魔力制御 ③
私はその後、壊れた魔導具を調べてみて確信した。
エリスの持つ魔力量に耐え切れず崩壊したのではないと、別の何かによる影響で魔導具が壊れてしまった可能性が高かった。前回にもあった件はただ単に、委員長に加えてエリスの魔力量に耐えられないと思っていたが、そうではなかったのだ。
バラバラになった魔導具の破片を拾いながら原因を考えてみるが分からない。強いて言うなら、一つだけ心当たりがある。それはエリスの魔力が黒いという点だ。何らかの性質が魔導具に作用して、壊れるといった結果に至ったと私は思う。そうでなければ説明がつかなかった。
「あの、その、壊してゴメン! 」
「………エリス、別に気にしなくて良いから」
申し訳なさそうにしているエリスにそう返し、次の事を考えてみる。どうやれば彼女に魔法を教えられるか、そう考えていると難しい表情をしていた為に周りから心配され始めた。
「小鳥遊、弁償はするから怒らないでくれ」
「えっ? 」
「そうですよ小鳥遊さん。落ち着いてください」
「えっと………」
「ご主人様。私が後ほど、美味しいケーキを作りますから、落ち着いてくださいませ」
「はぁ?」
「ヒッ⁉︎ ごっ、ご主人様! 私と他の方とは態度が全然違います! 」
甚だ不本意だが、エリスと委員長と違ってリヴィアの場合はイラッとしたので睨んでおいた。そんなに私は怖いのだろうか、すぐ側で笑顔を絶やさずニコニコとしている詩音に聞いてみた。
「………詩音、私はそんなに怖い顔をしてるの?」
「まさか! 玲夏さんは美人ですから、同性である私からみても見惚れてしまいますよ」
「えっ?あっ、そう、それなら………」
「あー、そのなんだ? 小鳥遊の場合は怒らせちゃいけない感じがして………」
「そうですね。ご主人様の場合は無意識のうちに魔力が漏れるんです。その結果、威圧同然に怖いと感じるんです」
「はぁ、そう、なら魔法につい「あー、やっぱりそれは良いよ」…て………えっ? 今なんて? 」
エリスが私の話しを遮り言った言葉に理解出来なかった。そのままの意味を受け取ると、魔法を学ぶのはもういいと聞こえる。つまりは、これ以上は時間の無駄だと彼女は遠回しに言っているのだ。
「魔法の事についてはもう諦めるから」
「ちょ、ちょっと待って! まだ完全に魔法が使えないって決まった訳じゃ………」
「いいんだ小鳥遊、相談に乗ってくれただけでもありがたいと思ってる。本来であれば、時間を割いてまでする事じゃないし、此処までしてくれて感謝してるんだ。それに魔導具を壊しちゃったし………」
「魔導具は良いんだよ、中古の品を改良してもらっただけだから」
「ありがとう、けど魔法はもういいんだ」
「どうして?………」
怒らせてしまったかを考えてみるが、そうではないと分かる。エリスの様子を窺っていると、すぐ近くに設置されたベンチに座り込んだ。俯いたまま口を開き昔の事を語り始めた。
「………あたしが生まれた時から、魔力量が高かったせいなのか、親に期待されて育ったんだ。それだけの魔力量なら、歴代の者達を超える魔法師になれるって」
「親から?………」
「そう、とは言っても。両親の内、魔法に期待してたのは親父の方だよ。あたしが魔法を使えないって分かったらすぐに家を出て行った。それは良いんだ、母さんだけがあたしの味方だから」
「そうなんだ。じゃあ魔法が使えるようになりたいのは? 」
「………とりあえず言っておくが、魔法は別に親の為じゃないんだ。あたし自身が使いたいから、小鳥遊から魔法を学ぶようにしてたんだよ」
私はてっきり、親の為に魔法を学んで習得しようとしてると思っていたが、どうやらそうではないみたいだ。エリスとの会話中からは、本当に両親は関係ないと分かった。
なにせエリスから、両親に対する未練のような感じは一切しない。それに親父といった父親の方にも恨みを持っている感じはしなかった。そっちはどうでも良いと分かるが、ならどうして魔法に執着するのかが分からない。
