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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第2話 西の魔女編 (4P)
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1.ズル休み

「……すっごい豪邸!ハイグレードのペンとハウスの最上階とか、普通住めないって」


俺は気を失った遭遇者を寝室に寝かせ、リビングを一望していた。

見上げれば、遠くの天井扇がのんびりと旋回している。


さてと違和感があった。

いかにも金持ちでございの大豪邸だが、他の住人の気配がないのだ。それどころか警備すらない。

まるで俺たちが来るのを待ち構えていたような……バケモノの舌に乗ったような居心地の悪さを感じた。


居心地悪くソファに腰をおとした時、示し合わせたかのようにバディがPC画面を突き出す。


「調査結果がでた。驚け、あの小娘は【イルミナの前会長の一人娘】だ」と。


「へええ? 今、なんて?」

俺は腹から素っ頓狂な声をあげたものの、聞き間違いでない事はバディの目を見てわかった。マジどころか、大マジの目だ。

居心地の悪さに納得。

俺は急くように立ち上がり、続くよう手でバディを急かした。

「冗談よせよ。イルミナっていえば世界医療機関の大元だけど、裏じゃ生物兵器の研究開発をしてる軍事組織の一端じゃん。……ていうか、俺たちの敵組織!

もしイルミナにバレたらヤバいどころじゃないぜ。あの娘の記憶を消して、とっとと退散しよう」


至極当然の案にバディは静かに首を振った。

「いや、上官殿は〔現状まま任務を続行せよ〕とのことだ」

言って、乙にすまし続ける。

「あの小娘と同居し、動向を探る。異論はないな」


ひとつ間があった。正しくは、驚きで声が出なかったわけだけど。

こいつめ~俺の方が階級が上なのを忘れやがって!とか思ったけど、それよりも。

あっけにとられて転がるように、俺の喉から本音が勝手に飛び出した。

「うそだろ? イカれてんじゃないのか、あのクソ眼鏡の上官殿は」


転がった本音にバディが不愉をあらわに眉を潜める。

「上官殿を悪くいう事は許さん。任務は続行だ」


俺は大きなため息とともに肩をすくめるしか抗議できなかった。クソ眼鏡とはいえ上官殿の命令は絶対なのだ。

ことバディはクソ眼鏡を心酔している。尻尾どころかケツを振ってるんじゃないかってほどだ。

さておき。俺は最後の抵抗をみせることにした。


「あの娘がもしイルミナの撒き餌(罠)だったらどうすんだよ? 下手すりゃ俺たちが危険だぜ」


「それを決めるのは上だろうが。意見するなら昇級してからにしろ」

ま、そりゃごもっとも。迎撃のような返しにぐうの音も出ない。まったく、こいつの捨て駒精神は毎度ながら呆れるね。


タイミングよく任務を邪魔したのが、敵組織の一人娘だって?

上も開口一番〔現状まま任務続行〕だなんて、どうも臭うぜ。


だけど悲しきかな、下っ端は妙な違和感を呑みくだすしかなかった。

そりゃ俺も男ですから、年頃の娘と同棲生活は大歓迎! それが敵組織の一人娘じゃなければね。


かくして俺たちは、クソ眼鏡こと上官殿の指令で【イルミナの前会長の一人娘】と一つ屋根の下、となるらしい。

「……下っ端とはいえ、汚れ仕事ばっか!」


バディは応えない。ピアニストのようにキーボードを叩く横顔は涼し気だ。

あの娘が目覚めたら、どう言いくるめる気なんだろう?


でも正直な話、【イルミナの前会長の一人娘】はなかなかに可愛い子猫チャンだ。

……プライベートではぜひともお茶したいほどさ!



