勧誘
聖女であるシア先輩を筆頭に、私と詩音は無言でその後ろをついて行く。教室からだいぶ離れた廊下を歩いている為か、人の気配が微塵も感じられない。
一体どの様な用事で私達が呼ばれたのか考えていると、シア先輩は歩く速度を緩め立ち止まる。ちょうど立ち止まった場所には、厳かな雰囲気を漂わせる両開きの扉があった。
部屋の用途を知る為に、私は顔を上げプレートを確認する。そこに書かれた部屋の名は生徒会室、聖女である先輩は三年の生徒会長を務め上げる人物なのだから、この場所に来てもおかしくない。
学園長室にも負けず劣らずの高価で頑丈そうな扉、シア先輩は取っ手に手を掛けて思い切り開く。
「みーちゃん! お二人を連れて来ましたよ!」
「みーちゃんって言わないでくださいと何度言ったら分かるんですか⁉︎ 怒りますよ!!」
生徒会室に居た人物に「みーちゃん」と声を掛けたシア先輩は、そのまま彼女の背後へと移動し肩に手を置く。私の目に映ったその人物は可愛らしいという言葉が似合う少女、下手をすれば小学生と見間違えてしまう小柄な人物がそこに居た。
彼女はぷんすかと怒っている雰囲気を醸し出しているが、見た目の愛らしさと、頭上に付いたうさ耳によって怖いというよりも、別の感情を引き出されそうになる。
「紹介します。みーちゃんです!」
「違います。私の名はラヴィー・ミュレット、二年で副会長を務めさせて頂いています」
そのように名乗った兎人族の先輩、脱力感を感じさせながら少し呆れた表情で自己紹介をした。うさ耳が萎れているところを見ると、本当に呆れているのだろう。獣人という種族は耳や尻尾にその人の感情が出易い、なので嘘をつくことはないのに加えて誠実な人物が多い。彼女、ミュレット先輩もそう言ったタイプの人だと考えずとも分かった。
「お二人の事は聞いています。小鳥遊さんと雨宮さんですよね」
「はい、小鳥遊玲夏です」
「雨宮詩音と言います。ところで、此処に呼ばれた理由なんですが………」
「あぁ、それはですね………」
ミュレット先輩はシア先輩の手を振り払い、キツイ視線を浴びせる。自己紹介の時からずっと彼女のうさ耳を触っていたのだ。獣人の人達は耳や尻尾を触られるのを嫌がるので、ミュレット先輩からして見れば鬱陶しいのだろう。
あまり本人が嫌がることはしたくないのだが、あのうさ耳を出来れば触らせて欲しい。時折りぴこぴこと何かに反応する素振りを見せるうさ耳、動く度に目が引き寄せられる。
見ているだけでも、ふさふさとしていて気持ち良さそうだった。ついシア先輩がもふってしまうのも仕方がない。
残念な表情でもふるのを止めたシア先輩は「こほん」と咳払いをした後、いつもの穏やかな表情で口を開く。
「此処に呼んだのは他でもありません。生徒会に入りませんか?」
「えっ⁉︎ 生徒会にですか?………」
予想していた一つ、生徒会への勧誘を生徒会長から直々に言われた。詩音とお互い顔を見合わせ様子を窺う。こうして呼ばれたのだから詩音も勧誘対象に入るはず。
彼女は一体どうするのだろうかと少しばかり気になる。私の場合、入らないかと誘われたが既に答えは決まっている。
「すいません、私は辞退させて頂きます。有り難い申し出なのですが………」
「………私も同じです。しっかりと検討させていただいても?」
「いきなり言われても困りますよね。生徒会に入る気があるならば、ぜひ言ってください」
「こればっかりは仕方ありません。生徒会の仕事は大変ですから………」
それほど気にしている様子ではないみたいだ。楽観視していると言うか、私達の答えを予想している感じに見えた。諦めた雰囲気の二人はすぐさま気持ちを切り替えたようで、お茶を用意して席に座るように進めてくる。
「私………小鳥遊さんに一度お会いしたいと思っていたんです」
「えっ? 私にですか?」
「そうなんです。小鳥遊さんは私にとって理想そのもの、高い身長、モデルの様なスタイル、整った顔立ち、全てにおいて完璧なんです!」
「あっ、えっと、ありがとうございます?」
何故かいきなり容姿を褒められ、しどろもどろになりながらも返事を返す。ミュレット先輩がどういった理由で会いたいと思っていたのか分からず、困惑してしまった。
ただ落ちついて、私の容姿を褒めるところを考えて見ると、自分のことに不満を抱えているのだろう。そうでなければ容姿を褒めるのに加えて、私に会いたいという理由には弱過ぎる。
ミュレット先輩と私では、正反対にしか見えないはず。彼女は小柄で可愛い童顔の少女、さらにフサッとしたうさ耳を持った兎人族である。それに対して私は、手足が長く大人の顔立ちをしていた。可愛いというよりは美人とよく言われている。
他人が平然と持っている才能や能力、容姿に憧れてしまっているのだろう。昔の私も同じように他人に憧れてしまい、頭を抱えていたことがある。
「みーちゃんは可愛いんですから気にしないで良いのに」
「会長! 私は可愛いよりもカッコイイと言われたいんです! 分かって下さい!」
「そうなんですね。確かに玲夏さんはカッコいいと言えますよね。先輩は憧れの人とかいるんですか? 例えば序列上位の誰か………」
詩音の質問に興味がある。ミュレット先輩の尊敬する人物に心当たりはないので、一桁や二桁にそんな人がいたのか分からない。もしかしたら忘れているだけかもしれないが………
「え、えっと、私の憧れの人は………母さんです…」
「「えっ?」」
予想外の答えに私達は驚いた。ミュレット先輩が序列上位にいる人達の中で選んだのがその人らしい。よほど恥ずかしいのか、顔を赤くして見ないでくれと態度で言っている。
シア先輩は事情を知っている為か、先程と表情はほとんど変わっていない。少し嬉しそうな顔をしている様に見えるのは、ミュレット先輩が恥ずかしがっているせいだろう。
母親と言われてもピンと来ない。序列上位の中いる者達で、ミュレットという苗字に加えて兎人族の人はいなかったはずだ。必死に考え出した末に一つだけ思い出したことがある。そう言えば、一桁の中にミュレットと名のつく人が居るのを私は思い出した。
確か名前は………
「魔法省公認、序列第九位、豪脚の狩人"ガブリエル・ミュレット"」




