工業都市
工業都市と呼ばれる通り街の中には、様々な工場や企業が建ち並び乱立している都市だ。食糧、金属、繊維、化学などといった工業製品を、休む暇もなく毎日のように生み出していた。そうして出来上がった製品を梱包し、各地の街へと届けられる仕組みになっている。
日夜、毎日のように工業都市から多くの製品が出荷されていくが、この街一番の特色は魔導具を開発することだった。他の街よりも生産と共に開発に秀でている影響か、態々遠方にある街から素材を持ち込んでまで、作製してもらおうとする人達がいるくらいだ。
私達が工業都市にいる理由は、そんな人達と遜色ないと言えるだろう。なにせ結局のところは、実用性のある魔導具を開発してもらうつもりだからだ。街に滞在している間の数日で、エリスが持つ魔力の原因を究明出来れば御の字と言える。
「着いたよ! 此処が私達の目的地………」
「「「………」」」
目的地に着くと同時に、口をあんぐりとして目を見開いていた。驚きの表情のまま動かない理由は建物のせいだろう。十数階はある巨大な建物、いかにも一流企業を思わせる程の気配を振り撒く超高層ビルに、三人はただ見上げることしか出来ていなかった。
もしも事情を知らずに連れてこられたら、同様に私も開いた口が塞がらずにいただろう。この場に延々と居ても仕方がない為、三人に対して声を掛けた。
「高層ビルに驚いているところ悪いけど………移動しようか?」
「………いえ、確かに驚いていますが、驚いている理由が違います!」
「雨宮さんの言う通りですね!」
「あぁ、何で一流企業の会社に来てんだよ?」
「ん? 何でって、此処は………」
「「「此処は?」」」
「此処は、私の父さんが社長を務める会社だけど?………」
「「「………」」」
本日二度目の絶句したと言わんばかりの表情、言葉が理解出来ていなかったのか、固まってしまっている。とりあえず三人のすぐ目の前で手を振って反応を見てみると、少しずつ意識が覚醒したのかパチパチと目を瞬かせていた。
その後、ゆっくりとお互いの顔を見合わせて意見を言い合っていたが、小さくて聴き取りづらい。近づき声が聞こえる距離に行くと、ちょうどそのタイミングで三人はこちらを向き始めた。
「これは所謂、社長令嬢ですね」
「あぁ、そうだな………」
「私は、いままで玲夏さんが社長令嬢とは知りませんでしたよ」
「いや、三人共、社長令嬢とか大袈裟だよ………」
「そうですね、一番驚くべきところは会社の方ですね………」
空を見上げた委員長と同調するかのように、詩音とエリスの二人も見上げている。その視線の先にあるのは会社の名前とシンボルだ。
会社名はクロミア社、魔導具産業の代表格であり、魔導具に携わる者でその存在を知らないと言う人はいないとされていた。そして会社全体を表すシンボルには、青と赤のオッドアイを持った白い猫がモチーフにされている。
創業自体、私が生まれる前から立っていたらしく魔導具を開発する以前の話しでは、食糧生産等も行なっていたみたいだ。時代を経る際に、魔導具の開発に専念していたと聞いた。
私が歩き出したのを見て、三人は後ろからついて来る。そのまま私達は、受付ロビーにいる二十歳に見える女性の元に着くと、その人は接客業のマニュアルで習ったかのような文言で声を掛けてきた。
「こちらはクロミア社でございます。要件は何でしょう?」
違和感のない接客応対、身嗜み、言葉遣い、表情、何一つとっても完璧と言えた。だが私が前回に来た際とは違い、全く見覚えのない歳若い女性が受付をしている。
まるで、新社会人というべき雰囲気を醸し出しているところを見て、会社側の人達が新しく雇った新人社員だと分かる。今まで訪問した際には必ず、顔見知りの人が応対してくれていた。そのせいか、別の企業に間違って来た感覚に襲われて不安になる。
