黒幕
とある公園、夕暮れ時のその場所にて、まだ幼い少女がブランコに座り俯いていた。別に帰ることが出来ないという訳ではないのだ。
私が一人で考え事をしていると、一人の人物が話しかけて来た。
「んっ? おい、どうしたんだ?こんなところで………」
その人物は私と同じ年頃だった。白い髪に、隠してすらいない左右で異なる色彩のあるヘテロクロミアを持った、不思議な少女が目の前にいる。
現れた少女は男勝りの口調で喋った。如何にも髪と同様に白い、清楚なイメージのあるワンピースを着ているにも関わらずにだ。少女とは思えない口調に、私は訝しんでいた。
すると、少女は隣の空いたブランコに座り出した。
「何か悩みがあるんなら聞くが………」
今は誰でも良い、この不安を払拭出来るなら、悩みを解決出来るならと、その言葉に私は口を開いた。
「私は、将来にしたいことが分からないんです。変わりたいんですよ。何かが変われば悩みを解決出来る」
「ふーん、まるで子供とは思えない悩みだな?」
「………」
あんたがそれを言うか? そう思ったが、口には出さないようにした。少女と思えないのは口調とその態度だ。大人の余裕ある雰囲気があり、あまりに馴染んでいる男の口調に彼女の事が分からない。
私の持つ悩みは、大人たちからの一言に関係している。
『詩音ちゃんは、将来の夢はないのかい?』
物こごろついた時には既に、様々な習い事をしていた。書道、華道、茶道、弓道、剣道、長刀道、さらには武道まで体験した事がある。
道とつく習い事は極める事にあった。だが、将来の夢と言われて分からなくなったのだ。一体どれを選び極めたら良いのか………その際に考えたのは、変わる事だった。
どれも習い事の中では特筆した物、または劣る物はなく、上々と言える結果だけが生まれた。大人達、全員は褒めそやしているだけで怒りさえしない。
自分自身を変えれば見方が変わる。だからこそ変わりたいと思ったのだ。なにせ私は、言われるがままに大人達の言う事を聞いてきたのだから。
それ自体に何ら問題はなかった。
「まあ、何だ? 変わりたいと思うのは悪いことじゃないが、無理してまで変わる事じゃないぞ? 」
「………」
「人は勝手に変わっていく、変われた事、それに気付くかどうかだと俺はそう思う」
変わりたいと思って、簡単な努力で変われるとは思っていなかった。だがそう聞いてしまうと気付いた事がある。変われた事に気付かなければ、ずっとそのままだと私は思った。
その後は自分が出来ることをしてみた。あまりに思い詰めた結果、悩み過ぎていたのだと思い直したのだ。将来の夢はゆっくりと探していけば良いと………
玲夏さんは魔法に絶望していると、リヴィアさんは言っている。本人が気付いていないとは思えないが、それに対してどうもすることが出来ないのだろう。
「リヴィアさん、お願いがあるのですが聞いてくれますか?」
「私で良ければ………」
北門にいる二人は空を無言で見上げていた。突如、消え去った雨雲、雷雲に疑問が浮かんでいた為だ。
「玲夏ちゃんは魔眼を使ったみたいじゃのぅ?」
「魔眼ですか? 詳しく聞いていないのですが、小鳥遊様の魔眼は魔力等の観測ではないのですか?」
「"改刻の魔眼"あまりに強力な力を有する魔眼じゃよ、下手をすれば欲しがる輩が出るからのぅ、秘密にしとったんじゃよ」
「そうなんですね」
確かにと考える彼女、セイラはあれだけの魔眼であれば欲しがる人達が出たとしてもおかしくないと思っていた。
そして、ふと思うのは各門の状況、北門を除いた場所はどうなっているかわからなかったのだ。東門は問題ないと分かっている。考え事の内容が分かったのか、すぐ側にいた学園長は口を開いた。
「問題ないぞ? 西門と南門は既に復興作業をしているみたいじゃ、壁がボロボロみたいじゃからな!当分の間はその作業で忙しくなるみたいじゃ!」
「あぁ、なるほど! 召喚獣を呼び出して見ていた訳ですか」
学園長は召喚獣を呼び出して、全ての戦況を見ていたのだ。そうすることで非常自体かどうかを把握し、駆けつけられるようにする為だが、今回は必要なくなった。
「………それにしても、どうして魔王種が急に現れたんじゃろうか?」
東門の戦場を見下ろすように見ている二人がいる。
その内の少女、まだ年端もいかない少女は腹を抱えて笑っていた。何がおかしいのか、笑い転げて目に大粒の涙を出していたのだ。そんな少女は目元の涙を指で掬った後、もう一人の方へ顔を向けた。
顔立ちが整った女性は、笑っていた少女を気にする事なく無言で立っている。少女はそんな人物に向けて言った。
「やばいのぅ〜、あの娘は!お主はどう思うのじゃ?」
「分かりかねます、お姉様」
「ふむ、つまらんのぅ。魔王種を嗾けたののに無意味じゃった。まぁ、面白かったから良かったがのぅ〜」
今回の魔王種を含めた魔物たちが姿を消して、学園都市へと現れたのは、この少女が元凶である。女性は何も言わなかったが、本来の目的は学園都市を陥す事だった。
さらに少女が思っているのは面白いではなく、彼らが困りさえすれば良いと思っていたのだ。世界を混沌に陥れる、もしくは滅ぼすことが少女の願いだ。
「………学園都市には序列第一位がおるからのぅ、堕とせるとは思ってはおらなんだが、あの娘は予想外じゃった………」
「はい」
「それに転移系の魔導具があるからのぅ」
実際にはその通りだった。転移系の魔導具が存在する為、時間が掛かればすぐにでも一桁の者たちが集まっていたのは確実だったのだ。
それぞれの諸事情に加えて、その魔導具には大量の魔力が必要の為に、準備をしていないといけなかった。そう何度も使用出来ないという点に置いて不便な魔導具だ。
「邪魔じゃな、あの娘………」
「えっ?」
少女がポツリと呟いた一言に驚いた女性は、振り向いて真意を探るがその言葉通りの意味だろう。
考え事をしている女性をそのままに、少女は興味が失せたのかその場から消えていった。そして残された女性はただ一人、眼下に見える白髪の少女に向かって一言だけ………
「残念です。あなたなら変えてくれると思いましたが、どうやら無理みたいですね?仕方ありませんが消えて下さい」
最後の言葉を残して女性も消えてしまった。




