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第30話 ありがとうラスボス

 隠密暗殺部隊長、ラシード・シーシュ。

 補給整備部隊長、『天眼(てんげん)』フヨウ。


 原作ではちょっとしたイベントでしかなかった襲撃事件は、二名の魔剣使いと会敵して死にかける命がけの事件となった。


 当初は『幕』の中で完結するはずだった小事は、王国を支える表と裏の屋台骨の干渉によって大事と化した。

 お陰で黒十字騎士団にも不手際がバレた。


 『隠密暗殺部隊』は王国でも一部の者しか知らない秘中の秘であり、『オーベルテューレ』の魔力痕跡も消せたので同じくバレてはいないが、それ以外はほぼバレてる。


 なので現在、獅子王及び側近であるミラに絞られている真っ最中だった。


「さて、十剣第九位(シュヴェルト・ノイン)ラゴウ。何か申し開きはありますか?」


「ございません。すべて私の不徳の致すところです」


「よろしい。それでは手始めに電撃罰を与えます」


 設置された魔道具から放たれた高圧電流が俺の体を奔る。肉が焦げ、骨が軋むような痛みが襲う。

 もちろん常人なら一瞬で焼けて死ぬレベルの電力だ。悪の組織のこういうところはクソだと思う。


「ぐっ、ふぅ……!!」


「全く、いくら他者の剣を模倣する正体不明の魔剣使いとはいえ、まだ大して使いこなせてもいない素人相手に手間取った挙句、『王国最強』の介入を許すとは……無様極まりないとはこの事ですね」


 よく回る舌をお持ちのようで。

 そう言い返したくなった衝動をグッと堪え、申し訳なさそうに頭を下げ続ける。


 だがこのままでは獅子王に見限られて背中を刺されるデッドエンドへのフラグが一つ立ってしまうのもまた事実。

 なにか弁明の糸口はないか。

 考えた結果、かろうじて反論する。


「……確かに形式上は失敗ですが、実質的な失敗ではございません。敵方の情報も一つ掴んで参りました」


「ほう? だからこれ以上の処罰は取りやめてほしいと? 随分面白い言い訳ですね」


 くそう駄目か、やっぱり歴戦の悪の組織を騙くらかすには俺の頭脳じゃ足りないのか。


 今回はあくまで武力偵察が主の襲撃命令、ただ失敗するだけならシャクヤの強さの程を報告するだけで良かった。

 ラシードによる横槍も、逆に奴の情報そのものが成果となるため問題ないと判断した。


 だがフヨウとの遭遇は完全な予想外。

 ほんのわずかに歯車が狂っていれば捕縛され、情報を吐かされていたかもしれない。

 それは黒十字の騎士として致命的な失敗だ。


 バクバクとうるさい心臓の音に思考をかき乱されていると、獅子王がミラを制止した。


「そこまでにしておきなさい、ミラ。確かに『失敗』を犯したのは事実だが、そう責めるほどのことでもない」


「しかし……! これまでの『正体不明の組織』という認識から完全な敵対組織として認知されたうえ、謎の魔剣の奪取も叶わず、挙句『天眼』に捕えられる瀬戸際でした。ただいたずらに『ウテナ』奪取のハードルを上げただけです!」


「構わない。むしろそれならそれでよいとして、今回の指令を下したのだから」


「え……?」


 えっ。


「考えてもみたまえ。黒十字騎士団の名が表に出たのは、決まって例の少年少女……シャクヤとラニに関する事件だ。アレクサンドラ王女への狙いは露見していない」


「それは……そうですが」


「そして今回、王国最強たる『天眼』フヨウ……そしてもう一人の魔剣使いとの接触があったと聞いている。そうだろう?」


 何が言いたいのかイマイチ掴めないが、獅子王から話を振られたので素直に答える。


「……は、鞭のようにしなる魔剣を操る使い手と遭遇しました。曰く、例の二人を監視していたと」


「もう一人の魔剣使い……? 王国に忍び込ませた間者(スパイ)からはそのような報告受けていませんが」


「しなる鞭のような魔剣、それはおそらく毒蛇剣『ナーガラージャ』だろう。何節にも分かれた刃が強靭な鋼紐によって繋がれた武器だ」


 流石は老獪なラスボスだけあって魔剣に関する知識は豊富だ。あるいは原作知識がある俺よりも知悉しているかもしれない。


「サイフォス王国が保持する魔剣六本のうち、最後の一本は詳細不明のままだった。しかし此度の作戦でそれも判明した」


 さらに、と獅子王は指を一本立てた。


「王国にとって秘すべき懐刀であろう存在が、例の二人の監視に回っていた。ミラ、君が王国の人間だったとして、我々の間者でさえ認知していなかった暗部の魔剣使いを配置するなら、どこに置いておくのが適当だと考える?」


「……アレクサンドラ王女の護衛につけるのが最適かと思われます。彼女はまだ未熟。万が一のことを考えれば、そうするのが妥当かと」


 実際、ラシードはアレクサンドラの執事として普段から彼女の側に付き従っている。

 今回のケースは異例だったといえるだろう。

 まったくの無策ではないだろうが、王女の護衛が一時手薄になったということなのだから。


「つまり本来王女に割くべき人員を例の二人に回していたということ。加えて今回の事件、向こう側はますます『狙われているのはシャクヤとラニの二人である』と認識しただろう」