今はただ、何かに対応していていないだけか、有給を取得して休んでいるかもしれない。さすがに黙っている訳にもいかないので、仕方なく要件だけでも先に伝えておく事にした。
「魔導具開発部門責任者の羽白さんに、取り次いで貰えませんか?」
「すいませんがアポをお取りになっていますでしょうか?」
「アポ?………ですか?」
「なければ、承知致しかねます」
アポイントメントは取っていない、此処へは突然の訪問なので覚悟していたが、やはり大企業になる会社だと必要になってくるだろう。私の事を知らない以上は通ることは難しい。
受付嬢とのやり取りで、後ろで控えている三人は不安そうな表情で見てくる。今此処で別の手段を用いらなければ、意味もなく帰ることになりかねない。
「すいません、百鬼さんはいませんか? その人に会って事情を話したいんですけど?」
「なっ、なんで上司の名を⁉︎ 」
どうやらこの受付嬢の教育係は、思った通り百鬼さんが担当していた様だ。彼女に会えばすぐに解決するが………応対していた受付嬢の性格は頑固なようだった。
「上司の名を知っていたとしても、アポをお持ちでないなら無理です!! 今すぐお引き取り下さい!」
凄い剣幕で断られてしまった。そう言う事なら、今日のところは帰るしか方法がない。また明日出直そうと、その場を去ろうとするが「イテッ⁉︎ 」と痛そうに受付嬢は声を上げて頭を摩っていた。
その元凶を引き起こしたのは、もう一人の制服姿の女性だ。彼女が受付嬢の後ろに立って、笑顔なのにも関わらず額に青筋を浮かべていた。それだけで相当お怒りなのが分かってしまった受付嬢は、青ざめた表情でプルプルと震えている。
彼女は「はぁー」と大きな溜息を吐き出した後、こちらに振り向いた。
「久しぶりね。姫様、元気にしてた?」
「お久しぶりです、百鬼さん。ちょうど良かったです。実は………」
「大丈夫よ? さっきまでずっと見てたから」
見ていたと言う事は、受付嬢の教育の為に口を出さなかったのかと改めて思った。どこまで応対出来るのかの判断をさせていたとは分かったが、私の時に試さないで欲しい。
「あ、あの………百鬼さん。こちらの方と知り合いで?」
「そうよ、というか?姫様はこの会社、クロミア社の代表である社長の娘よ?」
「ッ⁉︎」
知らされた事実に思い切り私を見た受付嬢、ぐるんという音が鳴りそうな速度に、隠しきれていない驚愕の表情、私はその勢いに一歩後ずさった。
「すいませんでした! そうとはつい知らず申し訳ありません。許してください!」
「はぁー、全く!最初は良かったのに、何で私の名が出た時呼ばなかったの?」
「だ、だって先輩! あの人の差し金かと思ったんです!」
「「あの人?」」
あの人と呼ばれる者に、私と百鬼さんは首を傾げて受付嬢が指差している方へ顔を向ける。少し離れた場所からこちらをジッと見つめている、一人のスーツを身に纏った身なりの良い男性、しかも私達の方を見て唇の端を持ち上げニヤッとしていた。
「とりあえず警察呼んで」
「あ、はい、分かりました………」
身なりの良い男性だが、百鬼さんが放った一言で分かることがある。十中八九間違いないだろう、あの男はストーカーだった。言わなくても、纏ったその気配が物語っていたのだ。
数分後、本当に呼んだ結果として、パトカーがサイレンを鳴らしスーツを着た男性を連れて行った。戸惑うことも、迷うこともないスムーズな行動に思ったことは一つだけ、さっきのあの人は前にも通報されて警察の者たちに覚えられていたと分かる。
なんともいえない雰囲気が漂っているのは私達だけであり、ただ一人百鬼さんは清々しいほどの笑顔で生き生きとしていた。
「これで邪魔者は消えてくれたわね!」




