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第25話 学園の裏で暗躍する影(仮)

side:サクナ


 ついに始まりを告げた『十剣(シュヴェルト)』としての大役、決して失敗を犯せぬ重要な任務。

 同時に黒十字へ反旗を翻す好機となる大仕事。

 わたくしはそんなセツカさんとラゴウさまの補助に徹し、お二人の支える柱となるのです。


 ……しかし、どうやら初日から予想外の事態が発生したようでした。


「魔剣を模倣(コピー)する魔剣。以前黒十字が取り逃したっていう代物みたい」


 魔剣とは各々一本しかない強力な武具。

 アベリアさまがお作りになる贋造魔剣(ファルシュ)でようやく休眠状態の魔剣と同程度といえば、その凄さもお分かりになられるでしょう。


 さらに個人の適性によって扱える魔剣も違ってくる。

 それを無視して全ての魔剣を模倣できるというのであれば、脅威的としかいいようがありません。


 お二人はそんな彼らの監視の任も仰せつかったようで、まずは様子見にとラゴウさまが接触を果たしました。

 ……そのこと自体は、よいのですが。


「〜♪」


「なんかラゴウめっちゃ機嫌良くない?」


「そうですね……」


 魔剣科の生徒のみが住まう特別学生寮、ラゴウさまに与えられたお部屋にて。


 シャクヤさまの様子を見にいかれたラゴウさまが、史上類を見ないほどの上機嫌で帰って参りました。

 必死に隠そうとはしておられますが、口元はヒクヒクと動き、無意識に鼻唄まで歌っておられます。


「ふふ……原作の台詞も言えた……次は明日の夜の……強者アピールをこれでもかとして……やっぱりライバルたるもの……最初は主人公を圧倒すべし……」


 ぶつぶつと、いつもの独り言も今日は一段とせわしなく呟いておられるようでした。


「シャクヤさまと何かあったのでしょうか……?」


「模倣の子……そういえば教室で自己紹介する時も、何故かあの男の子を見て一瞬笑ってた。その後もやたら視線を向けてたし」


 紺青の髪と瞳を持つ、どこか幼さの残る顔立ちをした素朴な青年。

 まだ彼とは初対面で既知の間柄にないはず。

 それなのに妙に機嫌が良くなっている。

 ……ここから導き出される答え、といえば。


「まさか一目惚れ……? ラゴウは男色家だった……?」


 セツカさんがとんでもないことを仰いました。


「そ、そのようなことあろうはずがございません」


「でも私たちとずっと一緒に寝てるのに手を出してこないし。別にいいよって言っても「ラゴウはそんなことしない!」って急に一人称が自分の名前になったりするし」


「た、確かにアシハラでは男色など然程珍しいことでもありませんでしたが……」


 せめて女性も対象内でないと、その……困ります。

 いえ、わたしはあくまでラゴウさまの忠実な従僕であり使い捨ての駒でしかない身分であることは重々承知していますがそれはそれとして大変厚かましいこととは存じておりますが許されるなら一片の希望くらいは持って生きていたいと言いまするか……!


「ら、ラニさまを見ていたという可能性は」


異常性愛者(こどもずき)……」


 胸の内に黒いモヤモヤが渦巻きます。

 従者たる身で過ぎた想いであることは理解しています。

 している、はずなのに。


「……私は、他の人にラゴウが取られるなんて嫌。サク姉とラゴウ、二人とずっと一緒がいい。いきなり現れた他人に取られるなんて……許せない」


 そういうと、セツカさんはラゴウさまの下へと歩みを進めていきました。


「ラゴウ、どうしてあの模倣の子を気にかけてるの?」


「なに? どうしてもなにも黒十字から追加の命があっただろう。奴らの監視も任務のうちで」


「でも私たちといる時はそんな顔しないよね」


「えっこれそういうやつ」


 セツカさんは口付けを交わしてしまいそうな距離まで顔を近づけると、彼のお顔を両手で抑えました。


「ズルい……私たちの方がずっと長くいるのに……他の人を理由にそんな顔見せないで……怒った顔も、笑った顔も、悲しい顔も、嬉しい顔も……ラゴウの心からの感情は、全部私たちだけのものなのに」


