禍時の小径 ⑧
「さっき、リヴィアさんが使った魔法って一体……」
「………う〜ん、私も分かりません。リヴィアさんが悪魔である以上、未知の魔法の一つや二つ存在しても不思議じゃないですから」
「時を止めた訳じゃないよな?」
「絶対に違いますね。文献に残っている情報でも、時を止めるという所業は悪魔達の王、魔王でも難しいはず………」
「なら、それに近い魔法、異能であると推測出来るでありますが」
気絶してしまった者達はとりあえず、ニア先生とアベル君が介抱している。怪我人等に対する対応を行える二人が、率先して様子を見ているので問題なかった。それ以外の全員は槍状の骨を見ながら、先程の魔法について考察しあっている。
何故此処に彼女達が居るのかと言うと、ドラゴンゾンビと冒険者達の戦闘が始まったばかりの時に、それぞれ別行動をしていたのだ。前衛と後衛に別れてドラゴンゾンビに攻撃していた際、最も安全な後衛にて援護を行なった方が良いという結論に至る。
後衛の陣地にいた者達と合流すべく移動していた時、何らかの異変に気付いたリヴィアは真っ先に駆けつける。それが功を奏した結果、リヴィアが後衛にいた冒険者達を救う事となった。
ドラゴンゾンビの攻撃を全て難なく止めて見せたリヴィアの魔法は、まるで時を操っているように見える。自由自在に時を操る魔法ではなく、それに似た魔法を行使したという結論が出た。確信した訳ではないので、確かめる方法として詩音はリヴィアに尋ねる。
「リヴィアさん………先程の魔法は何ですか?」
「教えてあげても問題ありませんが、今はそれどころではありませんね」
「………えっ?」
先程の強力な魔法を教えることには問題がないと聞いて嬉しい反面、いつもの彼女とは違う雰囲気に少し戸惑う。すぐさま辺りを見回し始めた詩音は気付く、地面に落ちた槍状の骨が僅かに動いているのを見逃さない。警戒していたのは、ドラゴンゾンビによる攻撃がまだ終わっていなかったからだ。
骨が震えたかと思うと形が変わっていく。伸縮を何度か繰り返し変形する。変化を終えた頃には人骨になっていた。剣、槍、盾、弓を持った白一色の兵士達の誕生に、その場で見ていた者達は顔を引き攣らせることしか出来ない。
「………これって何の冗談ですかね?」
「ドラゴンゾンビの異能⁉︎ 聞いたことがありませんよ! 伝説の魔龍であれば納得出来ますが!」
「此処の迷宮があの骨龍を生み出したにしては、少しばかり度が過ぎていますね。それにしても、このスケルトン達はドラゴンゾンビ自身の魔力で生み出しているのでしょうか?」
「多分………そうであります。ドラゴンゾンビの魔力量は、生前よりも更に増えると聞いたことがあります」
「厄介だな。ただでさえ飛んでいるのに加えて、コイツらまで相手にしないといけないなんて」
「ですね、エリスさんはアンデッドが苦手なのに………」
「詩音………そ、それは忘れてくれるとありがたい」
「とりあえず私が相手をしましょう」
スケルトン達の相手を買って出たリヴィアは早速、自身の武器を取り出して構えた。両手で複数のナイフを持ち、それに彼女は魔力を送っていく。魔力で覆われたナイフは輝き鋭さを増していた。
そのまますぐ近くにいたスケルトンを粉微塵に刻んでいく。高速で振るわれるナイフ、剣などで受け止めようと防御しても意味はない。頑丈そうには見えないぐらい簡単に、真っ二つに切断されていく。
表面を撫でるだけで斬れていくところを見ると、相当な斬れ味と強度を持っているのが分かる。リヴィアは圧倒的な戦闘技術でスケルトン達を倒していき、巧みにナイフを扱う。
彼女を一番の脅威と感じ、一斉に突撃してきたスケルトン達は剣を掲げて殺到する。その途端、全員の動きが鈍くなった。時間が止まった感覚に襲われた者達は必死に身体を動かそうとする。だが、思い通りには動かない。
「圧壊せよ」
リヴィアの一言によってスケルトン達は潰されていく。次々に押し潰されていき、白い粉へと姿を変えていった。ものの数秒と掛からずに駆逐されていったスケルトン達、あまりの戦闘力の高さに驚きで口を半開きにすることしか出来ず、全員の思考を停止させている。
本人は何も気にせず、ゆっくりと構えを解いていつもの表情へと戻す。彼女の周囲には押し潰されて砕かれた骨が散乱している。飛来して来た分、大量の骨が兵士として変化したのだろう。砕かれ粉々になった骨で地面は埋め尽くされ、草花は灰を被ってしまう程だった。
「………ふぅ、敵意の方は感じませんから問題ないですね。ドラゴンゾンビがこんな能力、異能を持っているとは……」
「……す、凄いです! あっという間に倒すなんて! 」
「そうですか? なら、少しばかりでいいです。私の活躍をそれとなく、ご主人様に伝えてくれると嬉しいですね〜」
「ハハッ、分かりました。それよりも………」
「大丈夫ですかね? この骨がまた動いたりは………」
「あり得ません。魔力は既に抜けていますから、動かないはずです。それこそドラゴンゾンビが魔力を宿らせて………あっ………」
「「「………」」」
空を飛んでいるドラゴンゾンビが、ちょうど彼らの真上を通過した。なんだか嫌な予感がして見上げる者達、そこには白い斑点の物が見える。
数分もせずにバラバラと音を立てて落ちてくる大量の骨に表情を失くす面々、嫌な予感が当たってしまった為にどんな顔をすれば良いのか分からないのだろう。
先程と違いすぐさま骨は変化した。ドラゴンゾンビによって新たに生み出されたスケルトンの兵士達、更に強化されたのか大剣や大楯を持っている。仕方なく武器や魔導具を抜いて構え出した全員は、呆れた表情でスケルトン達の相手をするのだった。




