遭遇
「対人戦に最も特化した三人組」
かざね、葵、戒、の三人は対魔物よりも対人戦闘に特化していた。巨大な図体を持った魔物であれば、強力な一撃の元に倒すことは容易の筈だ。だが、自分達の相手が人になると話しは変わってくる。
敵対する存在が人の場合、知能がない魔物よりも厄介になるのは誰にでも分かることだろう。戦闘中不利になれば急に逃げ出すのは当たり前、狡猾な手を使い戦闘不能にして来ることもある。
討伐だけでなく捕獲まで目的は多岐に亘る為、対人戦闘は魔物を相手にするよりも難しい。特に脱獄犯や極悪犯などといった人物の生け捕りともなれば、困難を極めるだろう。
「葵や戒も対人戦向きの能力を持っているから、交流戦では大活躍だろうね」
「さすがは風紀委員会、凄い人達の集まりなんですね!」
「煽すぎだな。私達でもお嬢を相手に戦闘をするのは厳しいんだ」
「けど、かざね先輩の実力は相当なんですよね? 玲夏さんが相手にしたくないと………」
「まぁ何事にも相性があるからな。お嬢は対人戦をあまりしたくないだろうし」
「そう言えば確かに、対人戦は苦手だと言っていましたね?」
前にも言っていた通り私は対人戦が苦手だ。魔物を相手にする方が気が楽だと言えるくらいに、その理由はかざねの依頼を手伝ったことにある。とある事情で彼女から連絡をもらった私は、すぐさま現地へと向かった。
「対人戦が苦手というよりかはやりにくいんだろう。何年か前に私が受け持った依頼を手伝ってもらったんだが………」
「依頼?………」
「ああ、私の家系は少し特殊で言えないが、受け持った依頼をお嬢にも手伝ってもらった。その結果………相手は両腕が上がらないくらいの怪我をした」
「………玲夏さん」
「し、仕方なかったんだよ⁉︎ 相手は相当な魔法の使い手で、生半可な一撃じゃ意味もないくらいの硬化魔法を使ってたから」
「玲夏さん。だとしてもやり過ぎです」
「ですよねー」
必死になってその時の状況を説明するが、やはり当時の事を思い返せばやり過ぎたと私も思う。心なしか詩音の目は少し哀れんだ瞳だった。周りの三人も当時の状況を思い出しているのか、詩音の一言に頷いている。
かざねの家系は少しどころか、かなり特殊な部類に入っていた。対人戦闘が得意なかざねは、親から修行の一環として幾つかの依頼を受け持ってはこなしていたのだ。その内の一つである指名手配となった人物の捜索と捕獲、滅多なことでは起きないその出来事を、かざねから直々に手伝って欲しいと言われた。
私の事情をある程度知っていたので連絡を入れたのだろう。その時は葵や戒と共に駆り出されたのだ。捜索の最中に標的となっている人物と運悪く接敵してしまい。他の者達が合流する前に戦闘が開始されてしまった。
「あの時は酷かったな。現場に到着したら土下座の状態で、簡単に捕獲するまでは良かったんだが………痛そうに呻いて連れて行けなかったからな」
「それは………大変でしたね」
「まだコレは良い方だ。惚れ薬の件は聞いたことがあるか?」
「調合出来るんですよね? 聞きましたよ」
詩音の表情が少しも変わらなかったからだろう。訝しんだ表情をしたかざねは私の方をチラッと見た後、顔を戻す。確かに惚れ薬を調合したと詩音に言ったことがある。だが詳しい内容はこれっぽっちも言ってない。
「惚れ薬は高く売れる。素材も貴重だから高値で取り引きされ、効果自体を考慮すれば何本も惚れ薬を量産出来る」
「バレンタインデーなんかでも、惚れ薬を買い求める人が後を絶ちませんよね」
「惚れ薬自体の効果が強いからな。薄めないとそう簡単には販売できない。惚れ薬の中でも重要な素材を知っているか?」
「えっと………確か"ユニコーンの角"とか…………」
惚れ薬の中でも超希少な素材の一つ"ユニコーンの角"それには異性を惹き寄せ導く効果があると言われている。現物を持っているだけでも効果があるらしく、縁起の良いお守り、縁結びの素材アイテムとして多くの人に知られていた。
素材と言われている通り惚れ薬だけでなく、回復や解毒の優秀なポーションにも変わる万能素材だ。もしもオークションに掛ければ、一本の角だけで遊んで暮らせる大金を所持することになるのは想像に難くない。滅多なことでは市場には出回らないレア素材、希少価値の高さに蒐集するコレクターや研究者達が法外な金額を出してまで求める逸品だ。
そんなユニコーンは獰猛で脚が速い。カーバンクルと同様に出現する確率が低いせいか、運良く見つけることが出来ても逃げられてしまう可能性の方が高い。
「………えっ⁉︎ 遭遇したんですか⁉︎ 幻獣ですよ」
「ポーションの素材が切れてたから、素材採取の為に森へと行ってたんだよ。そしたら奥の方からユニコーンが出てきて………」
「あぁ、なるほど、それで角を少し削らしてもらったんですね」
「いや、あまりにしつこく後ろから着いて来るから折った」
「折った⁉︎ 折ったってユニコーンの角をですよね⁉︎ 幻獣ですよね⁉︎」
「頭を撫でて欲しいのか、ずっと後ろから私の背中を角で小突いて来るから」
素材集めに森へと訪れた際、奥の方から嘶きと共に何気なくユニコーンが歩いて来たのだ。だが、ポーション作りに忙しかった私は早く家に帰る為、構って欲しそうな目でこちらを見て来るユニコーンを無視して素材採取に没頭していた。
素材採取を区切りに休憩を取っていると、問題ないと判断したユニコーンが近づいて来ては、すぐ側で私にもたれ掛かる。しかも頭を撫でて欲しそうに擦り付けてきたので、仕方なく頭を撫でてやると気持ち良さそうに眠りやがったのだ。
素材については充分な量を確保していたので、ユニコーンが眠った隙に帰ることにしたのだが、すぐさま離れたことに気付き追って来た。その後はお察しの通り、振り向き様に追い払おうとしたら角を折ってしまった。
「分かったか? これがお嬢だ」
「分かりました………」




