信仰
"中央都市"五ヵ国の中心に位置する都市にて交流戦が開催される予定となっている。多くの人達が行き交い賑わっている場所は、普段は道路として開放されていたが、この日の為に閉鎖され歩道と化していた。
辺りを見渡せば様々な屋台が立ち並び、美味しそうな匂いを漂わせ客を次々に増やしている。そんな交流戦会場の前、休憩所としても使用出来る飲食スペースに座る二人の男達は、屋台で買い溜めしたと思わしき焼きそばやたこ焼き等に舌鼓を打っていた。
魔法省から派遣されて動くその二人は、普段から休みが取れない。その為、すぐに動けるように準備をしては待機していた。
「人が多いっすね、先輩。特に………」
「ああ、そうだな」
彼らが向ける視線の先に居る者達は、ほとんど森人族という人種で構成されていた。人口が多いとしても一種族に偏ることはほとんどない。鉱人族や獣人族も、行き交う者達の中に混じっているが、数では森人族である彼らには及ばなかった。
見る人が見たら異常だとは思う。だが、一切気にすることなく視線を逸らして足早に移動する者達ばかりで、警戒するほどでもないと思わせていた。実際に気にする程でもないだろう。老若男女問わず居る為、この場に存在している彼らが問題を起こそうにも暢気過ぎた。
満面の笑みを浮かべる家族連れに、初々しいカップル達、そして複数人で歩く若い人達は仲間たちと談笑してはふざけ合っている。他にも高齢の人が幼い孫を連れて歩いていたりと、そんな平和に見える彼らがテロ等を起こすとしたら役者顔負けだろう。
だからこそ分からないのだ。考えだして頭を捻っても、他の人達と比べて森人族が多い理由が思いつかない。だが、何かを知っていそうな先輩と呼ばれた男、彼だけは詳しい内容を知っていた。得意げな表情で彼はその理由を後輩へと告げた。
「分からないか? それなら仕方ないな………」
「えっ? 何か知っているんすか?」
「ああ、知っているもなにも、とある人物が交流戦に現れるそうだ」
「………とある人物?」
「序列第二位"双剋の魔王"だよ」
「えっ⁉︎ マジっすか⁉︎」
驚きに眼を見開き、その情報が本当に正しいか窺っている。ただでさえ情報が少ない上に、どんな人物像かあまり分かっていなかったのだ。情報が錯綜しがちな存在として知られ、未だ正体が分かっていなかった。
そんな人物が交流戦に現れるとしたら話題に事欠かないのは当然だろう。特に正体を探ろうとしているジャーナリスト達であれば、すぐに食い付く話題になる。一瞬納得がいった様子の彼は、またもや先程と同じように難しそうな表情で考え出す。
それは序列第二位と森人族との関係性に、気になる話題であれば誰もが立ち止まって詳しく知ろうとしするだろう。それこそ森人族だけでなく、鉱人族や獣人族でさえも気にならないとおかしい。人口密度の比率が偏るには、何かあるだろうと察した彼はその関係性を考えた。
「森人族にとって、序列第二位は英雄なんだよ。一目見たいと思ってこの交流戦会場に来ている者達ばかりだろうな」
「へ〜、そうなんすね」
「"森人国崩壊戦"って知ってるか?」
「ん? えーと、確か、森人国に数体の魔王種が同時に出現したんすよね?」
「そうだ。詳しく言うと、数体の魔王種を含めた魔物数千体に国は襲われたんだよ。未だかつて起きたことのない災害だ」
「知っているっすよ。ほぼ毎日同じ内容が流されて、無理矢理覚えさせられたようなものっすから」
「なら分かるだろ? 半数以上の魔王種を相手に立ち回ったのが序列第二位だ。引き連れた召喚獣と共に魔王種を討伐、その内の知恵を持っていたとされる個体を無傷で倒した」
「魔王種って、一体出現するだけでヤバい相手っすよね。それを数体相手にするって人から外れているっすよ」
「俺もそう思ってるよ」
先輩と呼ばれた男は当然だとばかりに頷いた。彼の中では一桁に居る者達は全員、常識が通用しないと思っているのだ。二人の男はその時の現場を見てはいないが、噂だけでも驚愕に値する情報が大量にあると理解している。
「序列第二位のファンは少ない上に偏りがあるからな」などと呟いた彼は、見聞きした者達から聞いた当時の状況を思い出す。
"森人国崩壊戦"にて、今は亡き前王を含めた多くの国民たち誰もが国の終焉を覚悟していた。突如現れた複数体の魔王種を相手取るには、最低でも一桁が数人必要だったからだ。
二桁を用意しても足りない以上、森人国前王は国に存在する最高戦力を揃え、最前線にて時間稼ぎを行い。多くの国民を逃す為、各国に設置された数少ないテレポーターをフル稼働したのだ。
当時は魔王種によって多くの命が失われるという想定が為されていた。それだけではなく、国の崩壊を招き寄せてしまうことさえも考えさせられたのだ。国の崩壊を避けるのは不可能に近い。しかも被害を軽減させても国の存続は困難だと判断され、絶望の危機に陥っていた。
だがそんな最悪の状況の中でも、とある人物達の登場で一気にひっくり返ったのだ。運良く街から近い場所にいたらしい序列第三位と、魔法省から要請された序列第二位が数時間程で戦地に到着し、なんとか魔王種の討伐を完遂したのだ。
「当時俺が聞いた話しだが、魔王種によって国は無くなると思われてたらしい………」
「復興が出来ずに五ヵ国から四ヵ国に変わるんじゃないかと予想されていたんすよね? しかも数年とかからずに元の街並みに戻ったとか………」
「そうだな。一桁の実力者達の到着が遅れていたら、最悪の歴史を刻むところだったらしいしな」
「ほんとに常識が通用しない集団なんすからね」
その後の彼らは、周りの雰囲気に流されるように楽しい話題へと移行していった。