……・……



「ああ、どうしよう~、完ッ全に遅刻だわ、宿題も全然終わってないのにー!」


エレナは情けない声を漏らしつつ、歯を磨きもって鞄に教科書を詰めていた。ふとスマホに目が行く。

「うわっ! 学園から着信の嵐だわ!」

そう噛み潰すよう言って、まるで幽霊から着信を受けたように思わず身を引いた。


その様子に目を丸くしたゴハンが、思わずポツリと呟く。

「今日くらい風邪ってことで休んじゃえばー?」と。


エレナは手を止め、目から鱗にゴハンを見た。

「……それって、ズル休みしちゃえってこと?」

罪悪感の現れたエレナの半笑いに、ゴハンは軽く頷いた。


エレナはまばたきひとつ、ゆっくりとパンを見た。

パンもどうということなく、ゴハンのように軽く頷く。

「逆に、宿題もやってない上こんな時間に登校する気か? 吊し上げをくらうより休んだ方がマシだと思うがな」


まさかの後押しにエレナはまばたきひとつ。

ちょっと考えて意を決し、スマホを耳に当てたのだった。



「そ~なんです! クシャミがとまらなくて……えっ熱? ……あ~! ちょっとあります、たぶん。はい……失礼します、ごほっごほ」


真剣なエレナのとんだ茶番に、パンが呆れに顔をそらし、ゴハンが思わず噴き出した。

通話を終えたエレナが緊張の残る顔で2人を見る。

「……ズル休みしちゃった」


うまくやったつもりなのだろう。その天然っぷりにゴハンが敬意をこめた拍手を返し、パンはなんともいえない表情で頷いたのだった。


肩の荷が下りたのか、エレナはすっかり上機嫌に宿題を広げた。

「開放的~! いいのかな、ああ、ドキドキする! 宿題やっちゃお、終われば自由だわ」


上機嫌というよりは妙なテンションだが、罪悪感をひた隠すかのようなそれはまだ緊張が残っていた。

椅子の背を抱えたゴハンが、それとなくエレナにふる。

「学校をサボッた事は?」


エレナは教科書をめくり、ペンを取り出して至極当然のように言った。

「あるわけないじゃん、不良じゃないもの。ゴハンはサボッたことあるの?」


ゴハンは冗談およしよと言わんばかりに、おばちゃんよろしく手を振って返してみせる。

「あるある。もうしょっちゅうよん」


「まー! 不良だわ……!」

エレナはまさかの答えに目をチカつかせたのだった。



ちょっと静かな間があった。

エレナはノートにペンを走らせ、パンは新聞を広げている。

ゴハンはゲームをしていたものの、暇を持て余してそれとなくエレナの向かいの椅子に腰かけた。


ティンクルな可愛いペンケースから、ガキくさいミルキーなペンが数本飛び出している。塗り絵でもできそうな本数だ。

「可愛いペンだね」と肘をつきゴハン。


エレナはパッと顔をあげた。

「でしょ。今クラスで流行ってるの。マーメイドカラーで、擦れば色が変わるのよ。アンヴェガ(歌手)もサインに使ったんだって」

言って、ノートの隅に簡単な花の模様を描いてみせた。ちょっと乾かして爪でこすると、銀色だった花がピンクに変わる。


感心したゴハンがふと、エレナのペンを見た。派手なペンだが、ペン尻に大きな綿毛がついているのだ。

「ねぇ、なんでペン尻に綿毛ついてんのー?」


エレナはちょっと得意げに目を細めた。

「いいでしょ!〔ぽんぽん綿毛〕よ。今すっご~く流行ってるんだから。クラスで持ってるの5人だけなの」

「へー!俺ン家にもあるぜ、耳かきの尻についてんだけどネ」


宿題の手が止まったエレナをみかねたパンが、溜息一つエレナの隣に腰かけた。

無言の重圧に、はしゃいでいたゴハンとエレナが貝になる。


またまた静かな間があった。

ペンを走らせる音に合わせ、ペン尻の綿毛が穏やかに揺れる。


沈黙に水を打つかのように、パンが口火を切る。

「他の住人はいないようだが、一人暮らしは寂しくないのか?」


「知らない」

「知らないって……、自分の事だろう」


エレナは応えない。意図的な黙殺にパンが新聞を伏せ、ふと斜め向かいのゴハンと目が合う。合って、互いにエレナの顔色を伺った。

「モーガン?」

「エッレナちゃーん」


エレナは黙りこくっていたが、応えるように前のめり、ノートに食いついた。

宿題に集中しているというよりは、露骨に無視だ。

パンはふと、エレナの筆圧が高く、荒くなっている事に気付いた。

綺麗な字だが、筆跡に抑圧された環境下が現れている。なので、それ以上は追及しない事にした。



「終わったー!」

エレナが大きく背伸びをし、投手のように肩を回す。

「パンってば先生みたいね。勉強教えてくれてありがと! すごくわかりやすかったわ」


紅茶を傾け、パンが軽く笑みを返す。その仕草にどきりとしたエレナは、手串で髪を整えつつゴハンに向き直った。

ふと見れば、ゴハンはエレナのスクイーズ(柔らかいお菓子のオモチャ)を餅のように伸ばして遊んでいる。

「ゴハン~、伸びちゃうからあんまり引っ張らないでよね」

「えっあ、ごめんごめん!」


エレナはさてと時計を見た。針は12時を指している。

(今頃、学園はお昼ご飯の時間ね……)


エレナは仮病と偽って学園を休んだことに、まだちょっぴり罪悪感を感じていた。小さな鉛が胸に沈んでいくようだった。

勉強は好きな方じゃないけれど、学園は好きなのだ。

後ろ暗いというか、素直に寝過ごしたと伝えればよかったとさえ思った。

こんな気持ちになるくらいなら、まだ叱られた方がマシだとさえ感じた。

(もう二度と、仮病はつかわないでおこう)

エレナはどこか寂しい気持ちを呑み込み、そう誓ったのだった。


ちょうどその時、パンのポケットから電子音が鳴った。

薄いスマホを出したパンが耳に当てる。一言二言交わし通話を終え、やおら立ち上がった。


「仕事だ。行くぞ、エレナ・モーガン。君にとって、記念すべき初仕事だ」


エレナは寝耳に水に、仰天まま頷いた。

「!! わかったわ」


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