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転生少女は愛されている  作者: 海雪
第3章 交流戦
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尊敬



 黒板に書かれた文字を追って、生徒達は必死にノートへと書き写していく。一言では言い表せないような奇怪な形をした文字、顔を何度も上げては下ろし一字一句、間違いがないよう確認する。



 今はエリー先生の授業である魔法基礎学を行なっていた。黒板の端までビッシリと書かれている文字は、魔法の基礎となる魔法文字であり、組み合わせによっては数万通り存在していると言われている。



 これらの文字は魔法を使う上では必要ない。魔法文字を覚えずとも、触媒と魔力さえあれば魔法は発動するからだ。何故この授業で魔法文字をノートに書写しているのかは理由がある。それは………他の授業、魔法工学や魔草薬学などで使用する頻度が増える為だ。



 魔法工学では必須と言える物であり、それらの文字を知らずに魔導具を作製することは出来ない。とは言っても、魔法文字をマスターしただけで魔導具を自力で作り上げるのは至難の技、更にそこから魔法陣の効果や素材の特性を理解しなければならないのだ。



 もちろん魔法工学に精通していても、魔導具の作製は難しく。もしそれが新しい魔導具の開発であれば、調達した素材を無駄にするのは当たり前のことだった。



 他にも、書物に記された文字が魔法文字であれば解読する必要があったりする。この学園にある書物は大抵の場合、解読済みなので独自に調べる意味はなくなるが、知っておいて損はない。



 キーン・コーン・カーン・コーン




「………あっ、チャイムが鳴ってしまいましたね。続きは次の授業で………」




 授業終了のチャイムが教室に鳴り響き、エリー先生の手が止まる。書いた部分の一部を黒板から消して、続きは次だと一言だけ残して退室していく。ここ最近多忙な先生達、理由は言わずもがな交流戦の影響だろう。



 ようやく授業は終わったが、黒板に書かれた魔法文字を書き終わるのに数分を要した。まだ他の生徒、特にエリスは未だに自分のノートに視線を落としている。少しばかり聞きたいことがあるが、邪魔は出来ない。



 それは、なぜ私のファンクラブが出来ているのかについて、いつの間にか創設されているとは露ほども知らなかった。詳しい事情を知るエリスに問い質そうとした時点で、狙いをすましたかの様にちょうど良いタイミングでエリー先生がやって来たのだ。そのせいでモヤモヤとした気分で授業を受ける羽目になった。




「………あ、あの〜、すいません、小鳥遊さんと雨宮さん。少し良いですか?」



「えっ? えっと、何かな?」



「何でしょう?」




 おどおどとした弱気な女子生徒が私と詩音に話しかけて来た。小柄な体格であるのに加えて身を縮ませている少女、その影響も相まって余計小さく見える。恥ずかしいのか両手を弄りながらも、辿々しく言葉を紡ぎ出す。




「た、小鳥遊さん達に、お客さんが………その、聖女様が………」




 女子生徒は入り口の方を不安そうに、片手で指差して来客を知らせた。"聖女様"という言葉で誰が来たのかを悟る。出入り口付近から、顔を出してこちらを覗くシア先輩が居た。ちょうど私と目があってしまったせいか、彼女は笑顔を溢れさせながら小さく手を振っている。



 別の用事が出来てしまったので、エリスにファンクラブの件について話し合うことは出来ない。その件は保留だと、内心溜息を吐きながら女子生徒へと向き直る。




「ありがとう草鹿(くさか)さん。知らせてくれて」



「い、いえ! これくらい大したことじゃありませんから! そ、それより名前を………憶えてくれるなんて」




 何故か嬉しそうにする少女、草鹿さんを置いて私達はシア先輩の元に移動した。





















 とある三人組が居なくなった後、憶測による騒めきで教室は包まれていく。もちろん話題の中心となったのは有名人である聖女、彼女に呼び出された二人との関連性も視野に入れて、今後はどうなるのか気になるのだろう。次から次へと様々な憶測が生徒達の間で行き交っていた。




