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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第2話 西の魔女編 (4P)
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2.ハーブガーデン

エレナ達を乗せた黒いキャデラックが走ること1時間。

ハンドルを握るパンの目が、ルームミラーごしにエレナを見る。エレナはサンドイッチをかじりつつ、後部座席から流れる街風景を眺めていた。


「今回のターゲットは、惑星ライラ出星アンドロメダ星系の人型エイリアンだ」

パンはハンドルをまわしつつ続けた。

「アンドロメダ星人は私たちが過ごす三次元ではなく、五次元の存在だ。そのため地球人からすれば、プラズマ体やエネルギー体などの光の存在でしか認識できない」


エレナは風景から目を離し、ルームミラーを見た。パンのぞっとするほどの青い瞳に目が行く。

「それって、光みたいなエイリアンってこと?」

助手席のゴハンが軽く振り返り、ビンゴに指を鳴らした。

「そうそう! 地球近郊は時空嵐がひどいから、アンドロメダ星人は肉体を得ないとダメージをくらうんだよ」


なんとも荒唐無稽な話だが、昨夜のバケモノを思えば嘘だとは到底思えなかった。

素直に頷くエレナを見て、パンは静かにつけ添えた。

「ターゲットはニードルリング対策として肉体に入ったが、地球宙域を飛行した際、地球に引き寄せられ墜落したようだ。船が壊れ、肉体に長く入っていたため魂と癒着し、母星に帰還できなくなったと」

それにエレナがふと疑問を飛ばす。

「ね、ニードルリングってなに?」

パンは百も承知に、流れるように続けた。

「ニードルリングとは人工電離層形成目的とした、軌道傾斜角約96度・高度約3500kmに浮遊する無線通信機だ。大元は1961年に制作された銅製ダイポールアンテナから始まったが、銀河連盟によって……」


エレナがまばたきひとつ、やや眉をハの字に寄せた。抑揚のない、いかにもな説明文が耳に滑る。

フリーズするエレナに助け舟を出したのは、ゴハンだった。それとなくパンの肩を叩き制止を促し、エレナに振り返る。

「ま、ひらたくいえば軍事目的の残骸さ! そのせいで墜落して帰還できずに困ってるんだって」

エレナは適当に何度か頷いたのだった。


対向車もなく、なだらかな風景が街を遠くする。車がちょうど、大きな山道に差し掛かるころ。

「そろそろ到着かな。そういえばエレナちゃん、トイレ大丈夫?」

まるで小さな子どもに訊ねるように、ゴハンが軽く問いかけた。

もうすぐ到着、の一言に緊張がよみがえる。

昨夜のバケモノを思い出しやや身震いするものの、落ち着き払ったMIBに不思議な気持ちになる。

「うん、平気。……私は何をすればいいの?」


ゴハンはドリンクを飲みつつ、スナック菓子のように軽く答えた。

「ターゲットに、レンズごしに懐中電灯の光を当てるだけ。肉体から引き剥がして母星に送還させてやるんだよ。な~に、すぐに終わるさ」


昼間だというのに、深い木々がトンネルを作る。光と影のコントラストに目がくらみつつ、車は闇を抜けていった。

この先に、一体なにがあるのだろう?

いつか映画で見た、真っ黒いUFOだろうか? それともSFチックな軍事基地?

(初めての仕事だもの、しっかり頑張ろう!)

