終局
魔王種との戦闘、一度でも攻撃を受ければ大ダメージに繋がる事は間違いなかった。さすがに逃げているだけではなくなってきたのか、全ての魔法を無視して突っ込んでくる。私はそのタイミングに合わせ、得意な氷属性の魔法を発動した。
「氷欠泉」
「ガァウ⁉︎ 」
迫る直前に動きを突然止めた魔王種は、その原因を即座に見た。既に脚元は氷漬けにされており、必死に逃げ出そうとするがそれは無駄に終わった。
徐々に全身を氷に覆われて完全に動きを止めた。まだ、魔王種の体内まで氷漬けにされてはいないが、既に戦闘が終わったも同然だ。
氷の彫刻へと姿を変えた魔王種は、厚い氷の中で時を停められているようだった。先程まで動いていたせいか、今にも動き出しそうな程に迫力がある。何の変化も起こらないので、私は肩の力を抜いて一息吐いた。
「疲れた。魔力の方はまだまだ問題ないけど………どうして最後は空を見ていたんだろ?」
戦闘が終わったので城壁へと戻ることにした。召喚獣を呼び出せれば、疾っくの疾うに終わっていたが、一度戻したせいで冷却時間が発生していた。
その途中に、ふと気になった疑問が脳裏に過ぎる。
魔王種は何故か、最初の方は逃げ出そうと必死にもがいていたようだが。最後には、氷に閉ざされる瞬間まで全く動じている様子がなかった。
これが諦めた結果であればまだ良い方だが、妙な胸騒ぎがして考えずにはいられなかった。
それはそうと先程から、上空では雷鳴がなっている。学園長、祖父による魔法であれば既に魔物は一掃されていたはずだ。なので天候操作の役目はとっくに終わっているはずだった。
「んっ? 雨?………まさかっ⁉︎ 」
ポツリと水滴が落ちてきたと思い。何気なく空を見上げていると、一つの可能性に思い至った。
だがその時、先程よりも強くゴロゴロと雷鳴が鳴り出した。さらに一筋の閃光が走ったと同時に地面へ、氷漬けにされていた魔王種の上へと雷が落ちる。
私は、突然の落雷による光と音に両手で耳を塞ぎギュッと眼を瞑っては衝撃に備える。距離が遠く離れていたとしても、強烈な雷にそうせざるをえなかった。
落ちた雷、衝撃と爆音に頭の中が混乱している。目の前で起きた事に理解出来なかったが、少しずつ状況を把握することが出来た。
魔王種の動きを封じていたはずが、雷によって破られてしまった。脆く崩れていく氷はガラガラと音を立てている。その中からゆっくりと這い出てくる魔王種に、私は構え直す。
「まさか………氷に閉ざされる前に、魔法を発動させていたなんて。あの時に空を見上げていたのはこの為か」
氷に覆われてしまったら何もできないと悟って、予め魔法を発動させていたのだ。何事もなく出て来た魔王種は、一歩一歩進んでくる。動きが鈍いのは、先程の氷属性の魔法により内部まで氷漬けにされた結果だろう。
今度はこちらの番だと言わんばかりに、魔王種は周囲にバチバチと音を響かせた雷の球を出現させる。それと同時に空からは、いまにも落ちてきそうな雷が待機していた。
そして無数に展開された雷球が襲ってきた。だが、雷球は瞬きの合間に一瞬にして消えてしまっていった。
私は空を見上げ、同様に雷雲を消した。今は、魔法を発動する前の空模様へと変化を遂げている。いい天気と言える雲一つない快晴の空に、魔王種は驚きを露わに身体を硬直させていた。
「魔眼を使う時が来るなんて、あまり正体が分からないようにって言われてるけど………仕方ないよね」
本来の魔眼が持つ能力を行使した結果、発動していた魔法が綺麗さっぱり消えていった。私の魔眼には事象を観測する能力と、それを変える力がある。その結果、魔法は無かった事にされたのだ。
魔王種は今の現象に警戒するも私を睨み、新たな魔法を発動した。身体から雷が溢れ出ると、それを鎧を着るように纏う。雷纏とでもいうべき魔法を行使し、大地を蹴った。
遠く離れた距離を一気に詰めた。さすがに危険だと判断したのか、これで最後にするつもりだろう。雷纏による魔法の効果で、速度とともに威力が上がった状態で突進を仕掛けてくる。
「複合魔法・氷炎獄」
いきなり出現した青い炎に、纏わり付かれた魔王種は無視してまで攻撃をしてきた。だが次の瞬間には、全身に青い炎が周り飲み込まれる。
魔王種は飲み込まれたまま燃やされている。青い炎は球体状に変化して渦巻いていた。数秒後に消え去った青い炎の中心には、身体を横たえる魔王種らしき黒炭があった。
「もう、これで終わったかな?」
動く気配がない事を確認した後、これで戦闘は終わったと安堵した。
「あの魔法は何ですか? ただの青い炎ですか?」
詩音の発言にリヴィアは黙して答えず。人差し指を顎へと添えて、考えている。そして考えがまとまったのか彼女は口を開いた。
「分かりませんが、あれはただの青い炎ではないと思いますよ? それに………あれだけの魔法を使って魔力量を大幅に削ったと思います」
二人は、彼女が使っていた魔法を考察するが、答えは出なかった。魔王種を一撃で沈めた青く燃える炎、そのような魔法は今のところ存在していない。
それどころか魔法省の記録には、あの青く煌く炎は載っていなかった。似たような魔法の中でも完全な青い炎はないのだ。つまり考えられるのはオリジナルと言える独自の魔法………
「私はあの魔法を見た事は有りません。リヴィアさんもですよね?」
「はい、その通りです」
「玲夏さんが、あれだけの魔法を使えるとは思いませんでした。何か聞いていませんか?」
「いえ、全く………ただ一度だけ、質問をした事があります」
質問という言葉に首を傾げ、返事を待っていた。一体どんな言葉を聞いて、彼女がどう返したのか気になったのだ。
「………ご主人様の生き甲斐を聞いた事があります。その時の答えは………何だと思います?」
「えっ? えっと………もしかして、食べることとか?」
「アハハ………ご主人様らしいですね〜、ですがその時の答えは、魔法の深淵を、真髄を知ることが生き甲斐だと言っていました。だからこそ、魔法学園に入ったと………」
魔法の事を詳しく知るなら、学園に入る事にも納得できる。だがリヴィアの放った一言に、詩音は驚き目を見開いた。
「私はそれを聴いて、嘘だと思いました」
「それはどうしてですか? 魔法学園に入った以上は、大抵の人は魔法の深淵を覗く為に頑張っています」
「実際にはそうでしょうね、ご主人様の答えに私は納得出来ませんでした。その時に感じた心は空っぽで、何か求めています。ですが、あれだけの魔法を見せられた事で確信しました」
「確信………」
その言葉を反芻してみて考える。彼女、リヴィアの放った言葉である確信は、今まで考えた中でようやく分かったのだろう。
「ご主人様は魔法に絶望しています」