「聖女様、生徒会長がこの教室に来たのは………もしかして勧誘? あの二人なら生徒会に誘われるのも納得だよ」



「それもあると思うけど、やっぱり交流戦関連じゃない? もうその時期だから………」



「いや、もしかしたら別の………」




 部活動、生徒会へと勧誘する為だの、そろそろ行われる予定の交流戦などといった理由がチラホラと出てくる。それも、男子女子問わず話題の中心にするほどなのだ。聖女様と呼ばれる彼女の話題は事欠かない。



 そんな、聖女関連で賑わっている教室にも関わらず、席を立ち上がり食堂へと移動を始める者達が居た。ぐるぐるメガネを掛けた男子"山下君"と、耳の先が細く尖がった特徴を持つ森人族(エルフ)"アベル君"の二人だ。



 何か嫌な予感がしたと言わんばかりに、そそくさと教室を抜け出そうとした二人の肩に手が置かれる。ガシッと掴み離れないところを見た二人は、恐る恐る後ろを振り向く。




「俺たち友達だよなぁ? 何逃げようとしてるんだ?」



「「源喜(げんき)君(殿)」」




 二人は肩を掴んで来た相手、源喜と呼んだ男子生徒の表情を窺う。顔はどう見ても笑っている様にしか見えないのに、目が笑っていない。嫌な予感がひしひしと伝わってくるのを感じた二人は仕方なく彼の後ろを着いて行く。



 彼らが辿り着いた先は学園の食堂だ。昼休みの為か人は多く、テーブルとイスが大量にあっても近場の席はほとんど埋まっていた。料理が盛られた皿が並べてあるトレイを持ち、一番端の空いた席に腰を落ち着ける。美味しそうな料理には手を付けずに、源喜は真剣な表情で口を開く。




「お前ら、あの小鳥遊さんと一緒に迷宮に行ったと言うのは本当か?」



「本当でありますよ」



「うん。迷宮に行ったけど、どうしたの?」



「どうしたもこうしたもあるか⁉︎ 何で教えてくれなかったんだよ!」



「「いや、だって………」」



「だって?………」



「その時いなかったじゃないか」



「なっ⁉︎」




 答えを聞き終えた後、彼は絶句して目を思い切り見開いた。パーティーメンバーの戦力自体を調整する為もあるが、迷宮に行く際の補充要員として二人はついて行くことになった。



 二人が迷宮に行くメンバーに選ばれたのは至極単純、教室に残っていたからだ。放課後で人がほとんど帰ってしまったおかげで、バランスを考えずに参加させることになった。その時には源喜、彼は用事があって先に帰ってしまい、パーティーメンバーとして参加出来なかったのだ。




「まあ、分かるよ。学園行事の時に小鳥遊さんは居なかったから………」



「小鳥遊殿がパーティーメンバーから外されてしまったでありますからなぁー、少し残念な気持ちで参加せざるを得なかったであります」



「それより、迷宮に行くと知ったらどうしていたんだい?」



「そんな事は決まっているだろう。小鳥遊さんに俺の実力を、頼りになるところを見せるんだよ」



「無理だね」



「無理でありますな」



「何でだよ⁉︎」




 二人は無理だと一蹴する。既に彼女の実力を知っているアベル君と山下君からして見れば、到底叶えられそうにないと理解していた。何せ序列第二位という称号を持つ実力者だ。彼では足元にも及ばない存在、実力を見せても頼りにする程は難しい問題になる。



 今の彼が持つ実力は、学園行事の際には知っていた。何せ山下君とアベル君、そして源喜の三人はパーティーメンバーとして一緒に活動していたのだから。




「マジで羨ましい、小鳥遊さんと喋るチャンスを逃した。過ぎたことはしょうがない、それより山下……お前の嫁とストーカーをどうにかしろよ」



「嫁?」



「ストーカー?」




 二人は疑問を浮かべて聞き出そうとした直前、彼がある方向を指し示す。そこにいたのは椅子に座って食事をしているニア先生と、その近くで彼女を見つめる天頭先生が居たのだ。



 しかも、嫌な気配がしたのか近場にはその二人しか居らず、周りからは浮いて見えてしまっている。山下君はその後の対策として終始気付かない振りを続けた。



 


 





 

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