家族
空を見上げると、すでに日は落ちて暗く、夜になっていた。このまま列車に乗って帰ることも出来なくはないが、その場合には深夜を越えてしまうことは容易に想像できた。かと言って、無理に乗って帰ることにしなくても良いだろう。
「どうするんだ?」と言ったエリスに対し私は待つように促す。三人はどうすれば良いか訳も分からない様子だったが、それほど長い時間を待つことなく目の前に一台の車がやってきた。
夜のせいで暗くなっていた為に、誰が運転しているのかは分からない。だが私には、車に乗っている運転手が誰なのかは、手に取るように想像出来た。滑るようにゆっくりと停車した車の窓ガラスが下がり、運転していた人物が正体を現す。
「お・ま・た・せ」
「「「………」」」
まさかの第一声に、私は声が出なかった。他の三人も同様に思って声を出せないのだろう。目をパチクリとしているだけで反応していない。車から顔を出したのは私の父親、表情は決まったと物語っていたが、その直後固まることになる。
「スゲー! もしかして、最新モデルの"アルタイル"かよ」
車に齧り付くように見回し始めたエリスに、私の表情は既に引きつることしか出来ないでいた。まるで、キズがつきやすい宝石でも扱うように手を触れずに見ている。さらには端末を取り出し、車の持ち主に許可を得て撮影を開始し出した。
聞かれた本人はその勢いに、ただ頷く事しかできずに石像と化している。エリスの持つ、あまりの執念にその行動しか取れないのは私も同じだった。私と同様に、詩音も驚いている気持ちだろう。隣でどうして良いのか分からずにいるのだ。
そういえば、委員長が先程から見当たらない。何処かで逸れてしまったかと辺りを探していると、エリスと同じように鑑賞していた。
「私は将来………大人になったら車を乗り回して、街を飛び出そうと思ったことがあるんです。あの頃が懐かしいですね」
「ちょっと何言ってるか分からない」
感傷に浸り出した委員長、訳が分からなかった。過去に何があったのかは推測ぐらいしか出来ない。街を飛び出してまで嫌なことがあるならば、それは仕方ないと言える。
その後、ようやく落ち着いたエリスと委員長を伴って、車は走り出した。
車が走り出してから十何分程か経った頃、とある一軒家の前にて止まった。車から降りた私達は、その全貌を見渡している。ライトアップされたおかげで、夜にも関わらず家の全体像が分かりやすい。
豪邸とまではいかないが三階建てはありそうな中々の邸宅、しっかりと管理されてる影響か落ち葉一つなく、植えられた植物は青々としている。清潔な印象をを与えるこの家は、何を隠そう私の実家だ。
三人は何も言わないが既に察しているのだろう。今日は此処で、夜を明かし過ごすと分かっているはずだ。私達は玄関まで歩いていき、中へと入る扉を開ける。
すると………
「「お姉ちゃーん!!」」
「グヘッ⁉︎ 」
突如、お腹に突撃されて衝撃がくる。前にもあった光景がまたもや再現された。飛び込んで来たのは二人の少女だ。とてつもない衝撃にお腹を摩って和らげていると、真っ先に意識を取り戻した詩音が心配してくれる。
「だ、大丈夫ですか!」
「大丈夫だから問題ないよ。真夜、真昼、久しぶり………」
「「久しぶりお姉ちゃん!!」」
詩音に問題ないと返した私は、改めて二人の少女を見る。ショートの黒髪に赤い瞳をした少女と、ロングの金髪に青い瞳をした少女の二人、髪や瞳はそれぞれ違うが似た顔をしていた。つまりこの二人は双子にして、私の妹達だ。それぞれ双子の自己紹介をしようと思い、三人の方へと向き直る。
「皆んな、紹介するよ。私の妹である双子の………」
「"真夜"です!」 「"真昼"です!」
黒髪の方が"真夜"で、金髪の方が"真昼"髪と瞳が違うので区別がつきやすい。
