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転生少女は愛されている  作者: 海雪
第3章 交流戦
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悪夢



 職員室の一画にある机の上には、場違いだと思わせるような印象を受ける薬品が山のように置かれていた。他にも怪しげな素材が瓶詰めされており、何に使うんだと疑問に思う物ばかりがある。事情を知らない人が見たら迷わず、マッドサイエンティストが危ない実験をしていると勘違いしてしまうだろう。



 そんな怪しげな雰囲気を漂わせる席に座っている存在は、恍惚とした表情を浮かべるサナーレ先生だった。周囲の反応をよそに危険な薬品を混ぜ合わせ配合している。それに対し、近場に居た他の人達は邪魔しないように心がけているのか、何食わぬ顔で自分達の作業に集中していた。



 だが、各々の作業に没頭している中でただ一人、どうすればいいのか分からない表情をした人物が立ち尽くしていた。呆れた表情をすれば良いのか、それとも周りの者達と同様に普段通りの態度で話しかければ良いのかと思案している。



 などと考えごとをしていたエリー先生の気配に気付いたのか、急に作業をしていた手を止め、ゆっくりとサナーレ先生が振り向く。




「あれ? エリー先生、 一体どうさなれたんですか?」



「いや、何をしているのかと思いまして………」



「これですか? 調合したポーションの濃度が規定通りか、効果がまともに発動するかどうかを調べているんですよ」



「そうなんですか。てっきり私は………」



「てっきり?」



「い、いえ、何でもありません」




 下手なことを言いそうになったと思ったエリー先生はすぐさま口を閉ざし、否定するかのように首を必死に横に振る。もしもその先の言葉を口にすれば、サナーレ先生の怒りを買うと理解したのだ。



 なにせエリー先生が覗き見た彼女の目はこれっぽっちも笑ってなかった。とりあえず息を吐き出し心を落ち着けたエリー先生は、机の上にこれでもかと置かれたポーションを眺める。



 突如サナーレ先生は「あっ!」と、何かを思い出したといった声を上げた。その途端にエリー先生は、ビクッと身体を強張らせる。変な事は何も言うまいと少しばかり警戒していた為に、本人が思っていた以上に肩が跳ねた。




「 ちょうど良かったです。此処にあるポーションは全て、エリー先生のクラスの生徒さんたちが調合したんですよ!」



「えっ? 本当ですか? 魔草薬学の授業は、もうそこまで進んでいるんですか? 驚きました………」



「いえいえ、実習で出した課題でしたが、まさかこのレベルのポーションを調合するとは思いませんでした。優秀な生徒さんたちをお持ちで羨ましいです」




 嬉しそうな表情を浮かべるサナーレ先生、彼女は満足だと言わんばかりにフラスコに入れられたポーションを眺め、予想以上の出来映えに見惚れてしまっている。



 また、先程の状況に戻ったことにエリー先生はこめかみを押さえて呆れてしまう。その間にふと思い出した事をサナーレ先生に問いかけた。




「それでサナーレ先生、結果の方はどうでした?」




















 机の上に置かれた、厳重そうに密閉された袋に詰められている白い粉を全員が見ている。それを見た瞬間に私と詩音はすぐに察した。これによって学園は、窮地とまではいかないが大変な状況になっていると……




「通称"夢見薬"」



「ん? 睡眠薬とは違うの?」



「似たような薬品だな。ただ………」



「ただ?」



「一部の記憶が無くなる」



「「ッ⁉︎」」




 私と詩音はその言葉に息を呑む。一部の記憶が無くなると聞けば誰もが、とても危険度が高い薬だと分かる。だが、どのような薬品なのかを知らずにいるのが一番危険だ。今まで以上に表情を引き締めた詩音が恐る恐る口を開く。




「記憶が無くなるって、大丈夫じゃないですよね?」



「………食堂で倒れた生徒については?」



「知ってるけど?……まさか………」



「そのまさかだ、食堂に居た者達の食事に混ぜられていた。そのせいで獣人達の数名が、昏睡するという被害が出たんだ」



「大丈夫なんですか⁉︎」



「問題ない。昼食を食べる前の記憶が少しばかり無くなっただけだ。自分の名や生活に支障をきたす程ではないからな、それほど心配する必要はないだろう。悪影響も今のところ残っている訳じゃないからな」




 身体や脳にそれほど悪影響がないと聞いて安心した。もしかしたら後々、後遺症が発生する可能性があるので何とも言えないが、今のところは様子を見るしかないだろう。



 かざねは疲れた様子で椅子に深く座り込み、溜息を吐きながら白い粉が入った袋をぷらぷらと揺さぶる。




「夢見薬といった通り、服用した者に美麗な夢を見せる薬だ。大抵の睡眠薬の場合は、強制的に眠らせる効果があるせいか悪夢を見ることが多いんだが………」



「その副作用として悪夢は見ずに、記憶が無くなると?」



「ああ、記憶は素材として消費され、本人が望む夢が見れるらしい。サナーレ先生に調べてもらった結果、この薬の調合は完璧だと言っていた。レシピを教えて貰いたいぐらいだと………」



「あはは………」




 サナーレ先生の喜ぶ顔が脳裏に浮かんだ。さすがにそれは冗談だろうと思いたいが、本音で言ってしまってもおかしくないだろう。



 今後のことで相当悩んでいるのか、今までよりも大きい溜息を吐いたかざねは、先程持っていた袋を乱暴に放り出す。厳重に密閉していたおかげで破れることはなかったが、もしも部屋の中で白い粉が飛び出せば、此処に居る全員は夢の中に落ちていただろう。




「まぁ、これについては問題ないと言えるが、一番に考えるべきは生徒達が起こすかもしれないトラブルだな」



「というと?」



「夢見薬について言えば、抵抗力さえあれば大丈夫だ。むしろ問題になるのは金銭や交友などといったことだな。もしもの時になったら、風紀委員会は動くことになるだろう」



「風紀委員会の仕事だしね。それは仕方ないか……」



「交流戦は一週間ほど、残る生徒達はその間は休みだからな。問題が起こったらすぐに動けるようにしないといけない。戦闘を熟せる先生は学園には少ない」



「つまり学園長たちはその為に?」




 詩音の返事にかざねは静かに頷く。確かに、交流戦が始まることになれば残った生徒達の様子が気になるだろう。生徒と同様に、学園に残った教員でも対処し切れない問題が起きれば困ったことになるはず。



 だからこそ学園長は、交流戦が始まったとしても学園に残る決断をしたのだろう。序列上位の二人が居ればそう簡単には手が出せない。言ってしまえば、学園長と聖女は抑止力そのものだ。




「問題が起こるとすれば交流戦だな」

 



 

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