「……理解しました。つまり今回の一件で、向こうが王女に割く護衛のリソースを削れたと」


 シャクヤとラニは特別だ。

 主人公というメタ的視点を除いても、魔剣を模倣可能な魔剣というのは、この世界の長い歴史上で類を見ないオンリーワンの性能をしている。


 戦力的にも是非手元に置いておきたい。

 となると、相応のリソースを割いてでも守りたいと思うのが自然だった。


「彼らの後見人は『天眼』フヨウだ。となると二人の護衛もまた彼女が請け負う可能性が高い」


「……王国最強が王女の護衛に就かないとなれば、太陽剣『ウテナ』の奪取においてもかなり有利となる……」


 ミラが瞳を閉じ、思案に耽る。

 今し方の説明を咀嚼したうえで、今後の作戦にどのような影響をもたらすのかを頭の中で組み立て直しているのだ。


 フヨウの実力は飛び抜けている。

 彼女の存在が国家間の戦争に対する抑止力になるレベル、といえば凄まじさが分かるだろう。


 サイフォス王国と犬猿の仲である西のエスパーダ帝国はここ十年国境沿いで小競り合いを起こすくらいしかできていないし、シュテッケン法国を手中に収める黒十字ですら武力による『ウテナ』奪取を選択肢から外してきたくらいだ。


 こちら側の最強たるスイゲツの爺さんですら五分五分の勝負にならざるを得ない怪物。

 そんな化け物の動きを、シャクヤとラニを通じてコントロールできるかもしれない。


「……獅子王様の言う通り、『天眼』もしくは正体不明の魔剣使いを王女護衛の想定から外せるのは明確な功利といえます」


「ああ。そして──それが分かっていたからこそ、先程ラゴウはこう言ったのだろう。形式上の失敗であっても実質的な失敗ではない、と。実際、威力偵察としては申し分ない成果だ」


「な……そうなのですか、十剣第九位(シュヴェルト・ノイン)ラゴウ?」


 えっそうだったんですか。

 はえ〜随分と頭が回るんだなぁ十剣第九位(シュヴェルト・ノイン)ラゴウは。

 さすが俺の推しだ、ははっ。


「ふっ」


 現実逃避も程々に、不敵な笑みを浮かべる。

 下手に言葉を発すると墓穴を掘りかねない。

 ここはそれっぽくラゴウっぽいクールなキャラらしい振る舞いをしておこう。


「……確かに、無策であの『天眼』から逃げられるとも思えません。あらかじめ失敗の可能性を想定して対策を打っていたと考えるのが妥当……どうやら私だけが話についていけていなかったようですね。汗顔の至りです」


 大丈夫、俺もついていけてなかったから。


 ありがとうラスボス。

 お前に見限られないために必死に言い訳を考えていたのに、まさか獅子王自身が救いの手を差し伸べてくれるなんて思いもしなかった。

 

「しかし、それならば最初から弁明しておけば電撃罰も受けずに済んだでしょう。なぜ敢えて受けたのですか?」


 そんなの何の言い訳も思いついてなかったからに決まってるじゃんアゼルバイジャン、とは言えなかった。

 咄嗟にそれっぽい言い訳を並べ立てる。


「……どちらに転んでも良し、されど失敗は失敗。罰も甘んじて受けるのが筋というものでしょう」


「……見事な忠誠心ですね。基礎修練生の頃から耳にはしていましたが、黒十字に貢献しようという想いが見て取れます。先程の非礼を詫びましょう。無様極まりないと罵倒したこと、ここに謝罪します。貴方は相当に知恵が回るようだ」


「過分な評価をいただき大変恐縮です」


 まあ本当に無様極まりなかったんやけどなブヘヘヘヘ。


「それでは失敗の罰は与えることとして、いかがいたしましょう。獅子王様」


「ふむ……アレクサンドラ王女の学園入学は、我々黒十字騎士団の悲願を達成しうるに絶好の機会だ。他の条件も鑑みれば、『今回こそ』太陽剣の奪取に成功したい。その為に現在、黒十字では団員育成の為の人員も作戦実行に回している」


「……つまり?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ。彼女を君の監視につけよう。懐かしの顔だろう、精々初心を思い出して任務に励んでくれたまえ」


 はてな、心の中で首を傾げる。

 基礎修練を終えてからはほとんどスイゲツの爺さんに鍛えられていたから、修練生時代のモブ教官の顔なんて一々覚えていなかった。

 

 必死に記憶の底をさらっていると、背後から足音が響いてきた。

 誰だろうか。振り向くと、そこにいたのは。


「──黒十字騎士団所属、十剣第四位シュヴェルト・フィーアカイナ・アスモダイオスです。お呼びでしょうか、獅子王様」


 腰まで届く赤毛を揺らす長身の女性。かつての教官であり、現在の同僚である人がいた。

 ……ここでくるかぁ。

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― 新着の感想 ―
まあ、うまく行けば妹について話せるのかも
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