今更意識するまでもない常識でもある。

 何故なら十剣シュヴェルトとは、そんな黒十字において常に成功を収めてきた一握りの強者達に与えられる称号なのだから。


「失礼いたします」


「ああ。……フ、()()()()()()。エアフォルク」


 去り際、獅子王の言葉は聞き逃して。

 用事を終えたエアフォルクは一礼と共に退室すると、目的の場所へ向かった。


第九位(ノイン)の野郎が失敗した今、ここで俺が手柄を上げりゃ昇格だって夢じゃねぇ」


 そこは黒十字騎士団の本部地下だった。

 支部同様に数多の魔物が飼育される地獄の底で、苛立ちを隠そうともせず歩みを進めていた。


「俺が第八位(アハト)になっていた、だァ……? 格下の癖に、どこまでも図に乗りやがってェ……!」


 本来ならばエアフォルク・アハトゥングスはここまでラゴウに敵意を向けることはなかった。

 何故なら原作のラゴウはあくまで第九位ノイン相応の扱いでしかない。

 明確な格下とまではいかずとも、エアフォルクと大差ない実力でしかなかった。


 だが、この世界のラゴウは違う。

 過剰な特訓によって既に十剣シュヴェルト上位レベルの力を得ており、第一位アインスであるスイゲツにも目をかけられている。

 自分より格下のはずの存在が、だ。


 それが上下関係にコンプレックスじみた執念を燃やすエアフォルクにとって、許しがたい理由の『一つ』となってしまった。


 彼の胸中に巣食う感情の正体。

 とどのつまり、それは『焦燥』だった。


「テメェが下で、第八位おれが上だ。思い知らせてやる、第九位ノイン……ッ!」


 エアフォルクが鉄檻に触れながら怒りを燃やす。

 野獣が、獰猛な牙を剥いた。

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