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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第9話 真犯人編 (4P)
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4.あなたの助けが必要よ

木陰に身を隠すエレナは気をもんで、改めて廃屋を見た。地獄の入口のようなドアは次の獲物を待っている。


あの中に、ジュリアがいるのだ。

できれば、正気になったサムソンと元気なジュリアが出てきてほしかった。

はやし立てるような雨音だけがエレナにささやきかける。呼応するように、嫌な予感はどんどん膨らんでいった。

 

エレナはどうしようもなく、その場にかがんだ。自身の膝の雫をじっと見る。

「私にもっと力があれば、ジュリアをこの手で守れるのに……」

そう口の中でつぶやいたときだった。


──── チリン。


雨音ではない、かすかな音がひとつ。

周囲に耳をすませる。やがてしばらくして、雨音に紛れチリンとまた1つ。耳覚えのある鈴の音だ。


「……チビの鈴の音?」

エレナは呟いてハッとした。サムソンが猫用キャリーバッグにチビを捕らえていたことを思い出す。

今度は立ち上がって耳を澄ませた。チリン、チリン。間違いない、チビの鈴の音だった。

(音がきこえるのは……こっち?)


エレナは両手に耳をあてたまま、そそと廃屋の横にまわった。

やや狭い横庭には、錆びて鎖がちぎれたブランコが片足をついている。まるでホラーゲームのタイトル絵のような不気味さだ。


ぞっとする間もなく鈴の音がまた1つ。それは、廃屋の裏口からだった。もう耳当ては必要なかった。

音のする裏口は斧で叩き割られたかのようにボロボロで、とうにその役割を終えている。


雨音がやけにうるさく感じる。チリンと音が、またひとつ。

(この音、すごく近い。チビがすぐそこにいるのね……)

エレナは唾をのんだ。大きく息を吸ってレンズを握りしめ、1歩また1歩とおそるおそる踏み出す。


裏口の隙間をのぞき込む。穴の開いた床、手摺の朽ちた階段があった。人の気配は全くない。ちょうど死角の部屋から、鈴の音だけが響いている。

エレナはふと気付いた。裏口マットに紛れて、小さな光るものが1つ。

それはジュリアのイヤリングだった。サムソン先生の手作りだと笑っていたジュリアが目に浮かぶ。

エレナは祈るように手に包んでから、ポケットにイヤリングをおさめた。

思い浮かぶはジュリアとの思い出だった。初めてジュリアに会った時、こわかったこと。スマホをぶっこわされたけど、一緒にいっぱい遊んだこと。

恋の話に花を咲かせ、一緒にアップルパイを作った日のこと……いっしょに遊んだ、かけがえのない日々。

たくさんの思い出が、小さな勇気を炊きつける。

エレナは深く深呼吸をして、日本ニンジャのように裏口から中に入っていった



中は意外にも、家らしい雰囲気だった。

バネが飛び出したソファに、古ぼけたブラウン管TVがエレナを反射する。廃れた本棚の前には猫用キャリーバッグが横たわっていて、そばのカーペットで黒い綿毛が揺れていた。


エレナは思わず声をあげそうになった。黒い綿毛ことチビが、一心不乱に爪を研いでいたからだ。

チビはエレナを見るや否や、ニャンと可愛い声をあげて駆け寄った。


(よかった、チビ。無事だったのね!)

エレナはチビをそっとすくって手に包む。チビは小鳥のように軽く、手の中で微かに震えていた。鼻はすっかり湿っていて、エレナの人差し指を冷たく冷やす。それでも細い鼻息は熱いほどだ。


……・……


暗闇の廃墟は、まるで迷路のようだった。


最後のドアを蹴り飛ばしたパンが、舐めるように銃口を流す。むっと籠った血の臭い、そして眼前の光景に銃を握り直した。


血みどろのベッドに腰かける白衣のブロンド、サムソンの目がMIBを見る。

白衣を血に染めたサムソンの手にはナイフが握られていて、暗闇でもわかるほど真っ青な顔をしていた。

かつての穏やかな面影は消え失せ、頬は涙で濡れている。


ナイフを突き立てられた幼女は、腕をだらんと垂れ下げていた。

緑の髪……北条ジュリアだ。ジュリアは血だるまで、肌は茹ですぎた肉のように白い。


遅かったか、とゴハンは内心舌打ちした。

「……よーう、サムソン先生」

ゴハンは銃をホルスターに差し、長年会ってなかった兄弟のように、親しみを込めた声をかける。

「こんなとこで仕事サボって何やってんだよ?」


サムソンはナイフを引き抜き、やおら立ち上がった。

あきらかに警察ではない風貌の2人組に小さく呟く。「……誰だ、君たちは」と。


その目の光に正気をみたパンが、ちらとゴハンを見る。ゴハンはフンと鼻で笑い返すだけだ。

「さあな? 当ててみな」

軽く言って、拳を振り上げ飛び掛かった。



チビを確保したエレナは、じっと耳を澄ませた。何かが吹っ飛んだ音とともに、天井から小さな埃が落ちる。

おそらくMIBかサムソンだろうと踏んだエレナは、そっと後ずさった。

(このままジュリアを探す……? いえ、先にチビを車に保護してから、……)


エレナの思考を断つように、突如大きな音が響き渡った。今度はTVをフルスイングで投げ飛ばしたような破壊音だ。

取っ組み合いの音が次々響き渡る。上で何かあったのだ! おっかなびっくり外に転がり出たエレナが、大きく踏みとどまる。

(に、逃げちゃダメ! レンズの光でサムソン先生を正気にもどさないと!)


中に戻ろうとした時だった。胸元のレンズがきらりと光る。

『エレナ、車内で待つことを推奨します』

穏やかなAの声に、エレナがレンズに訴える。

「A! サムソン先生はジュリアを傷つけるような人じゃないの、きっと偽物よ! レンズの光を当てないと!」


Aは応えない。穏やかなレンズの虹色が水面のように揺れるだけだった。

エレナは懇願するように、レンズに声をかけた。

「A……お願い、みんなを助けたいの! あなたの助けが必要よ」


『わかりました、エレナ。安全なルートを予測案内します』


エレナは大きく頷いて、うんと廃屋を見上げた。


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