 セツカさんにとっては、ほんの軽いお茶目な嫉妬心を働かせただけなのでしょう。

 しかし彼女は少々行きすぎる面がございます。

 事実ラゴウさまも困惑しているご様子。

 ここはわたくしが一肌脱ぐべきでしょう。


「セツカさん、いけません。何を想うもラゴウさま次第。我々はただ全てを受け入れるのみでございます」


「サク姉、でも」


「たとえラゴウさまがシャクヤさまをご寵愛なさっていたとしても、わたしたちは変わらず尽くすだけ。都合のいい駒にすぎないと弁えなければなりません」


 思うところがないわけではありません。

 しかし彼に誓った永遠の忠誠の前には、ひとえに風の前の塵に同じ。

 ただ粛々とラゴウさまの全てを肯定するだけ。


「そうですよね、ラゴウさま」


 宝石の如き赤珊瑚の瞳と視線を交わします。

 それだけで心が弾んで幸福感が湧き上がる。

 そうして、彼はゆっくりと口を開かれて、


「……なにか勘違いしてないか……?」



 明けて翌日、俺は授業で学園の演習場にいた。


 昨晩は大変だった。変な勘違いをされるわ抱き枕扱いで眠る羽目になるわで。

 女と仲良くしていたならまだ分かるけど同性のシャクヤ相手であんな勘違いするか普通。

 ……まあ別にいいけど。


 理想のラゴウエミュは達成できたし気分がいい。

 今にも叫びたくなる素晴らしい心地だ。

 いやっふうううううううう!!!!!(心の叫び)。


「魔剣科の担任を勤めさせていただくフヨウだ。よろしくね、少年少女たち」


 担任は分厚い丸眼鏡をかけた白髪の女、フヨウ。

 王国騎士団の整備補給部隊を率いる隊長だ。

 シャクヤとラニの後見人を務めていて──なんとビックリ、王国最強の剣士でもある。


 いわゆる味方側の最強キャラ枠。

 今の俺なら自分に理想的な有利環境を整え、知識チートを用いてようやく勝ち目が見えてくるレベルだ。

 スイゲツと同程度といえば分かりやすいか。


 原作ではその強さに加え、ケツとタッパと胸もデカいビジュアルで人気を博していた。


「実習助手のアベリア・アスモダイオスです」


 ちなみに横にアベリアもいた。

 魔剣の共同研究という名目で、扱いだけなら一応俺たちと同じ魔剣科の生徒として留学してきているのだ。

 それとなく目配せしておく。


「それじゃあまずは各々の魔剣を見せてもらおうか」


 一番手はアレクサンドラ王女だった。


「黎明に(おこ)せ『ウテナ』!!」


 万物を燃やす灼熱が演習場の石畳をも焼いていく。

 そう思われたが、しかし炎は石畳を焼くどころか焦がすことさえしなかった。


「『ウテナ』は燃やしたいモノだけ燃やす。むしろ味方には炎を通じて力を分け与えることすら可能よ!」


「……もしかして、あの試合の時に言ってた峰打ち云々って本当だったの? てっきり僕のこと完全に焼き殺しにきてたものかとばかり」


「わ、私のことを何だと思ってたのよ無礼者!」


 自業自得だと思う。

 今のところ完全に一昔前の暴力的なヒロインのそれだもんなぁ。

 あっても正直面倒なタイプではあるんだけど。


「はいはーい! 次はボクね! ボクのは嵐弓『ルドラストラ』! 名前通り弓の魔剣で、風と雷と雨の三種類の矢を放てまーす!」


 次はサルファ・モンスゥ。

 攻略ルートのないサブヒロインだが、メインヒロインに負けず劣らずの人気を博するキャラだ。


「荒天にはしれ『ルドラストラ』!」


 『颶風(ヴァーユ)』──貫通力特化の風の矢。

 『雷霆(ヴァジュラ)』──速度特化の雷の矢。

 『驟雨(ヴァルシャ)』──広範囲特化の雨の矢。


 手数重視の『驟雨(ヴァルシャ)』の一本一本ですら、巻藁を貫通し地面を穿つ威力を誇っていた。


「どや!」


 流石ムードメイカー、アレクサンドラの幼稚な負けん気に苦笑していたシャクヤへのフォローも完璧だった。


 お次はセツカだ。簡単に過冷却水を操る魔剣だということだけを紹介して終わった。

 俺も自分自身の情報は極力伏せることにしている。

 ミステリアスなクールライバル、これ最高。


「よしよし、これで四人の魔剣は披露し終わったね。『ウテナ』に『ルドラストラ』、『冰雨』に『永闇』……どれも素晴らしい魔剣だったなあ。気になるなあ、詳しく調べたいなあ。けれど今回の主役はやはり彼! というわけで真打登場、シャクヤ少年! ラニ少女!」


 紺青の青年と金髪の少女が演習場の中央に立った。


「少年の持つ魔剣は他者の剣を模倣(コピー)できる。何の変哲もない普通の剣は勿論、本来この世にただ一振りしか存在しない魔剣さえもね」


 懐かしい。ゲームでも『永闇』を使いまくったなぁ。


「彼らが学園に入学したのは、君達との交流を通してこの魔剣の性能を実験したいという上の思惑があってのことだ。予め了承してもらう」


 つまり彼女はこう言っているのだ。

 シャクヤの魔剣を通じてお前たちの魔剣の性能も丸裸にできるけど、呑み込んでくれるよな──と。


「はーい! そこら辺は諸々含めて大丈夫でーす!」


 それに対するサルファの返答も上手かった。

 諸々含めて大丈夫、という部分で既に国に相談して対応を決めていると言外に明かしている。

 俺達も乗っからせてもらおう。首肯で追従する。


「それはよかった。では少年、よろしく」


「軽っ……いいですけど」


 シャクヤは強引にことを進めるフヨウにあからさまな不満を見せつつ、剣に意識を集中した。


「いくよラニ──荒天に奔れ『ルドラストラ』」

「へんしーん!」


 気の抜けた掛け声と共に、光が発せられる。

 やがてシャクヤの手元にはサルファと同じ、雲を模した装飾の洋弓が握られていた。


「『雷霆ヴァジュラ』」


 速度重視の雷の矢が巻藁の的を刺し貫く。

 スキルも含めて完全再現だ。嵐弓は光の束となって解けると、元の白剣と少女に別れる。


「とまあ、こんな感じだ。多くの魔剣使いが魔剣を握った当初は扱いきれなかったように、熟練度まではコピーできないようだがね」


「なるほど、そんな弱点があったのね……!」


 熱心にメモを取る王女様。完全に打倒シャクヤに向けて舵を切っている。

 

 ……さて、これからどうすべきか。

 現状、アレクサンドラ√とラニ√の可能性は五分五分の状態に見える。

 どちらに進んでも対応できるよう、今のうちからライバル√の種蒔きを始めておくべきだ。


 表でシャクヤの物語が順調に進んでいることを確認しながら、裏での暗躍を進めるのだった。

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