列車の旅
「おはよう、リヴィア」
「おはよう御座います。ご主人様、既に朝食の用意は出来ております」
「ありがとう、今日も美味しそう」
朝起きてリビングへと向かうと、いつも見慣れた光景が目に映る。メイド服を着用したリヴィアは、普段通りに朝食の用意をして待っていた。定位置と化した席について、テーブルの上にある美味しそうな朝食を見渡す、良い香りが漂い私の食欲を唆る。
半熟トロトロのスクランブルエッグ、カリカリに焼かれたベーコン、ドレッシングがたっぷりかかったサラダ、一口サイズに切り揃えられた新鮮な果物、朝食のメインとなっている焼き色の良いトースト、早速私は手を合わせ「いただきます」と言うと同時にトーストに齧り付いた。
もぐもぐと食べたまま、視線をリヴィアへと向けてみる。相変わらず今日も自身の仕事を全うしようとしていたが、いつもとは違い話しかけてきた。
「ところでご主人様、今日の予定は………」
「もぐもぐ………ごくっ………とりあえず、エリスを予定の場所に連れて行くよ」
まだ完全に魔法が使えるかは分からない為、とある場所にてエリスの持つ魔力を調べるつもりだ。魔法が使えない影響を与えているのは、魔力が原因で間違いないはずだ。魔力自体の解明さえ出来れば、後は如何とでも出来るはずだと私は思っている。
「すいませんが私は………」
「お留守番で!!」
「うぅ、やっぱりそうですよね〜、分かってましたよ………チラッ………チラッ」
「………」
連れて行って欲しそうにこちらを見ていたが、何かがあるかもしれないので、リヴィアが此処にいた方が安心出来る。その結果、躊躇するまでもなく置いて行くことにした。
朝食を終えて、身支度を整え直し出掛ける準備を進めた。玄関にて靴を履いていると、後ろからリヴィアが声を掛けてくる。
「いってらっしゃいませ」
「うん、行ってくる。留守番の方は任せたよ」
「はい、必ずや死守して見せます!」
駅前の広場、待ち合わせ場所のシンボルである噴水に、今日は集まる予定を立てていた。私は噴水の縁に座り、時間が過ぎ去るのを待っている。少しばかり早めに来ていたせいか、残りの三人はまだ到着していなかった。
伝えていた時間通りになると、見覚えのある者達がこちらに近づいてくるのが見えた。詩音、エリス、そして委員長の三人で、声が届く範囲に入ると同時に挨拶をしてくる。
「おはようございます。玲夏さん」
「おはよう。小鳥遊」
「おはよう御座います」
「皆んな、おはよう。今日はごめんね? 急な呼び出しで来て貰っちゃって」
「大丈夫ですよ」
「あぁ、あたしも大丈夫だ。なんでも、良いところに連れて行ってくれるって聞いたんだが………」
今回来て貰った三人には、良いところに連れて行くという名目で呼んだ為、目的の場所はまだ伝えていなかった。だが待ち合わせ場所に駅前を選んだので、ある程度察しているのだろう。三人全員の視線が、この場所からでも見えている列車へと釘付けになっている。
「もしかしてですが、列車で移動するんですか? 」
「そうだよ、目的地は別の街だから………ん?どうかした?」
キョロキョロと、私の周りを見ている詩音が気になった。何かを探している素振りを止めて、人差し指を顎へと当てた詩音は疑問の表情で答える。
「………今日はリヴィアさんがいないんですね?」
「お留守番してる。メイド服のまま着いて来ちゃうから変な注目を浴びるんだよ。特に商店街の人達から、私がなんて言われてると思う?」
「えっ? なんて言われてるんですか?」
「ご主人様って呼ばれてる………」
「あぁ、なるほど………」
どこか納得した表情の詩音、まだ個人から言われるならまだしも、集団で言われ始めると恐怖を感じる。
それもこれも全て、リヴィアが関わっているので頭が痛くなる。今回はきつく言っておいた結果、命令を背いてまで着いてくるとは思えなかった。
リヴィアの事を忘れて早速、広場から移動した私達は駅のホームへと向かう。三人全員が集合するまでに乗る為のチケットは購入済みの為、それぞれ三人に渡してから列車へと乗り込んだ。
外観上の見た目とは違い、列車の中は別空間と思わせる程広い。私は何度か乗った事があるので予想していたが、初めて乗ったと分かる二人は、興味津々とばかりに列車内を見渡している。目をキラキラと輝かせた詩音とエリスは車窓から、先程までいたホームを見ていた。
本来ならば、列車が走っている際に見える絶景を見て愉しむ事が当たり前だが、二人の場合は列車が動き出す前から楽しもうとするのが分かる。委員長の方は乗った事があるのか、二人を微笑ましそうに見ていた。
よく見かけるタイプのボックスシート、向かい合わせに設置された席に私達は座った。窓際の席に詩音とエリスが、通路側の方に私と委員長が座り列車が動き出すまで待っていると、ついに発車前のベルが鳴り出し列車が動き始める。
ようやく落ち着きを見せていた二人も、動き出す景色を張り付くように見ていた。
「綺麗な景色だな! 」
「私、列車に乗ったのは今回が初めてですよ! 」
「それは良かった。二人は街から出た事はないんだっけ? 」
「無いですよ? 」
「無いな?」
予想通りの答えが二人から返ってきた。やはり街から出た事は無いらしい。大抵の場合は、街の外に出るという行為は推奨されていないとはいえ、禁止されている訳でもない。生活する上では、必需品や嗜好品などはそれぞれの街から作られて運ばれてくる為に、数少ない高級品を求めない限りは揃ってしまうのだ。
列車に乗り別の街に行く事は、仕事の都合や観光、はたまた実家に帰省する場合が多い。街中で暮らせる以上はわざわざ街から外に出る必要はないからだ。よっぽどの事情や、前回あった魔物の襲撃が発生しないうちは問題なかった。
つまり詩音とエリスは別の街に行く用事がないので、列車に乗る機会がなかった訳だ。
「そういえば、委員長の出身ってどこ?」
「私ですか? 鉱人国ですけど? 」
「へぇ〜、鉱人国ね」
「そうですよ、私は鉱人族ですから」
「「「えっ⁉︎ 」」」
私を含めた詩音とエリスは、委員長が放った一言に驚いた。今までずっと委員長は人族だと思っていたのに、鉱人族だとはつい最近まで知らなかった。
特徴的な面は少ない鉱人族には、身長は小学生ぐらいの子供サイズ、手先が器用で物作りが得意、宝石が大好きといった特徴がある。大人であれば毛髪が多かったり、酒好きなどの特徴が出てくる。
委員長が鉱人族であるならば、平均身長を下回ってもおかしくない。だが彼女の場合は、小柄とはいえ中学生と遜色ない身長はある。
「まあ、大抵は驚きますよね?」
「うん、驚いた。つまり両親のどちらかは………」
「鉱人族という事ですか」
唯一の特徴が当てはまらないというならば、親による血筋の確認しかない。おおまかにまとめられた五種族、親がそれぞれ人族と森人族であるなら、二人の子供はどちらかの種族で生まれるのだ。
鉱人族として生まれ、平均身長を軽く超えた委員長は、ある意味珍しい存在だった。珍しいといえばエリスも、森人族にしてはやけに耳が短い。
私が知る限り今まで、半分ずつ混ざった種族はいないと思っていた。もしかしたら委員長は、別の種族と混ざり合った種族、ハーフかもしれない。もちろんそれはエリスにも言えることだ。




