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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第10話 北条家虐殺事件編 (3P)
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2.本当に偶然だと思う?

MIBは上官に呼び出され、本部AR(エイアール)に報告へ向かった。


薄暗い教官室で、パンとさほど年齢の変わらぬ男が、月を背に書類に目を落とす。

彼はMIBの上官で、ピッシリと着こなした軍服に黒髪が映える、鋭い刀のような男だ。

長い指先が、こつこつとデスクの書類をうつ。指先には、報告書の〔北条ジュリア・死亡〕の文字があった。



「監視対象である北条ジュリアと、保護者のサムソン・ハワードは死亡。任務はこれにて完遂とする」

無機質な情のない声で、上官は続けた。

「2時間以内にモーガン邸から引き上げろ。次の仕事は明朝、伝達する」


そういって投げ捨てるようにデスクに流されたファイルを、パンが静かに受け取った。

「かしこまりました」


ゴハンは上官にかしこまることなく、デスクに大きく両手をつく。

「そうそう。上官殿、ちょっと質問~」


上官の目がちらとゴハンを見た。

「発言を許可する」


ゴハンは軽く小首をかしげてみせた。

「エレナ・モーガンの親友に、見覚えのある奴がいるんだよ。

俺の心当たりでは、あんたの右腕の〔ミカエル〕っていうバーディアン(鳥型アニマリアン)なんだけど。どういうこと?」


ゴハンの王手に、パンも上官の返事を待った。

しかし上官はどうということなく、とっとと出ていけというように手をシッシと払う。

「そうか。引き上げ作業に入れ」と軽く言い捨てられ、ゴハンは思い切り眉間にしわを寄せた。


教官室を出たゴハンは、振り返って扉に力いっぱい中指をたてた。

ポケットに両手をつっこんで、大股で先を行く。パンは黙ってゴハンの背についていった。



アトリウムのベンチに腰をおとしたゴハンは、苛立ちまま足を組んだ。

「なーにが〔そうか〕だよ。入隊して15年ぽっちの新米教官のくせして、生意気な野郎だぜ」


パンは思案に沈んでいたが、ふと湧き上がるように視線を上げる。

「どうも不可解だ。サムソンはなぜ今になってジュリアに手をかけた……?」


ゴハンは舌で奥歯を舐めた。ちらとあたりを見る。ちょっと間があった。

「……な、ちょっと来いよ」

声を潜ませるゴハンに、パンは大人しくついていった。



ひとけのない自販機前の廊下で、ゴハンはあたりを見渡し、おもむろに懐に手を突っ込んだ。

取り出されたのは、小さめのクリアファイルが1つ。

受け取ったパンは中の書類を1枚、また1枚と目を通した。


「……これは、DNA検査結果?」

添えられた細いガラス管には、緑の毛髪が何本かおさまっていた。


ゴハンは適当に頷いて、指先で紙を指した。

「ああ、ズラかる前に遺体の一部を拝借しといた。遺体は人工的に遺伝子操作されてたんだ、つまり、遺体はジュリアのクローンだってことさ」


それにパンが目覚めるように視線を上げる。

「それじゃあ、北条ジュリアは死んでいないということか?」


ゴハンは小さく肩をすぼめてみせた。少なくとも、ジュリア本人ではなかった〔だけ〕だからだ。

「黒金いわく、ミリアムの生死は不明だとよ。それにサムソンが真犯人じゃないと明言してる。あいつも色々掴んでるんだろうよ」

あたりを大きく見渡して、ゴハンはパンに静かに耳打ちした。

「現状は、サムソンが死亡。ミリアムとジュリアは行方不明ってとこ」


しっかり頷くパンに、ゴハンは書類に指を走らせる。

「どうも今回の任務は裏がある。同僚のミカエルも、セリオン学園じゃ『ミシェル』を名乗り、俺たちを知らぬ存ぜぬときた。

廃墟の集合隔離施設に、誰がタイミングよく通報した? 

テレマ研究施設の責任者はサムソンだったぞ、イルミナと深く繋がってんだよあの医者は!

そんなサムソンが、今になってジュリアに手をかけた理由は? なぜジュリアの遺体はクローンだった? クローン製造っていえばイルミナの十八番だぜ?

なにより上官に渡された書類をよくみろよ、〔Aのレンズはエレナ・モーガンが継続保持〕ときた。継続だぜ、継続。何も終わっちゃいないんだよ」

まくしたて、どうだとでも言うように両手を広げて見せた。


パンが書類に目を流す。ゴハンの言う通り、Aのレンズはエレナが継続保持との記載がある。それも詐欺契約書のように、すみっこにとても小さく記載されてあった。

パンがその意味を考えるより先に、ゴハンが呟いた。

「……なぁ、お前さ。イルミナの末裔であるエレナちゃんとの出遭いが、本当に偶然だと思う?」


2人は無言で見合った。パンは、ゴハンが自身の反応を試しているのか、それとも同意を求めているのかわからなかった。

的確な言葉を探してやっと出た一言は「……上官殿に直訴してくる」だった。


ゴハンは踵を返すパンの肩を掴み戻した。

「待て待て待て~! お前な、終わった事をひっかきまわす気?」

「しかし———」

ゴハンが指先をパンの胸にうんとつきつける。

「ぼけてんなよ馬鹿野郎。俺の方が上で利口だ、忠告しといてやるよ。仕事に感情を挟むな。俺たちゃただの駒だ、マスからハミ出す駒があるか? 早死にする奴は決まって首を突っ込みやがる。襟首掴んでもらえるうちが花だぜ」


パンは返す言葉が無かった。上司ゴハンの言葉はもっともだからだ。

ゴハンはパンの手から書類をとって、やれやれと頭をかいた。

「……行こうぜ、2時間以内にエレナちゃん家から引きあげないと。寝室のポータル(転送機能)も解除しとかないとね」

パンは返さない。黙って自分の足先を見ていた。



2人は会話なく、転送ポッドルームに入った。

SF映画のターミナルのようなそこは、記入先に瞬時に転送する便利機器がずらりと並んでいて、ゴハン達のようなダークスーツの人たちが忙しなく行き交っている。


パネルに表示された映像では、布団をかぶったエレナが映っていた。


「イルミナ前会長の一人娘、か。いつかは敵である俺達と戦争することになるんだろうよ。ずーっと今のままでいてほしいもんだぜ」とゴハンが呟く。


パンは布団にまるまったエレナに、胸が痛くなるのを感じた。それはパンの知らない痛みだった。

どれだけの女性と関係を交わしても得る事がなかったものだ。


「……俺は、エレナを裏切りたくない。あの娘は何も知らない、普通の女の子だ」

思わず突いて口が出る。驚き思わず口元に手をやったが、思い切った様子に手を降ろした。

「お前は平気なのか? 今、俺たちがいなくなれば、エレナは深く傷つく」


ゴハンは返さなかった。ちょっと視線を流して、なんともいえぬ静かな溜息ひとつ。立ち去りぎわにパンの肩をポンと叩く。

「30分やるよ」

そしてそのまま、転送ポッドルームを出ていった。

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