作戦会議
地上から数千メートル上空にて、際限のない空を泳ぐようにして飛んでいる存在がいた。それは言うまでもない、ドラゴンゾンビだ。禍時の小径に生息、または生活している魔物などは空を飛ぶことはない。ましてや、空を飛べたとしても地上からはそうとう離れているのだ。
寒さに耐えられ、ある程度の速度が無ければ自分が居るこの場所まで来れる訳がない。そのように慢心したドラゴンゾンビにとって、外敵のいない空は快適そのものだった。
とある存在が現れるまでは………
『こんな危険な場所でお昼寝ですか? 良いご身分ですね?』
「ッ⁉︎」
突如、自分自身に声をかけられたドラゴンゾンビは目を見開き、語り掛けてきた存在を探る。数千メートル以上もある上空にて姿を現し、直接脳内へと語り掛けたのはリヴィアだった。いつもと違い、腰元からは蝙蝠に似た翼を生やしている。彼女は斜め上の位置から空中で静止して、ドラゴンゾンビを見下ろしていた。
「グァァァアアアア!!!」
脳内に響く声を掻き消すように、リヴィアに対してドラゴンゾンビは咆える。その途端、猛烈な勢いで通り過ぎる一陣の風が、上空にて吹き荒れた。大気を震わす程に凄まじい威力があり、大抵の場合は吹き飛ばされるというのに彼女はびくともしていない。
その結果を踏まえて、リヴィアの行動を一瞬たりとも見逃さないと観察している。実際、ドラゴンゾンビは彼女に怯えていた。全く身体を動かさないのはそのせいである。恐怖を知らない存在、つまりアンデッドは普段なら怯える必要はない。何故ならば、死ぬことはもうないのだから。既に死んでしまった存在としては、恐怖すらも乗り越えていた。
スケルトンやゾンビなどの魔物は、意識を持たない故に恐怖を知らず。ゴーストやレイスの場合は物理が効かない。だがこのドラゴンゾンビは少し違っていて、生前と同様に何故か知恵がある。その為か、相手の出方を窺いながらその場でジッとしていた。
『深海領域』
聞こえてきた一言で、ドラゴンゾンビのバランスが急に崩れる。そう気付いた瞬間には恐怖を抱いていた相手、リヴィアとの距離は一気に離されていた。ドラゴンゾンビは、何とか身体を動かし体勢を戻そうとするが出来ない。そのままなす術もなく空から堕とされていく。
「グギァアアア!!!」
咆哮をかますが虚しく響くだけで意味はなかった。
リヴィアは、地面へと急降下していくドラゴンゾンビを冷めた目で見て、たった一言だけ呟く。
『言ったじゃないですか。危険だって………』
戦闘開始を行う数時間前………
私達は現在、今は誰も居ない店を貸し切り状態で使用している。大きめのテーブルに全員が集まっている為か、少し手狭で大変だった。
まだそれは良い。問題なのは緊急事態にも関わらず、私を除いた全員がこの事態を楽観視しているところだった。その原因は私であることは間違いない。
何せ………
「こっちには序列第二位が居るんだ!」
「勝ったも同然だな!」
「ああ、間違いない!」
「「「アハハハハッ!!!」」」
元々勝ち目がないのを前提で戦闘を行なっていたせいか、私が序列第二位の人物だと知って緊張が一気に消えてしまったようだ。
今後の戦闘を楽観視するのは油断を招く。かと言って、その事実を重く受け止められても困るのだ。戦闘の際に影響が出ても嫌だし、魔物によっては一瞬で命を狩られる。戦力は十分だと思っているのは納得出来る。だが、私を頼りにしてもらうのはやめてほしい。
「………それで玲夏さん! ドラゴンゾンビをどうやって倒すんですか?」
「………………詩音なら、地上から数千メートルにいる敵をどうやって倒す?」
「えっ、えっと、その………」
私が放ったその一言で、詩音を含めた全員は狼狽る。今の状況をしっかりと把握してしまったせいだろう。ドラゴンゾンビが居る場所は上空、私達は地上に居て手出しが出来ない。
魔法で狙撃しようにも、敵であるドラゴンゾンビとの距離が離れ過ぎている。当たらないのは誰でも想像出来る以上、行わない方が賢明だろう。無駄に魔力を消費するのは後々、不幸を招く上に、肝心な時に魔法を使えなくするからだ。
「まぁ、そんな風に言ってみたけど、私は殆どの魔法を使えるよ。例えば、飛行魔法とか………」
「飛行魔法⁉︎ 確かにそれなら!」
「さすが! 序列第二位だな!」
「空から墜ちなければの話しだけどね………」
「「「………」」」
飛行魔法を使える者がいたとしても、ほとんど使用しないだろう。魔法であり、魔力を消費する以上は限界が有る。行使している途中で、もしも魔法が切れたらと思うと堪ったものではない。
更に、飛行魔法で戦闘するなら長時間ではなく、短時間で決めなければすぐさま戦線離脱することになる。ドラゴンゾンビが相手なのだ。並大抵の魔法であれば無効にする魔力量を誇る存在がドラゴンゾンビであり、強力な一撃を与えなければ倒すことすら難しい。
私が空を飛び、計画通りに事が運べば魔力をある程度残して帰還することが出来る。が、最強とも言える魔法をたった一度でも外せば最悪の状況に陥ってしまう。更に飛行速度で負ければ、魔法を当てることすら困難になるのだ。
集まった者達の中では、ドラゴンゾンビを相手にする存在が居なくなり、一方的に被害だけを大きくすることになる。
もしも失敗すれば………
「魔力切れで地面に衝突、分かりやすく言うとオムライスに、残り少ないケチャップを掛けるような感じになるよ。私が………」
「た、例え方がアレですが、想像したくありませんね。飛行魔法は却下と言う訳で、他に何かあれば良いのですが………」
「どうするんだ? 小鳥遊の魔法でちょちょいと何とか出来ないのか?」
「出来ない。ほとんどの魔法を習得したから私には分かる、魔法には限界が有るって」
「………そうか」
何も打つ手がないせいか、その場に居た全員が黙ってしまう。申し訳なさそうな表情を浮かべては俯いている者がほとんど、倒せるだけの案がないからだろう。
「ご主人様、それなら私めにお任せを! あの駄龍を地に墜し、打倒してご覧に入れましょう!」
ただその中で一人だけ、私に近づきその様なことを言った存在が居た。リヴィアだ。彼女は作戦会議が始まってからというもの、笑顔を絶やすことなく楽観視していた。自分自身であるなら、ドラゴンゾンビを倒すことは容易いからだろう。
「どうやって倒すの?」
「簡単ですよ、私なら空を飛べますから倒せます。何せ私は悪魔ですから」
「………分かった。ドラゴンゾンビを地上に堕ろせるんだよね?それは任せたよ」
「かしこまりました。必ずや良い結果をご主人様に………へっ? 今なんて?」
「ありがとう、リヴィア、助かったよ。墜した後はこっちで何とかする」
「あ、あの、駄龍を倒さなくて良いんですか?」
それについては問題なかった。倒せる手段はごまんと有るのだ。ただ一つだけあるとするならば、空からどうやって引きづり落とすかが問題だった。態々地上から、上空に居る敵を魔法で狙撃しようにも難しい。
だが魔法が当たる場所であれば私達に勝機がある。
しかも、ドラゴンゾンビを倒すには最適な人材が居た。私が向けた視線でようやく彼女は気付く。重要な役目を任されると判断したのか、彼女の頬は引きつっていた。
「………えっと、まさか、あたしが?」
「エリスなら倒せる。その為のデストルクシオンなんだから………」




