待ち時間
案内が終わって一息ついた後、未だにエリスの診断は続いているらしい。今は会社内の演習場で、魔力制御を詩音と委員長に教える事になった。
肝心の魔導具がなければ習得に時間がかかり、難しいはずだが問題はない。此処にきた理由の一つには、様々な魔導具が保管されていたからだ。もちろん、エリスが壊してしまったプロトタイプの魔導具もここにある。
早速、最新の物よりも一つ前に作られた、旧式の魔導具を引っ張り出してきた。すぐに魔力制御の特訓を始める事になったが、ものの数秒で終了してしまった。
「あっ! 出来ました」
「嘘っ⁉︎ 」
開始数秒で魔力制御の基礎が終わってしまう。詩音の持つ魔導具を確認すると、魔力が供給されていない証拠として、赤いランプが何度も点滅している。私の予想では、最低でも数ヶ月は習得に時間がかかるはずだった。
魔力を、自分の思い描く通りに動かす事自体が、一番難しいとされている。実際に私も三ヵ月もの時を費やして、魔力制御の練習に励んだ思い出があった。それだけに、こうもアッサリと出来てしまったことに衝撃を受けているのだ。
一つだけ思い出した。前に詩音は高難易度とまではいかないが、難しい魔法を簡単に覚えてしまったと言っていた。まさか此処でその実力を発揮してしまうとは思わなかったが、これはまだ最初の段階でしかない。
「はぁー、こんな簡単に出来るとは………」
「すいません、小鳥遊さん。私もやって良いですか?」
「委員長も?」
一人で頭を抱えて溜息を吐いていると、委員長も行いたいと言ってきた。それに対し詩音は、持っていた魔導具を委員長にそのまま渡す。彼女からしてみれば貴重な体験になるだろう。
必要になる物を後で委員長に渡そうと思ったが、まずは魔力制御の特訓だ。渡された魔導具を受け取り、それを握った彼女は集中しているようだった。そして委員長は………
「………出来ましたね」
「あんたもかい⁉︎」
まさか詩音だけでなく、委員長すらも何の問題なく簡単に出来てしまうとは思わなかった。とんだチート集団と言って差し支えない逸材の二人が、今此処にいる。あまりの驚きに、私の頭の中がこんがらがってきてしまう。
問題児が一人に天才が二人、エリスはともかく、これで詩音と委員長は次の段階に移れる事が出来る。手間がかからないことは良いと言えるが、此処まで来ると戸惑ってしまう。二人は落ち込んでいる私を励まそうとしてくれているが、その元凶は二人にあった。
一段階目までしか終わってない以上は、早い内に次の段階に移った方が良い。詩音に向き直り、持ってきていた魔導具を出すように言った。そうして彼女が取り出したのは"刀"のようだ。鞘に収められた、斬ることに特化した武具が、詩音が所有している魔法用の触媒であるみたいだった。
「魔力を動かす事が出来たみたいだから。次に行こう、とりあえず観てて………」
死月の蒼槍をいつものように取り出し構える。今から何が始まるのか、二人は興味津々で身を乗り出した。私はそれに構わず、魔力を制御して動かす事に集中する。自身の内に存在する大量の魔力を魔導具へと一気に送り込んだ。
すると、槍の周囲にモヤが掛かるかのように青白い光が纏わり付いていた。二人はその光景に目を奪われ、思い切り見開いた眼で正体を探っているように見ている。だが言わなくても分かる、先程の特訓内容からある程度、推測出来てしまう。衝撃を受けていた理由は別のところにあった。
「可視化する程の魔力!………」
「………本来であれば、ここまでハッキリと見ることは難しいのに、小鳥遊さん。あなたはどれだけの魔力を保有しているんですか?」
私が行なったのは、リヴィアが前にしていたのとそんなに変わらない。高濃度の魔力を固めた結果的に、見える程になっていた。魔導具の強度を上げるだけでなく、刀であれば斬れ味を良くする効果もある。
可視化する程の魔力は通常、観測は困難とされていた。魔導具の力を借りて見ることが当たり前だが、幾つかの方法として大量の魔力を一度に送り爆発させれば、魔力自体を観測出来る。
とても危険な行為である為、研究者ですら進んでやりたがらない。最悪の未来を引き起こすことはすぐに分かる。さらに不発で終わる可能性も否めなかった。
「詩音、やってみようか?」
「えっ?」
いきなり指名されたせいか、驚きと困惑が入り混じった表情をしながらも、刀を鞘から抜いて両手で構えた。無駄な力が入っていないおかげもあり、構え方は自然体に見える。
