贈り物
何事にも準備が必要だ。
エリスのように対策し過ぎるのは問題だが、それは悪いことじゃない。迷宮に行く為には、最低限の準備をする必要が出て来る。これもその一環として考えなければならない。
戦力としてパーティーメンバーの数を増やし、バランスよく配置しなければ攻略自体が難しくなる。現在の私達では、戦力が足りていない上にバランスが偏っていた。パーティーを組み、整える為には人材の補充が必要不可欠だからだ。
パーティーを編成するのに最適とも言える人材を探していたところ、すぐに見つかった。喫茶店に来てくれたクラスメイトの二人がそうなのだが………
「あの………どうしてニア先生が此処に? 私、呼んでいませんよね?」
何故か知らないが、声を掛けるどころか呼んですらいないニア先生が此処に来ている。多分クラスメイトの二人の内、山下君に付いて来てしまったのだろう。
「それは………教師である以上、生徒達の面倒を見るのは当然ですからね!……… あ、えっと、まぁ、不純異性交遊等がないかの確認です。うん、そういうことにしましょう!」
「………山下君、言われてるよ?」
「えっ⁉︎ ちょ! そ、そんなこと、しないであります!」
とりあえず山下君に尋ねてみると、手を大袈裟に振って違うと否定している。そしてもう一人いるのだが、その場の勢いで呼んだ為に彼の名前が分からない。
「えっと、あなたは………」
「僕はアベルだよ。武器は弓で、魔法が少々使える位かな」
アベルと名乗った同じクラスメイト、森人族らしく弓使いであり魔法も得意みたいだ。学園の行事である迷宮攻略が行われた際に、私が入る予定だったパーティーメンバーの一人になっていたらしい。
参加自体出来ていないので分からないが、これで必要な人数は揃った。
「ところで、早速集まってもらって悪いけど、編成の方を決めていこうか。先ずは………」
「前衛ですね、誰にするのですか?」
「前衛は、詩音とエリスの二人に頼みたいんだけど、良い?」
「ああ、前衛だな?良いぞ」
「問題ありません」
「次に後衛の方なんだけど、そこは委員長とアベル君で」
「分かりました」
「任されたよ!」
「それで中衛だけど………」
迷宮に潜る際のパーティーメンバーは、六名程が良いとされている。パーティーの主な構成には、前衛、中衛、後衛の三系統に分けた場合が効率的になっているのに加えて、所持している武器によってそれぞれ分けられるのだ。前衛と後衛は決まったが、残りの中衛に就くべき人選がまだだった。
元々偏りがあったので、リヴィアにはカバーをしてもらったり、有事の際に率先して動いてもらおうと考えていた。そういえば、山下君の得意とする武器は未だに聞いていない。そこを聞いてからでも遅くなかった。
「山下君はどんな武器、魔導具を使うの?」
「あー、序列第八位については知っているでありますか? 小生の武器は、これなんでありますけど………」
テーブルの上に取り出したのは、少し古びたバッグだった。恐らくアイテムバッグと呼ばれる、収納に特化した魔導具がそれだろう。だが、それ自体が山下君の武器ではないはずだ。彼の事をよく知る人達なら、ある程度は予想出来る。序列第八位は特定の武器を使用しているが、実際には別の魔導具すらも武器にして、魔物を討伐していた。
もしも憧れの人物を真似ているなら、自分自身で作成した魔導具が武器になるだろう。そのバッグの中には、様々な魔導具が全て収納されていると思われた。
山下君はバッグを開き、中から目を見張るような物を次々に取り出しいく。
「もしかして、これ全て作ったの? 自分自身で?」
「玩具みたいな物であります。役立つ物も有れば、使えない物も………」
「まさか、凄いよ! これだけの物を自作出来るなんて!」
「そうだろ? こいつの作った奴はとても便利なんだ」
「私もそう思います。迷宮攻略した際は助かりましたから」
エリスと委員長が肯定するのも納得だ。どれもこれも精巧に作られていて、素人が作成したとは思えなかった。各々、並べられた魔導具を手に取っては面白い物でも見るように眺めている。
今回の件で、役立ちそうな物を詰めてきたのだろう。本来なら後衛で戦闘に参加した方が良いのかもしれないが、自由に前衛と後衛を行き来させられる中衛に就いた方が良いと思った。
「それなら山下君は中衛で、私もその場所に就くから」
「分かったであります。それで………小鳥遊殿は一体どんな魔導具を使うのでありますか? 前は一緒に迷宮には行けなかったでありますから。ちょっと興味が………」
「あっ! なるほど、まだ言ってなかった? 私、迷宮では槍を使う予定だよ。それで一つ思い出したんだけど………リヴィア!」
「かしこまりました」
先程まで完全に忘れていた。リヴィアに頼んである物を出してもらう。片付けられたテーブルの上に、それがポンッと置かれた。ワインレッドの小さな四角い物体に、可愛らしくリボンが括られてラッピングされたプレゼントらしき物。
見ただけで誰かに対しての贈り物だと分かる。全員の頭の中にはそれが理解出来ても、誰の誕生日や祝い事か分からないだろう。私は手に取って、渡すべき相手に差し出した。
「エリス、プレゼント!!」
「あたしに? ありがとう………」
「後、そこにボタンが付いてるでしょ? 押してみて」
プレゼントをエリスへと渡した後、ボタンを押すように促す。早速リボンを解いてから彼女はボタンを押した。次の瞬間、足先から胸元までの長さはあるバスタードソードが出現し、自然とエリスの手に収まる。
突然の事でエリスは、言葉を失くしてバスタードソードに見惚れていた。喜色満面の笑みでいるところを見ると、嬉しいのだろう。
「小鳥遊………もしかしてこれって」
「少し前に検査を受けてたでしょ? その時に色々としたんだけど………とりあえず、魔力を流してみて」
「ん〜、まぁ、いいが」
予想していたが、やはり乗り気でない。いつものように壊してしまうと思っているのだろう。同じ立場からすれば、躊躇ってしまうのも仕方なかった。新品同然の、それも人からの貰い物であれば当然だ。
不安そうな表情で剣の柄を握り締めたエリスは、自身の魔力を送っていく。すると、カシャンッと音を立てて柄の部分から剣先まで変形していった。その場にいた全員はその現象に驚き、口を半開きにしている。
「カッコいい〜!!」
ようやく意識を取り戻したエリスは、変形したのを見て興奮した様子で目を輝かせていた。私がこの時に思ったことは一つ………
嬉しがるエリスには絶対に言えない。安全装置が解除されただけなんて、口が裂けても言えなかった。
魔力を流したことで安全装置が作動し、魔力自体を受け流して魔導具内で滞留させている。本来の用途とは別の魔法を引き起こす準備段階に移行出来たと、改めて分かった。前回のように魔導具が壊れないのが証拠だ。
だが、エリスには伝えなければならないことがあった。それは「他の人達と同様に魔法が使えない」という事だ。
「えっと、エリス、大事な話しがあるんだけど……」
「小鳥遊」
名前を呼ばれた際、少し悲しそうな表情をした後に私のことを強く抱きしめてきた。
「ありがとな、小鳥遊」
「………うん、どういたしまして」