仲の良い双子の妹達に近づいた三人は、自己紹介しながら妹達の頭を撫でて可愛がっている。私からすれば自慢の妹である為に、三人の反応は素直に嬉しかった。
「私は詩音と言います。可愛いですね!」
「エリスだ、あたしにも弟妹がいるが可愛いな」
詩音とエリスは双子の頭を撫でて、可愛いと言い合っている。エリスに弟や妹がいるとは驚いたが、それよりも委員長は、車を鑑賞していた時と同じ表情をしてどこか懐かしそうだ。
「本当に可愛いですね。この双子は、私は弟よりも妹が欲しいと思っていたんです………」
「そうなんだ………」
なんだか、悲しそうな表情が入り混じった感じがして何も言えない。思った以上に過去に何かあったと分かる。あまり詮索しない方が良いと思い触れずにいると………奥の方から一人の女性が顔を出した。
「あら? 玲夏ちゃん。おかえりなさい」
「ただいま、母さん」
顔を出したのは私の母親、隣には父親が立って様になっている。相変わらず若々しいカップルと言えなくもない二人は、自己紹介を始めた。
「みなさん、こんばんわ。玲夏ちゃんの母親である"レイン"と言います」
「改めてよろしく! 父親の小鳥遊"真刀"だ。いつも娘が世話になっている」
両親が名乗ったことで三人は畏まり、同様に自己紹介を行っていく。そのまま留まるわけにはいかず、玄関先にいた全員はリビングへと移動した。
リビングの卓上には既に夕飯が支度されており、三人の目が釘付けになる。時間が時間なのでお腹が空いてペコペコだった。
「今日は手巻き寿司よ〜!」
「美味しそうですね!」
「あれから色々とやらされて、食欲が沸かないと思ってたけど、こうして見ると食べたくなってきたな…」
「ですね………」
思わぬサプライズに喜ぶ面々、パーティーに最も適した手巻き寿司が今晩の夕食だった。海苔や酢飯が用意され、よく有る具材の数々が揃っている。中には、オカズとして食べられるハンバーグや豚カツなどの料理が、手巻き寿司に入れられるように小さく一口大にされていた。今晩の食事はとても豪華だ。
実家に連絡は入れていない。クロミア社に着いたのと同時に、社長である父さんに伝わったのだろう。結果的に私が家に帰って来ると思い、夕食を用意し待っていたのだ。もしも途中で帰ったとしても、何らかの手段を用いて社員の人達に止められたはず。元々帰省するつもりでいたので、そんな事にはならずに済んだ。
食卓を全員で囲み、決まり文句を言い終え早速手をつける。詩音は、定番であるマグロの赤身や胡瓜を酢飯と海苔に巻いて食べていた。エリスも同様に、サーモンや細切りの卵焼きを入れて食べている。各々、好きな食材を中心にして頬張って食べているが………
ただ一人だけ、いつもと様子が違う。ワイワイと盛り上がり美味しそうに食べて、皆んなが笑顔になっている中で、私が気になったその人物は委員長だった。
彼女は落ち着いた感じで、どこか上の空だった。
「委員長、食べてる?」
「はい、食べてますよ。美味しいですね〜」
「それなら良かった」
先程とは違い、委員長も笑顔溢れる表情で手巻き寿司をパクつき出した。無理をしてまで食事をしている様にはさすがに見えない。そんな彼女の事が気になっていた両親の二人も、私達との会話に口を挟んだ。
「滴ちゃん、って言ったわよね? まだまだあるからいっぱい食べてね」
「そうだぞ、玲夏ちゃんの友達だからな!遠慮はいらない」
両親の言葉に委員長はこちらを振り向く、何かあるのかと思っていると………
「素敵な家族ですね、小鳥遊さん。此処に来て良かったです。ありがとうございます………」
委員長は、私にお礼の言葉を言った後に食事に戻る。憑物が落ちた表情で笑って食べる姿は、不安や悩みを払拭したといった感じだった。




