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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第10話 北条家虐殺事件編 (3P)
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1.真っ黒のレンズ


《 私はこういう存在だから、キミと一緒に生きれない 》


記憶は情報に過ぎない。クローンは記憶を持たない。

サムソンは心に穴が空いたようだった。いつか北条博士が言った言葉が胸に刺さる。


《 全部が終わったら、キミはこのクローンと好きに過ごすといい 》



……・……



階段を半ばで、空気を割るような銃声が響いた。


エレナは何事かと一瞬身をこわばらせた。暗闇で鼻をつくは、色んな鉄のにおいだ。

(この部屋からだ……)

エレナが恐々、部屋の中を伺う。


およそパンであろう人影がエレナに気付き、来てはいけないと言うように手を払う。しかしエレナの視線はさらに奥にあった。

床に付す人影、サムソンがうめく。サムソンはダメージが大きいのか、肩で息をしていた。


すぐさまレンズをかまえたエレナは、ぎょっとした。レンズはまるで深海に落としたかのように真っ黒だったのだ。

タクティカルライトの光も、レンズは吸い込んでしまう。それは《視るな》とでも言っているかのようだった。

(えっうそ! こんなの初めて……!)


エレナはたじろいだものの、振り切るようにサムソンを見た。

「……ジュリアは、先生のことが何より大好きなの。誰よりも優しくて脆い人だから、私がそばにいてあげなきゃって……。でも本当は、ジュリアがサムソン先生がいないとだめなの。サムソン先生じゃなきゃ意味がないんだよ。だからサムソン先生、……目を覚まして」


サムソンは不気味に動かない。その手が硬く握られたことに気付いた者はいないだろう。

エレナは一息にいってふと、鼻腔に張り付くような臭いに思わず一歩下がった。まるで鉄を茹でているような、籠った臭いに思わず体が硬直する。それは、とても嫌いな臭いだった。


ふとチビがもがくように暴れ、エレナの手から零れ落ちる。転がるように逃げるチビと、雷鳴は同時だった。


雷光で一瞬見えた真っ赤な世界。エレナは鈍器で殴られたような感覚を覚えた。心臓が爆発するかのように暴れ、脂汗がどっと溢れる。

「じ、ジュリアっ?」

エレナがうわずった声をあげると同時、パンがかばうようにエレナを抱きとめる。残光を追うように、エレナが暗闇に手を伸ばした。

「ジュリア! うそ、うそでしょ、どうして……!? ジュリア!?」


パンがコートで大きくエレナを包み、目の前でパンのネクタイが揺れる。

「見るな、エレナ。耳をふさいで、目を閉じていなさい」

耳元のパンの声遠く、しかしほんの一瞬とはいえ、瞼に焼き付いた血の海は強烈だった。

確かにそこに、ジュリアはいたのだ。ジュリアは陶器のように寒々しい肌に、おびただしいほどの血を流していた。

最悪の結末だった。


ゴハンが軽い溜息ひとつ。銃を抜き、射抜くようにサムソンにかまえた。

「サムソン・ハワード。北条ジュリア殺害で身柄を拘束する。死にたくなけりゃ投降しな」


ゴミのように床に伏せるサムソンが、わずかに呻いた。床に落ちる涙が光り、サムソンが顔を上げる。

床に手をついたサムソンは、病人のようにゆっくりと立ち上がった。

「……そうだ、これでいい、……今度こそ、……」

自分に言い聞かせるように、サムソンは口の中でつぶやいた。立ち上がって、鷲のように両手を広げる。


その手には懐から引き抜いた、一本のナイフが光っていた。サムソンは流れるようにナイフを首筋に当てる。

「……これで北条家虐殺事件は終わりだ」

「待て!」

ゴハンの制止と、サムソンが自身の首を大きく掻っ切るのは同時だった。首の切れ目がぱっくりと開き、一瞬遅れて血が噴き出す。パンのトレンチコートに、大量の小石をめいっぱい投げたような音が当たった。トレンチコートの下からでたエレナの足に、熱い何かがぶっかかる。

エレナは反射的に下をみた。自分の脚は、真っ赤な血一色だった。びたびたと血がかかり、床に流れていく。それも一瞬で、パンに抱きすくめられ見えなくなった。

サムソンが膝をつき、力なくその場に倒れ込む。手遅れは目に見えて明らかだった。

「くそっ、自殺しやがった」

ゴハンが糞でも投げつけられた声で、一歩下がった。


返り血を拭うパンがふと、視線を上げた。遠くで警察のサイレンの音が響いていた。


……・……


——————赤ん坊の泣き声がする。


大きな血だまりに横たわる、だれか。

すがるように伸ばされた手は、おびただしいほどの血に濡れていた。


〔ごめんね……ごめんね……〕


大好きな手が、力無く血だまりに落ちる。



エレナは揺れる世界と、大きな音に我に返った。それが自分の声と気付くも、ひきつけは止まらない。なにがあったか考える前に、酸欠で世界がまたまわる。

ぐるぐるまわって遠くなる。あとはまた、暗闇だった。


「ママ、ママ」、目覚めてはそう泣き叫ぶエレナを、パンは抱きしめていた。

そうするしか、できなかった。

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