それだけでも余程の使い手だと思い知らされたが、刀の輝き具合などを見ると、相当な業物だと分かった。
「魔力を動かして、刀に纏わせるイメージで!」
「はい!」
言われた通りに行ったようで、魔力が動いて刀に纏わりついていく。実際に、私の魔眼には魔力の動きが見えているのだが、委員長の眼には映らない為に何が起こっているか分からない。
本人しか知覚出来ないのが難点、それを詩音は、感覚を頼りに何とか形にしている。そうこうして魔力制御を続けている間に、エリスの診断が終わったのだろう。
フラフラになりながらも、こちらの方に歩いて来る姿が見えた。相当、時間が掛かっていた為にある程度察していたが、色々やらされたと見ただけで分かる。
心配になった私達は、すぐさま駆け寄って体調を伺う事にした。
「大丈夫?」
「精神的に疲れた………しかもあの人達、診察が終わった後も必要なさそうなことまでするように要求してきて、何処か頭がおかしいんじゃないか?」
「否定できない………」
根っからの研究者気質の者達ばかりいる此処では、関係なさそうな行為を勧めてくる事があった。様々なサンプルやデータが欲しいという気持ちからきている。
エリスの場合には、これだけでは足りないかもしれない。そんな事実を伝えたら、絶望した表情を彼女は浮かべることになる。今は黙っておこうと思い、口を閉ざす。エリスを休憩させたのち、私だけは別行動をすることにした。
とある研究室の一室に、私を含めて数人の研究者達がいた。もちろん、その中には責任者である羽白さんも集まり、エリスの診断結果を確認することに………
「どうぞ、姫様。此方が今回の結果になります」
「ありがとうございます」
受け取ったカルテ、診療記録に目を通した。エリスに関する記録が所狭しと書かれ、見落としがないように確認していく。身長、体重、特徴まで詳細に説明されている。しかもエリスのスリーサイズまで明確にされていた。
さすがに本人には見せられないだろう。カルテの詳細を見たところ、特に悪いところは見当たらない。いや、今日はそんな事をしに来たわけではないことを思い出す。魔法が使えない原因を探りにきたが、これでは魔力に関する問題が分からない。
「ん? 此れは?」
「ちょっとした実験です。必要になるかと思いまして、どうでしょう?」
研究者の一人から渡されたのは、十数枚はある写真の束、どうやら実験した様子が逐一報告された資料も大量にあるようだ。その中から、一番に気になった写真を手に取って眺める。写っているそれにはエリスの姿と、何かしらの魔導具を持っている写真だった。
結果は言うまでもなく簡単に想像出来たが、そんなことに構わず魔力を流した。すると、魔力を流された写真に変化が起こる。動画でも見るように再生され、その時の行動が分かった。エリスの手にあった魔導具は、爆散して形を無くす事になる。やはり見て確認する必要はなかったようだ。
写真型の魔導具、数秒程のムービーを撮影して写真という記録に写した、媒体用の魔導具だ。動かない仕掛けの物も存在するが、残りの写真も同様に動く仕掛けになっているだろう。
実際に動画で見るのと違い、すぐに選べるという利点がある魔導具の一つだが、濡れたり燃えたりしてしまえば使い物にならなくなる欠点がある。大量に置かれた写真や資料から、次々に選び確認していく。そして一枚の気になった写真には、希少な金属、オリハルコンのインゴットが写っていた。
先程と同様に魔力を流し、結果を見て衝撃を受けた。魔力伝導率が高く、とてつもなく頑丈と言われるオリハルコンにさえも、罅が入ってしまう。
あまりの結果に驚かずにはいられない。開いた口が塞がらずに驚いていると、羽白さんは一つの可能性を提示した。
「僕は思ったんですがね? 異能の可能性があるのではと………」
「異能………」
確かに、羽白さんが言った通りの可能性が高かった。魔力自体に異能があるならば、魔導具が耐え切れずに壊れるしかない。もしもそうだったら魔法は使えない………
「異能、魔法、それに魔力………」
「どうかしました?」
「あ! これだ、すいません羽白さん。頼みたい事があるんですけど………」
「えぇ、何なりと、お姫様」
魔法は使えないかもしれない、だがこの方法ならエリスを救える。そう思った私は、羽白さんに頼んである物を集めてもらった。