エレナはきゅっと唇を噛み、気合を入れたのだった。

……・……

深い緑のトンネルが開けると、綺麗に手入れされたハーブガーデンが広がった。

「わぁ!なんて綺麗なの……」

緑の木陰に停車し、ドアを開けてすぐ。エレナは思わず声をあげた。


アンティークなレンガタイルを包むように、鮮やかな生垣が映える。色とりどりの花を咲かせたその奥に、ささやかな山小屋が1つ。

あたたかな太陽のもと、苔の生えた屋根で小鳥たちが日向ぼっこをしていた。

山小屋のウッドデッキには60歳ほどだろうか、ひしゃげた老婆がハーブに水やりをしている。まるで天国の入り口のようだったが、老婆の風貌は老婦というより魔女のそれだ。

「彼女がターゲットのアンドロメダ星人だよ」

そう軽く言ったゴハンに、エレナが仰天に振り返る。

「うそ!」

「本当だ。レンズで視てみなさい」

パンの言い抑えに、エレナは素直にレンズを掲げた。おだやかにゆらめく虹色の先……レンズが映し出す老婆の正体は、確実にヒトではなかった。

薄い水色の肌、2mは軽く越えた高身長。その手指の長いこと! まるでモデルのようなスタイルだがやや厳しい表情で、髪もなく、青暗く落ちくぼんだ瞳に光はない。

エレナは愕然にレンズを降ろした。老婆はふるえる手でジョウロを傾けている。


「さ、行ってきなさい。MIBの使いだと」

パンの軽い声にエレナはぶんぶんと顔を振った。

「むむむムリムリ……! あんなバケモノみたいなエイリアンに話しかけるなんて、絶対にイヤ!」

エイリアン目前に気合が吹っ飛んだエレナは、涙目にパンを見上げた。パンは軽く頷き、エレナの手元のレンズを指す。

「レンズが白っぽく光っているはずだ。白は無害なエイリアンの証だ。レンズを使える君が交渉してくるんだ」


エレナは噛みつくように切り返す。

「もし危険な目に遭ったら!」

真面目くさったパンが、軍人のようにぴしゃりと一言。

「遭わない」

「ほんとに!? いきなりガブッ! って噛みつかれたりしない?」

それにパンが思わず小さく噴き出し、顔を背けた。エレナは矢も楯もたまらずゴハンを見た。ゴハンはさっきからニヤつきまま動画を撮っている。

「もう……!」

エレナはゴハンの携帯を掴み、録画を切った。そして、言い聞かせるように真剣に問いかける。

「噛まれたりしない? 絶対に、危なくないって誓える?」

爆笑をこらえたゴハンが、ひいひい言いながら涙をぬぐった。

「しないしない! ガキのお使いだよ、本人にもこれから向かうって連絡済みで……」

言い終える前に体を二つに折り、笑いをこらえる。

何がそんなにおかしいのか、パンも口元を押さえたままだ。先ほどの真面目くさった返しも、笑いをこらえていたのだと悟る。あっけになったエレナは、自分がバカみたいにみえてなんだか急に恥ずかしくなった。

「もうッばかにして……!一人でも交渉できるわよッ」

ツンと顔を背け、振り切るように勇み足で山小屋に向かう。


背のMIBの気配が遠くなるにつれ、なんだかまた薄ら怖くなってきた。少し振り返ると、ゴハンが海水浴客のように手を振りながら、またムービーを撮っている。エレナはそれに意地悪く舌を見せ、またツンと山小屋へ歩んでいったのだった。


ふと、木の立て看板を見る。綺麗に掘られた文字で、〔ハーブガーデン。アロマ諸々取り扱っています〕とあった。どうもハーブのお店のようだ。山奥のためか他にお客はひとりもいないようだが、いかにも老人らしい筆跡に少し気持ちが和らぐ。

ふと見れば周囲はハーブばかりだ。爽やかな香りに、エレナは一呼吸。落ち着いた足取りで小屋へ向かったのだった。


さてとムービーを切ったゴハンがエレナの背に目を細める。

「……行ったな。安全な仕事とはいえ、一人で向かわせるの可哀そうじゃない?」

パンは腕を組み、車に背を任せた。

「アンドロメダ星人は念話(テレパシー)で交信するため、相手の思考が全て読める」

それに、はたとするゴハンが片眉を下げ両手を広げた。「それが何だよ?」と。

「心を読む彼女らは不正や悪事を何より嫌う。計らずとも、エレナ・モーガンがイルミナの撒き餌かどうかわかるわけだ」

少し間があった。ゴハンが言おうとして止めて、ちょっと考えてやっぱり言った。

「それって、エレナちゃんが撒き餌だったら危険じゃないか」

パンは氷のような冷たい目でゴハンを横目見た。

「……あの小娘が俺たちを欺こうとする悪人なら、後悔させるにいい案件だろう」


波音のように木々がせせらぐ。太陽照る木々の木陰は、しんと冷たかった。

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