禍時の小径 ④
禍時の小径は、地図に書いて見るとアリの巣を思わせるような構造になっている。幾重にも道が分かれ、進む度に選ぶ選択肢が増えていくのだ。だが多くの人達が迷うことは決してない。
何故ならば、最終的に辿り着く場所が決まっている為に、どの道を選んだとしても問題はないのだ。全ての通り道は正解であり、行き止まりはないと言われている。それに戦闘を行えるほど道幅はかなり広いが、数ある迷宮の中では狭い方に分類されていた。
故に禍時の小径と、少しばかり物騒な呼ばれ方をされていたが、名前の由来となっているのはもう一つあった。
私達が進む道の前方には、出入り口らしき明かりが見えている。ようやく洞窟を抜け出たその瞬間、映り込んだ光景に目が奪われる。
「………綺麗な夕焼けですね。てっきり私は、恐ろしい場所だと思ってました………」
詩音の言葉に全員が同感だと頷く。そこには、真っ赤に染まった夕焼けの空が拡がっていた。雲一つないおかげか影はなく、赤以外の色彩は排除され見当たらない。迷宮内であることを忘れさられてしまう程の光景が、私達の目の前に広がっている。
不思議なのは他にもあった。太陽が見当たらないことだ。洞窟内でもそうだったが、光源となる物は一切必要なかった。謎の生態をしたキノコが生えてたり、壁自体が発光している訳でもない。ただ単に明かりを使わずとも、周囲の状況が見えていたので普通に迷宮を攻略していた。
風の噂で聴いた場所をある程度予想していたが、私の想像以上だった。しかも、この光景は一日の半分くらい続くらしく、お勧めの観光名所だと言われていた。
その場にいた全員が光景に見惚れていると、突然起こった現象に目を剥く。切り替わる映像の様に紅の夕焼け空から、藍色の夜空へと侵食された。いきなり起こった現象とその早さに面を食らう。本来であればゆっくりと移り変わるのだが、突如発生した現象は数秒とかからずに終了する。
迷宮では従来の常識は通じない。まさに今回のようなことは迷宮内では頻繁に発生するのだ。最初のうちは驚きこそしたが、終わった後は周りの全員、当たり前の事だと納得した表情だった。
「夕焼けも良かったですが、この光景も良いですね」
「ええ、そうですね。まさか、変遷の時に立ち会えるとは運が良いです。態々見ようと計画を練っても見れないことが多々ありますから………」
「変遷ですか?」
「………迷宮内で起こる現象は大抵そのように呼ばれてますよ。滅多に起きない変遷も中にはありますが、此処はそこまで苦労しなさそうですね」
疑問に思う詩音に解説していくニア先生、授業での時を思い起こさせる雰囲気が漂っていた。案の定、少し話し始めたと思ったら、詩音の方へ振り向き長い説明に入ってしまう。
ニア先生の言った通り、迷宮内で起こる全ての現象はまとめて変遷と呼ばれている。天候が急激に変わるのは当たり前、いつもより魔物の出現頻度が高くなっていたりするのもそう呼ばれていた。場合によっては、対応した行動を取らないと命に関わる事にもなる。
禍時の小径で起こる変遷は、私達が地上で経験している約二時間をほぼ永遠に繰り返していた。夕焼け空から、陽が沈んだ夜の時間帯を何度も繰り返し、その度に魔物の出現頻度を大幅に上げている。
行きと帰りでは、攻略の難易度は変わっているらしい。出現する魔物の種類が少し増えているのに加えて、戦闘の最中に関わらず乱入してくる魔物がいるくらい変わると聞いた。つまり、変遷が始まる前と比べてみると明らかに魔物の出現率は変わっている事が分かる。
とは言っても、このパーティーであれば問題ないだろう。連携が取れているのかは分からない。だが、戦力は充分過ぎるほど有るのだ。もしもの時にはリヴィアが戦闘に参加し、魔物を倒す手筈になっている。
その後は、詩音に対して充分な説明をしていたニア先生は山下君と喋っていた。あれだけ話していたのに話し足りないらしい。そのまま魔物に出会うことなく、一つの集落に辿り着いた。
そこには様々な店が集まっている。飲食店、洋服店、宿屋、土産物を売っている店まであった。どこもかしこも客で賑わい騒がしい。迷宮を攻略していた際に何度かすれ違う人達がいたが、明らかにその比率を超えている密度、何処から現れたと言いたくなるだろう。
「凄い賑わってますね。迷宮内とは思えませんよ」
「観光名所だから………そう言えば此処に有る、光り輝く滝はさっきの変遷よりも綺麗らしいよ」
「輝く滝ですか、見てみたいですね。私の友人は絶景の一つだと褒めていました」
店で売られていた品々を物色しながら、他の観光名所と化した場所の話しをしていく。次はその場所に行く予定だ。今はそこよりも、目の前にある店を見る。
やはり禍時の小径らしくアンデッドが中心になっていた。仮面やキーホルダーなどの品、アンデッドがモデルになって売られている。店のイメージもハロウィンらしく、それが売りの店なのだと分かる。その品々の中に混じって一際目を引く物が売られていた。
「な、なぁ、小鳥遊。この卵はなんだ? 不思議な模様をしてるんだが………」
「ん? それね、食べられるよ?」
「まじか⁉︎ 此れが⁉︎」
「………嘘だけど」
「嘘かよ⁉︎」
エリスも気になったらしく卵を眺めながら、私に此れが何かを聞いてきた。不思議な模様をした卵、実際に食べられるかは私にも分からない。だが、その卵の正体は知っている。
「魔生卵だよ。孵化させれば、戦力になるかもしれない魔物が生まれる卵、偶に迷宮で見つかるから………此処で見つかったんだろうね」
「へ〜、そうなのか? ………ん? うげっ⁉︎ なんだこの値段⁉︎」
魔生卵は迷宮内で偶にしか見つからない珍しい卵、数少ないので高額な値段がつけられている。魔法陣では一体しか契約出来ない為に、戦闘が得意ではない者が魔生卵を買い取っては育てている。
生まれてくる魔物は、場合によっては特殊な能力を持っていることが多い。特に難易度が高い迷宮ならそれが顕著に表れる。それらを考慮した結果、さらに値段が吊り上げられていた。
ゆっくりと店内を歩き回っていると、外が騒がしくなる。確認をしようと外に出た途端、地面が揺れて耳をつん裂くほどの咆哮が鳴り響く。
異常事態だと分かり、私達は元凶を知る為にすぐさま外に出る。正体を確かめて私は驚いた。
「あれは………」




