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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第9話 真犯人編 (4P)
38/42

3.森林保護区の建造物

エレナが職員室に飛び込んですぐ、パンが立ち上がった。

「ぱ、パン、先生っ」

すがるエレナの肩をそっと抱いたパン先生は、ざわめく教師たちに「失礼します」と目くばせ席を立つ。

ひとけのない渡り廊下でやっと、パンはずぶ濡れのエレナの両肩をしっかりとつかんで向き合った。

「落ち着いて。どうした、エレナ?」


雨雫を落とすエレナは。今にもしゃくりあげそうにパンを見た。

「ど、ど、どうしようパン、サムソン先生が……!」


一通りいきさつをきいたパンが、ふむと思考に視線を流す。

「レンズでサムソンを見たか?」


エレナは愕然と首を横に振る。振って、目覚めるように目に光が戻った。

「み、見てなかった……! そうだわ、エイリアンの仕業でサムソン先生がおかしくなったのかも! だってあんなこと言う人じゃないよ!」


エレナが言い終える前に、パンはエレナに軽く指をさし念を入れた。

「すぐにゴハンに連絡をとるから、エレナはジュリアと駐車場で待っていてくれ」


エレナは大きく頷き、ジュリアのクラスへ全力で駆けた。



「北条ジュリアは出席していないね、無断欠席は珍しくないよ」

ミシェルはそう言って、息を切らす濡れねずみのエレナにすぐさまタオルをかけてやった。

「それよりエレナ、どうしたの? なにかあった?」


顔色を伺うミシェルに悟られぬよう笑みを返す。

「ううん、ジュリアに図書室の本を預けっぱなしだったからっ」


そのぎこちない笑顔にミシェルは奥歯を噛む。一体だれがエレナにこんな顔をさせやがったのだと。

「ねえエレナ、なにかあったんでしょ? どうしたの、あたしに言えないこと?」

ミシェルの優しい問いを断つように、エレナのスマホが鳴り響く。

画面の「黒金くん」の表示をみて、エレナは慌ててミシェルの話を切り上げた。


見送るミシェルに軽く手をふり、エレナは噛みつくようにスマホに耳に当てる。

「もしもしっ黒金くん! じつは……」


『北条ジュリアが、サムソンにさらわれた』


落ち着き払った黒金の言葉に、エレナは卒倒しそうになった。


……・……


MIBとエレナがかけつけたのは、町はずれの高架下だった。


高架下の柱の陰で、黒金が力なく座り込んでいる。エレナ達を見るなり、飲み屋の常連のように軽く片手をあげてみせた。

余裕が見えたが、黒い獣のようなバイクは無残にも横倒しで、痛々しいほど傷まみれだ。


「黒金くん!」エレナがとっさに駆け寄って、腕の裂傷にぎょっとした。

黒金はネクタイで止血してはいるが、パール色のネクタイは血に染まっている。

「だ、大丈夫……!? ひどい怪我!」


「サムソンは?」とパン。

黒金は頭を軽く振って、胸ポケットから引き抜いたデバイスをゴハンに突き出した。

「撒かれた。校門で念のためGPSを仕込んでおいた、これでサムソンを追え」

痛々しく割れたデバイスの地図には、サムソンの居所を指す赤いポイントがあった。


「聖イルミナ医院に向かったミリアムと連絡がつかない。ミリアムは契約金の未払いでバックレたことになる」

黒金は腕の怪我を見せ、MIBをみた。

「これで堂々と聖イルミナ医院でウロつけるってわけだ。ついでにサムソンの情報もいくつか抜いてやる、情報を買うならオレを呼べ」


MIBとエレナは互いに見交わし頷いて、しっかりと黒金を見た。

「わかったわ。あとは私達に任せて!」


GPSを繋いだゴハンがハンドルをきる。タイヤがアスファルトをきり、勢いをつけて走り出した。


鈍色の空遠く、くぐもった雷鳴がうなりをあげる。

エレナはまっすぐ先を見た。心臓は燃えるように熱い。もしジュリアを傷つけでもしたら絶対に許さないと奥歯を噛む。


(ジュリア、どうか無事でいて……!)


エレナは自分の武器であるレンズを、お守りのように握りしめる。滑らかに掌を冷やすそれは、汗ばんだ手の中でとても頼もしく感じた。


……・……


濃い曇天がベールのように空を覆っていた。生ぬるい雨が落ち葉を叩く。

鬱蒼とした山奥の闇に、建物がぽつんとひとつ。とうに廃屋となったそこに人影はなく、まるでホラー映画の舞台のようだ。ゴハンが周囲を舐めるように伺う。

「……森林保護区の廃屋か。こりゃ、10年前に北条家虐殺事件があった場所だぜ」


パンは静かに銃を抜いて、足元を顎で指した。「雨でぬかるんだタイヤ痕がある。サムソンはこの奥だ」


やがて奥まった先の広場に、いかにもなホラーハウスな廃屋が現れた。


「!あの車っ」と、エレナが仇のように指をさす。

場に不釣り合いの白のベントレーは、目に覚えのあるサムソンの車だ。エレナは唇をかんだ。

どこか忍ぶように停車していたが車中に人影はなく、雨のせいかボンネットはひと肌ほどの温かさもない。


「サムソンとジュリアが、この家の中に……」

MIBとエレナは廃屋を見上げた。奈落の入り口のような玄関が、ぽっかりと口を開けている。


エレナはこれまで、これほど怖い建物をみたことがなかった。夜の学園が遊園地に思えるほど、そこはおどろおどろしい。

それでも大切な友達ジュリアを救うため、エレナは勇気を奮い立たせた。

(待っててジュリア、サムソン先生! ……すぐに助けるから!)


パンがふとエレナを見る。エレナは気丈にしてはいるが、すっかりビビッて身を固くしているのは見て取れた。

(無理もない、まだ16の小娘だ)、パンはゴハンと静かに目配せ合う。


「エレナ」パンがそっと耳打ちした。「罠の可能性が高い。俺たちが先に調べるから、ここで隠れて誰か来ないか見張っていてくれ」

それにエレナは大きく頷いたのだった。



長年の月日で風化したドアは、きしむ音をたててMIB達を受け入れた。

中はまったくの暗闇だった。ひんやりと湿っぽく、嫌な気配が漂っている。雨漏りの水うけとなった水槽には、墨汁のように濁った水が溢れていた。窓はすべて木が打ち付けられ、腐った木の隙間から光が糸のようにさしている。


MIBは銃を構え、目で合図を交わした。素早くもガラスの破片の上を歩くように、慎重に奥へと進んでいった。

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