七不思議
和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気で始まった列車の旅は最高といえる程だった。持って来ていたチョコ菓子を食べながらの会話は格別で、学園の教室内に集まる時とは違うと言える。
学園で思い出したが、委員長に聞きたいことがあったのを思い出す。ついこの前、いるかもしれない黒幕についての情報などを調べ考慮した結果、空間魔法に関する都市伝説紛いの何か………
例えば神隠しや伝承、事件と言ったごく一般の身近な出来事等、様々な視点から見たあらゆる可能性を知りたいと思っていた。その際に最適だった人物が彼女、我等一年B組のクラス委員長"宝仙滴"その人だった。
「委員長、聞きたい事があるんだけど?良い?」
「えぇ、良いですよ」
「じゃあ早速、ここ最近で不可思議な出来事とか起こってない? 出来れば未解決の何か、都市伝説だとか………」
「ん〜、思いつきませんね」
情報通である委員長に早速聞いてみたのは良かったが、いきなり言われても思いつかないらしい。難しい表情で頻りに頭を回転させて考えているのだろう。唸ってしまう程に頑張ってくれている。さすがに悪いと思い、忘れるように言おうとしたがその前に、委員長は口を開いた。
「………やはり、最近でこれと言ったものは思いつきませんでした。ですが七不思議については、ある程度知っています」
「七不思議………」
そういえば、隠された庭園についての説明をしたのは委員長が発端だったのを思い出す。出来れば最近起こった未解決事件が良かったが、背に腹は代えられない。何かが切っ掛けで全て繋がるかもしれなかった。
「話の方をお願いしても良い?」
「任されました。一つ目の、隠された庭園については話しましたから………そうですね、消失した聖書の事を話しましょう!」
「消失した聖書?」
「なんだそれ?」
聞いた事がない七不思議に、私は首を傾げ考えてみた。消失したという言葉通りなら、無くなる前にはあったと考えられる、この話しの不思議なところは何処に消えたのかだ。
「消失したというなら、その聖書は本当にあるの?」
「あったという話です。知っている内容もある程度なら………」
「私も聞きたいです!」
「あたしも知りたい!」
「え、えぇ、話しますから落ち着いてください」
内容はともかく、七不思議になる程の聖書が実在したのが分かって興奮したのか、詩音とエリスの二人は委員長のすぐ目の前へと顔を近づけていた。正直言って私も、物凄く興味がある。出来る事なら聖書の詳しい内容をじっくりと聞き出したかったが、確実に知っている顔ではなかった。
顔が近過ぎて戸惑っているのが分かった二人は、とりあえず委員長から渋々離れる。まだ興奮しているのが分かるぐらいに、詩音とエリスの瞳は真剣そのものだ。
語り手が私だった場合は萎縮して、呂律が回らなかったりしてしまう位の迫力が今の二人にはある。そんな私の内心を無視するように、なんて事ないといった態度で委員長は話し始めた。
「消失した聖書は、学園にある図書館に置かれていたらしいです。実際に中身を確認した人がいるみたいで、内容は世界の秘密や神が実在したとされる証拠など様々です」
「そんな秘密が聖書に書かれているの?もしかして、力を持っている聖典じゃないの?」
「いえ、魔力も何も宿ってなかったらしいので、聖書と言われてたみたいです」
「………そうなんだ」
大抵の魔力を持った物品は、何かしらの対策が施されている可能性があった。悪戯か、それとも唯の人物に読まれたくはないのか、呪いがかけられている事が多い。世界や神についての情報なら、それこそ真実味を帯びさせる方法として呪いや対策をしていてもおかしくないのだ。
魔法の知識がないまま書物を開いた結果、呪いで大怪我をしたなどよくある事、最悪の結果を引き当ててしまった場合はいとも簡単に生命を落とす未来が待っている。
誰でも簡単に読める書物は、果たしてただの聖書なのか怪しいところだが、重要かと言われると判断しかねる。内容がデタラメだという根拠がある訳ではないが、それだけの書物ならとっくに何処かの宗教信者が回収していると考えられた。
消失したと七不思議に語られているなら、何処かに消えてしまった理由がある。私がその事を聞く前に、詩音もその話しの部分についてを考えていたのか質問していた。
「何で聖書が消えてしまったんですか?何処かに所属する信者が持っていったのでは?………」
「それ自体があり得ないという話が出たそうですよ? なにせ図書館に安置されている書物は全て、記録に書かれている上に、重要な聖書を持ち出した人物らしき存在は一人もいないとか………」
「えっ?それはいつの話?」
「詳しくは分からないのですが、今から約十五年前だと聞いた事があります」
「十五年前から?最近という訳ではないけど………」
「それに………魔法省の調査でも分からず仕舞いで………」
まだ私達が生まれて間もない時に無くなってしまったとは、非常に残念だった。しかも魔法省の調査でも分からないなら、七不思議にされるのも当然だ。
魔法省の技術や知識は十五年前でも今と遜色ないレベルだと聞いている。どんな難事件でも直ぐに解決できてしまう探偵、魔法捜査官を何人も抱えている以上は失くした物は簡単に見つかるはずだ。
聖書の行く先を考えるのも良いが、他の七不思議についても知りたい為に話題を変えることにした。
「委員長、他の話も………」
「そうですね………考えても分からないですし、三つ目の話をしましょう。三つ目は魔法省の黒歴史です」
「く、黒歴史………」
「他にも蛇神信仰の村や、花嫁を探す吸血鬼、不変の少女などの噂話が七不思議になってますね」
「………何故だろうか?前の二つに既視感があるんだけど………」
魔法省も含めて、どこの機関にも何らかの秘密があるとはいえ、今の魔法省には暗い歴史はないはずだった。昔ならいざ知らず、現在の魔法省は噂に関してシビアになっている。黒歴史と言われて気にした結果かもしれないが………
前者の二つには少し聞き覚えがある。だが詳しくは知りたくないので話して欲しくない。その願いが通じたのか、幾つかの七不思議の話を飛ばしてくれた。
「さすがに残りの話は長いので、花嫁を探す吸血鬼に関しての話を………」
「あ〜、委員長?出来れば一番最後に言った、不変の少女について詳しく」
「えっ? どちらかというと、こっちの話が良いかと?」
「お願い⁉︎ 」
「あ、はい!」
懇願して別の話に変えてもらう。出来る事ならあまり、その話について聞きたくなかった。それよりも最後に言った、不変の少女に関する話を知りたい。
「えっと、不変の少女ですね。その名の通り、姿形が変わらない少女を見た人がいるらしいです。随分と昔からで、見た人曰く、本物の幽霊ではないかと噂されています」
「本物の?」
「幽霊?」
詩音とエリスも、信じられないと思う疑問の表情で口に出す。正直なところ私も信じられない。なにせ、魔物の中にはアンデットと呼ばれるゴーストがいるのだ。さらに同種とされる吸血鬼やレイスの類いが、廃屋に住み着く事がある。それと見間違えで幽霊と噂される事は本来ならあり得なかった。
大抵の場合は、幽霊と指す言葉の裏には正体が全く分からないことから、その様に呼ばれる事がある。間違って、アンデット自体をその様に呼ぶことは決してないのだ。
ぜひ、詳しく知りたいところだったが、既に列車は目的地近くまで着いたらしく、その為のアナウンスが知らされた。
『次の停車駅、工業都市へと止まります。荷物のお忘れなきようお願いします』




