会社内
三人それぞれの自己紹介を終えた後、とりあえず私達は百鬼さんに先導される形で、会社内を歩く事になった。先程の受付嬢に全て任せた状態で出歩く以上は、問題ないと太鼓判を押しているのだろう。
「いつもありがとうね!姫様。美味しい手土産を貰っちゃって、社員の人達も喜ぶわ!」
「いえ、お構いなく」
本来であれば応接室等で直接手渡すべきだが、立ち寄るとは思えないし、社員の数は多い方なので百鬼さんにお願いしてもらう事になった。今回は、お願いを聞いてもらう立場で足を運んできたのだ。その為に何もないよりかは良いと思い、見栄えのする手土産を此処に来るまでに選んで買ってきた。
案内され向かっているところは、魔導具開発部門に所属している人達が働く場所、そこでエリスの持つ魔力をじっくりと調べてもらう予定になっている。
廊下を歩いているとようやく目的の部屋に着き、百鬼さんが扉の取手へと手を掛け、勢いよく開けた。その瞬間に中の部屋で働く社員たちが、すぐさまこちらを見てくる。私が入室してきたことに気付いた人達は、パソコンに対して何かを入力していた手の動きを止めて立ち上がった。
「姫様だ!」
「姫様が来訪されたわよ⁉︎」
「早くもてなせ!今すぐに!」
飛んで来るようにしてやってきた人が頭を下げながら、奥の方へと案内を始める。それに対して疑問に思った三人は、私の耳元に顔を近づけて幾つかの質問をし出した。
「あの、何で姫と言われてるんですか?」
「さぁ? 分からない。結構昔からそのように呼ばれてるし、皆んなからかってるだけ………」
「そうか? 慕われている様に見えるが?………」
「私もそう見えます」
三人からそう見えているならそうだろう。何故そう呼ぶのか聞いてみた事がある。だが一言もそのことについて教えてくれなかった。会社内では定番と化した呼び方になっているのだが、中には訳が分からずに困惑している者もいる。
多分新入社員の為、事情をよく知らないままなのだろう。既に案内が終わったと察した百鬼さんが、私達の方を向いて言った。
「それじゃあ、私は戻るわね?あの子が少し心配だから」
「すいません、百鬼さん。此処まで案内してもらっちゃって」
「別に良いのよ? 大変じゃないから、他の三人も姫様の事をよろしくね?」
手を振りながら笑顔で去って行く百鬼さんに、三人はそれぞれお礼を述べていった。見送った後、まるでタイミングを見計ったかの様に、一人の男性が近づいてくる。
「やぁやぁ、姫様! お待ちしていましたよ。準備の方はとっくに終わってます。えぇ」
「こんにちは、羽白さん。今日はお願いします」
「大丈夫、問題ないよ! もしかしてそっちの子がそうかい?」
「そうです」
羽白さんはエリスの方を向いて確認を取った。私が肯定してから件の人物であると分かった彼は、近づき興味深そうに見回している。赤の他人で知らない人なら、次はエリス自身の手によって先程のように通報されているところだろう。
なにせエリスは、顔を目の前に持ってこられ一歩後ずさっている。しかもジロジロと見られれば、不快とまでは言わないが怖いはずだ。そのせいでエリスの表情は引きつった状態のまま固定されていた。
ようやく、他の人から見れば最悪に近い状態に気づいた羽白さんは「失敬」と言ってエリスから離れた。
開放されたおかげか、何度も深呼吸を繰り返しながら息を整えていた。緊張をほぐして落ち着いた彼女を見届けた羽白さんは、すぐそばにいた女性へと声を掛ける。
「早速で悪いけど、調べさせてもらうよ? そこの君、彼女を連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
「えっ? あ、ちょっと!」
声を掛けられた女性社員は文句一つ言う事なく、エリスを引きずるようにして連れて行った。彼女の話しは社内で有名になっていたのだろう。これから先の未来が分かっていたのか、女性社員の綻んだ笑顔を見るに研究しがいのあるモルモットが、自らやってきたという表情をしていた。
さすがに解剖まではされないと思うが、大変な目に遭うことだけは、なんとなく想像出来た。助けて欲しそうな表情をしたエリスも、自分の行く末を想像したのだろう。困った子犬のように瞳をうるうるとさせていた。彼女の姿が見えなくなった後、改めて向き直る私達に羽白さんは手を広げて歓迎してくれた。
「改めて、ようこそ! 魔導具開発部門の研究所へ!僕の名は羽白、お兄さんと呼んでくれ!」
「よろしくお願いします。詩音と言います」
「宝泉滴です。お願いします」
「すいませんが、この後はどうするんですか?」
「あぁ、それね! 特に決まってないよ? エリスが終わるまで待つしかないけど………」
羽白さんはニコニコとした笑顔で歓迎しているのに対し、詩音と委員長は畏まり挨拶をする。やはり気になる今後に、二人は不安そうな表情をし出した。現在はエリスの診断を行なっている最中の為、私達には予定が入っていない。その間は暇を潰してエリスが終わるのを待つしかないが、問題はないと言えた。
「あの子の診断が終わる迄は時間がかかる。僕がこの場所を案内しよう! ついて来てくれ!」
善意で言い出してくれた羽白さんに、感謝しながら後ろの方を着いていく。様々な説明を交えながらも、陽気に話しているせいか飽きがこない程に面白い。
「魔導具は大まかに、二種類に分けられている事を知っているかな?」
「戦闘用、もしくは生活用ですよね?」
「その通り! 世間ではその認識で間違っていないよ! けど………僕たちが作製している魔導具の認識は少し違うんだよ。職人が、素材の持つ能力を用いて作り上げたりするのと。僕たちみたいな技工師と呼ばれる者が、魔法陣を組み立て、魔法を発動させる基盤を作ったりするのではね?」
明確な違いこそないと言われているが、職人であれば戦闘用の物しか開発はしないと言って良かった。なにせ今とは違い昔は、珍しく入手困難な金属や、魔力を豊富に宿らせた大木から削り出し、剣や弓矢などの武具を作成するのが昔の手法であり一般的だったのだ。
結果的に魔法の触媒は値段が高くなる事が多く。一般の人からは手が出せない高級品として認知されていた。もちろんそれは過去の話し、現代の生活では魔導具なしで暮らすには厳しくなっている。良い面だが一つの弊害となっているのも、この世界の特徴と言えた。
それに対して技工師と呼ばれる者達は、近代文明の産物であるパソコンを使用して、生活用の魔導具を作り出している。魔力を流せば魔法を発動させること自体は可能だが、素材によっては生活に適さない威力を出してしまったり、まったく使えない代物へと変貌を遂げる場合があった。だがそれは、技工師が手を加えなければの話しになる。
本来、創り出せない物を作製する際に用いられたのが、魔法陣と魔法文字である。技工師は、魔法陣を形造り魔法文字をあてがう事で、魔法を発動させる基盤を創り上げたのだ。さらに魔法陣をデータに置き換え情報を圧縮することで、魔導具の小型化に成功している。
私達が現在、とても便利だと思っている端末が、その恩恵を一心に受けていると言っても過言ではなかった。この方法が見つからなければ今頃は、魔法が使えない者にとって住みにくい世界のままだっただろう。
「勉強になりました! 羽白さん、ありがとうございます!」
「私もです、貴重な体験をした気分でした。ありがとうございました」
「あ、いや、僕は大したことはしていないよ」
詩音と委員長からのお礼に、羽白さんは顔を赤くし恥ずかしそうに照れていた。