「あたしの事を知って魔法を使いたいと言ったら、大抵は二つに分かれる」
「二つ? それって………」
「一つ目は別の道を示す人達、あたしの身体能力があるならば、魔法が使えなくても問題ないって言う人だな。まぁ………言った通りこの世界では、魔法が使えなくても問題ない。魔法なしでも成功している人は沢山いるから」
「二つ目は何? 」
「………小鳥遊、お前だよ」
「えっ⁉︎ 私⁉︎ 」
「否定もせずに魔法を教えようとしてくれた。大抵はな、当たり障りない事を言うのが一般的なはずだけど、小鳥遊やお前たちは違ったんだよ」
「エリス………」
「魔法を教えてもらいたい、使いたいと思ったのは、この魔力量なんだ。あてもないままに肥やしになってる魔力が嫌だったんだよ、別の可能性を示す人達からは………」
「………」
「宝の持ち腐れって、言われている気がして………」
その言葉を最後に、エリスは俯いたまま黙ってしまった。改めて考えてみると、全く使用していない魔力があるならば、使いたいと思うのは納得だ。その身に詰まった大量の魔力が意味もなく存在している。
確かにエリスが言った通り、大量の魔力があるのに他にある可能性を簡単に選びたくない。もしも私が同じ立場に置かれたとしたら、似たような事をするはずだ。
結局、私はエリスの事を理解していなかった。これから先は真剣に物事を考えなければ、進歩する事も変わる事もないだろう。出来れば助けたいと思った私は決意を固め、エリスの手を取り宣言した。
「エリス、私がなんとかするから」
「さて、ご主人様は一体どうされるのでしょうね? 詩音様?」
「玲夏さんは確証もなく行動する人ではありませんから。何かしらの解決策はあると思います 」
少し離れた場所で考え事をしている彼女を、二人は見ながら話していた。気難しいといえる雰囲気を放っている為か、二人は声を掛けようとはせずに沈黙を貫いている。
すでに残りの二人、エリスと委員長は帰っているのでこの場にはいなかった。委員長が付き添う形で送って行ったおかげもあって、二人は心配していない。問題なのは先程から考え込んでいる彼女の方だ。身動ぎ一つしないせいで、彫像と化している雰囲気がますます恐怖を煽っている。
今の二人に出来るのはただ黙って見守るだけ、さすがに何もしないままなのは嫌なのか、詩音が口を開いた。
「リヴィアさん、強力な魔導具があればどうにか出来ますか? 」
「難しいですね。エリス様の魔力量に耐えられたとしても、魔法を発動させられるか分かりません。ただこれだけは言えます………ご主人様なら解決策を見つけられると」
「………確かにそうですね。そんな気がします」
「それにしても、こんな事を言うと誤解が生じますが、今のご主人様は生き生きとしている感じがします」
「生き生きと………」
その言葉に詩音は、彼女を見つめて考えている。表情から汲み取ってみるが、そういう風には見えなかった。思い至ったのはリヴィアが召喚獣だという事実、今もなお魔力経路が繋がった影響で、感情が送られているのだろう。
「それって目標が見つかったからですか? 」
「かもしれませんね? 本気でエリス様の願いを叶えるつもりがあるのでしょう」
「なるほど………」
「そういえば、玲夏さんが図書館で本を漁っていました。この時の為ですかね?」
「図書館ですか? 空間魔法に関する文献を探しに行かれたと思いますが………違うのではないのですか?最近その話しを私にしましたが………」
「空間魔法ですか? 研究者達による、永遠にして不滅の研究テーマですね。一体どうして? 」
「どうやら前回の、魔王種の背後に黒幕がいるらしいです。ご主人様は確証はないと、忘れるように言ってました」
息を吐いて心を落ち着けた後、前にあった出来事を思い出し、詩音は聞いた言葉を整理してから呟いた。
「黒幕………」




