欠陥
大剣"デストルクシオン"を頭上高く掲げたまま、エリスは自身の魔力を大量に流していく。光り輝き、今にも溢れそうになる魔力は、周囲に風を起こし始める。ようやく魔力を流し終わり、早速とばかりに彼女はデストルクシオンに力を入れて振り下ろした。
「ハァァァアアア!!!」
魔力の奔流がデストルクシオンから噴き出す。ドラゴンゾンビの居る方角を目掛けて一閃した後、大地を抉り大気を震わした。空に雲さえあれば真っ二つにする程の一撃をお見舞いするが………
「「「………」」」
「あ、あれ〜?」
その場で一部始終を見ていた私達は全員、一言も発することなく無言になった。撃った本人であるエリスの想像もしくは予想では、ドラゴンゾンビを消し飛ばしたと思っても仕方ない。私ですら、デストルクシオンの性能とエリスの魔力さえあれば問題ないと思っていた程だ。
見た感じでは威力が十分あったのは確実だと言える。魔法とまではいかないが、それに近い異能を発動させたのは間違いなく。地面には深々とした穴が証拠として空いている。
更に、ドラゴンゾンビにより生み出されたばかりのスケルトン達は、私達を敵と認識した後に此方の方へと走って来たにも関わらず。今は何処を探しても姿が見当たらない。消滅したか、それとも地面に空いた亀裂の闇に吸い込まれかは分からないが、デストルクシオンのおかげだろうことは間違いない。
それでは一体何が問題なのかと言うと………
「小鳥遊、これ、思った以上に射程が短い!」
振り向くと同時にエリスはそんなことを言ってきた。言わなくても見れば一瞬で分かる。今回、一番の問題となったのは射程の短さだ。目測で十メートル程の距離しか攻撃出来ていない。ドラゴンゾンビの居る距離には到底及ばない為に、倒すには近付かなければならないのは明白だった。まさか、デストルクシオンにこんな弊害があったとは誰も思わないだろう。
「………まさかこんな結果になるなんて。射程距離が短い欠陥があったとは、社員の人達も絶対思わなかっただろうなぁ」
「思いませんね。絶対に………」
「とりあえず、エリスの魔力量は残りどれくらいあるかによるけど………どう?」
「まだ残ってるぞ、けど後一回分の魔力量だな」
「そう、なら近付くしかないね」
その場に居た全員は、今後どうするのか理解したのか武器を握り締める。もう既に様々な計画を立てていたので次の行動に移っていく。
私、エリス、詩音、冒険者達から二人、近接を行える者達でドラゴンゾンビへと近付いて行った。その間、疑問に思っていた詩音が私に問い掛けてくる。
「玲夏さん。強力な魔法を撃ち込めばそれで終わりじゃないんですか?」
「そうしたいのは山々だけど、さっきから妙な気配を感じる。敵意さえも」
「敵意?」
「前みたいに誰かが裏で糸を引いているかもしれない。確実とは言えないけど、ドラゴンゾンビが急に現れたのはそのせいかも………」
「なるほど、そう言うことならば此方の手の内や戦力、リヴィアさんの正体をバラす訳にはいきませんね」
「飛行しているだけなら、そう簡単に悪魔だとは分からないはず。正体を見破れば手出しをしないかもしれない。とまでは思わないけど、何らかの反応が欲しい」
「ん〜?、ちょっと待てよ。言ってる通りなら誰かが連れて来たってことになるんだが………」
最悪の予感が脳裏で過ったらしい冒険者の二人も、今回の件が相当にヤバイと気付いたみたいだ。様々な場所に存在する迷宮にも、破れないルールのようなものがある。
迷宮というその場所で生まれた魔物は絶対、外に出ることはない。迷宮内に蔓延している濃密な魔力は、魔物達の栄養そのものなのだ。倒された際に身体、肉体を消失させて魔石を落とすのはその影響からだった。
もしも迷宮のルールに囚われない魔物がドラゴンゾンビのように、仲間や分裂体を生み出し続けて地上へと進出すれば後々、多くの被害を出してもおかしくなかったのだ。その点を考慮すれば、残った冒険者達によって最悪の未来を回避出来たと言っても過言ではない。
だからこそ、上空へと追いやることが出来て正解なのだ。今ではその分を取り返すとばかりに、眷属を生み出し続けているドラゴンゾンビが居る。此処で倒さなければ、死人が増えて被害は膨らんでいくだろう。
「玲夏さん! 魔物が!」
私達の前にスケルトン達が立ちはだかる。二メートルを軽く超えるサイズの身長を持ち、それに見合った大きさである、剣、槍、弓、盾など多種多様の武器をそれぞれ握っていた。
私に近かった一体が大剣を掲げる。目標を見定めたのか、力任せに振り下ろす。
「炎陽の黒剣」
すぐさま呼び出した黒剣を手に取ると同時に斬る。
一閃した後には、大剣は折れてスケルトンの身体はバラバラに崩れさった。再生することはないようで、全く起き上がる気配はない。改めて剣と槍を構え直すと、警戒する素振りを見せて後退りするスケルトン達に私は襲い掛かる。
死月の蒼槍で大楯を貫いた後、私は力任せに振り回す。他のスケルトンを巻き添えにしながら陣地を増やし前進していく。
近接に持ち込み槍を封じようと、死角から攻撃を加えようとしたスケルトンは炎陽の黒剣で斬り刻んで倒す。仲間に近付けないように立ち回りつつ、周囲の状況を逐一観察して戦闘を行う。
集中を切らさず、注意していかなければ大怪我では済まない。生き残る信念を持ち、剣と槍を握り締める。
「くっ!」
「はぁっ!」
戦闘を行っている冒険者の二人は、思っていたより苦戦していた。一人はスケルトンの大剣を、それよりも細い剣で受け止めてなんとか逸らす。残りのもう一人はようやく一体を仕留め終わったところだ。
二人が予想していなかったのはその硬さ、軽い音を響かせていた骨にしては頑丈であり、武器を力強く握り傷付けようとしても刃が通らない。ドラゴンゾンビと同等の強度を持っていると思い知らされた二人は、背中合わせにスケルトンを相手にしていく。
「ハァ、ハァ、此処まで強いスケルトンと戦うとは、思わなかったな」
「ああ、それよりも………」
視線の先に居たのは、骨の硬さを気にせずに戦う少女達だった。特に二人が注目しているのは、序列第二位である白髪の少女だ。二人で一体をそれぞれ倒す頃には、彼女は一人で十体も倒していた。時間が経つにつれてその差は開き、追いつけない程に最強だと思わされる。
ただでさえ、こんな間近で一桁の戦闘シーンを見れるのは貴重である為に、二人はいつの間にか戦場の真っ只中だということを忘れた。その時、何かが煌めき横を通り過ぎたのを見た二人は、ゆっくりと後ろを振り返る。
見覚えのある槍だ。それも先程まで序列第二位である彼女が使用していた蒼槍が、スケルトンの顔面に突き刺さっていた。
「二人とも! 何やっているんですか!」
「「す、すいません!!」」




