銘
「姫様、これで宜しいでしょうか?」
「ありがとうございます。百鬼さん、羽白さん、これだけの魔導具を持ってきてもらって助かりました」
「大丈夫よ! これくらい、大したことじゃないから」
羽白さん達だけでなく、百鬼さんを含めた数人の社員までもが率先して手伝ってくれた。百鬼さんは大したことじゃないと言ったが、忙しい中なのにも関わらずにコッチの方を優先してまで、手伝いとして廻ってもらったのだ。有り難いという言葉以外でないだろう。
これでもかと大量に積まれた魔導具の数々、社員の人達に頼んで持ってきてもらった。目の前にある魔導具は何かと言うと、今まで試作品として作製したは良いが、使われずにひっそりと埃を被ったまま忘れ去られていた魔導具たちだ。開発途中で問題が発生したり、素材やサンプルが足りないせいで、最後まで完成出来なかったなどの理由で倉庫の肥やしになっていた。
魔導具の山から、一つ一つ手に取っては吟味していく。データを保存しているチップのクリーニングをして中身を新品にしたり、部品の交換を行い、丈夫にしないと使用出来ない物ばかりだ。必要そうな物だけは、ほとんど手間が掛からなかったので良かったが、中古品の場合には何が起こるか分からない。新たに使用する際は必然的に直すので問題ないのだが、そのまま使うと大惨事を招くことになる。
必要そうな物や用意した方がいい物を選び出し、別の場所へと置いていく。私が魔導具の確認を行なっていると、これから何をするのか気になった羽白さんは、後ろから声を掛けてきた。
「それで、姫様。これから一体如何なさるつもりで………」
「エリスが体内に保有する魔力には、異能の可能性があるんですよね? だとしたら、上手くいくかもしれない………」
魔法と異能の違いには、明確になっているものが多い。触媒なしでも何かしらの力を発動出来たり、発動条件さえ合えば、魔力の消費等に関わらずに行使可能な能力がある。
魔法の習得ならば努力でどうにかなるが、異能については未だに発現方法がないのだ。異能に携わっていたとされる者達は自身に、または他人に宿ったと思われる力、能力を詳しく知る為に文献を読み漁り調べたが、終ぞ分からなかったことが多い。人によって行使可能とされる範囲は千差万別で、使い物にならないと判定されたり、もしくは有能な異能だと太鼓判を押せる程だったりしたのだ。
一生の間に、異能が宿っていると理解してない者達は数多くいる。例えばエリス、彼女が最も良い例であり、詳しく調査を行わなかった場合はそのまま気付かないはずだった。
「魔力保存用の装置に、魔力移行を目的に開発された物まで………一体何を?………あっ⁉︎」
私が選別した魔導具を、順繰りに見ていた羽白さんは何かに気付き、驚きの声を上げた。様々な魔導具の中から持ち上げたのは、銀色に輝くインゴットだ。無言のまま、あらゆる角度から見終えた羽白さんは元の位置に置いた。
「まさか………最硬の金属"アダマンタイト"を使う気ですか?」
「アダマンタイトって、あの? とんでもない硬度を誇るっていう、ミスリルすら目じゃない金属?」
百鬼さんも一度は聞いたことがあるのだろう。不思議そうに首を傾げて、羽白さんに例の鉱物かと尋ねている。それに対し先程と同様に、無言で頷き返して肯定していた。オリハルコンやヒヒイロカネと並んで、知らない者はいないとされる位の有名な鉱物だ。
アダマンタイトが置かれていることに気づいた羽白さんが、手に取って驚いていたのには理由がある。大抵の場合は、それを元に魔導具は作製しない。何故なら、アダマンタイトには特殊な性質が宿っていたからだ。
"魔力を弾き通さない性質"そのせいで魔導具には全く使えなかった。もしも加工を行い武器とするなら、魔法を使用せずに運用していく必要が出てくる。未だに、アダマンタイトをサンプルに様々な魔法実験を試されているが、成功例は出ていないのだ。
「ふ〜ん、それを中芯にして武器に?」
「正気ですか? と言いたいところですけど、使う気なんですよね? 」
「えぇ、エリスの魔力が通った魔導具は全て、壊れてしまいますから。それなら魔力自体を通さなければ良い話しです」
「………それだと、魔法が使えないのでは?」
「なので、私の計画を聞いて作製出来るかどうか判断してください」
羽白さんは耳を傾けて計画を聞いたところ、可能と判断したみたいだ。私が考案したのは、アダマンタイトをコーティングして魔力を弾くことと、滞留させた魔力を凝縮して撃ち出す方法だった。
その後、羽白さんを含めたエキスパートと言える者達の手によって、素人が手出し出来ない位に緻密な構造になっている一振りの大剣が生み出された。それが、エリス専用のバスタードソードだ。
「という訳で………製造に関わった人達は皆んな、十中八九、エリスがまた壊すだろうと思ってたよ」
「そ、そうなのか? そんなに内部構造は繊細なのか?」
「まぁ、机上の空論で作製した上に、魔力を殺さずに保存するのは難しいから。コーティングがしっかり出来ていなかったら、今頃はとっくに壊れてるよ」
「ちなみに聞くが、小鳥遊は………あたしが壊すとは思わなかったのか?」
「成功するか? それとも失敗するか? 何言ってんの? もちろん後者だよ」
「裏切り者!」
エリスは、私が壊さない方に賭けていると思ってたらしい。頬を膨らまして怒っている雰囲気を出しているが、心の中では安心しているのだろう。なにせ、貰い物をスクラップにするところだったのだ。
どちらかと言えば壊れる可能性が一番高く、その場にいた全員が満場一致で肯定していた程だった。もしも何かが足りなかったり、コーティングや部品の製造が不十分の場合は、エリスの手によってすぐ様ガラクタに生まれ変わっていたはずだ。そうでなくても機能していなかっただろう。
「良かったですね。素敵な贈り物じゃないですか!」
「もしも壊れていたら、ただの頑丈な武器に変更しているところでしたよ。成功して良かったですね、本当に………」
詩音や委員長たちは、エリスに賛辞を送っていた。
もしも本当に壊れていたら、目を当てられなかっただろう。各々の意見を言い合って盛り上がっているが、まだ安心は出来ない。最終テストに合格するまでは、アダマンタイトの魔法実験に成功してすらいないのだ。
「あっ! そう言えば、大剣の銘は何ですか?」
「銘? そういえばそうだな、小鳥遊! これの名前は何だ?」
どうやら詩音は、銘があるかどうか気になったみたいだ。エリス専用のバスタードソード、大剣である以上は自分自身で付ければ良いと言いたいところだが、面白半分で社員の人達が付けた銘があった。
「"デストルクシオン"それが大剣の銘だよ」




