4.すぐに終わりますよ
ジュリアは浮かび上がるように目を覚ました。
暗い車内、窓の外を流れる街灯……。エレナに膝枕されていると認識したジュリアは、自身の体が泳ぎすぎたかのようにダルいことに気付いた。
ジュリアの髪をエレナの指が穏やかにすく。
「あの時とは逆だね」
エレナが穏やかな笑みをむける。それに、ジュリアは京のまじないが終わったことを悟った。エレナの胸に下がるレンズを見たジュリアは、ぼんやりと呟いた。
「エレナは前に言ってたわよね……。私のお腹とミリアムは、レンズでの視え方が似てるって……」
頷くエレナをよそに、ジュリアは思考を巡らせる。その目はまるで赤ん坊のように焦点が定まらなかった。ひどくだるく、気を許せばまた眠ってしまいそうだったのだ。
「……ミリアムに、会わないと……、……」
語尾が緩むジュリアに、エレナはうんと頷いた。そっとジュリアの額に手をやり、まるで母親のように穏やかに返す。
「明日一緒にスラムに行こうね。あとはまかせて、ゆっくり休んで」
ハンドルを握るパンが、ちらと隣のゴハンに視線をやる。ジュリアの腹部とミリアムの視え方について初耳だったからだ。ゴハンは仕方ないとでもいうように、軽く肩をすくませて頷くだけだ。
……・……
ちょうどそのころ、聖イルミナ医院でのこと。
業務を終えたサムソンは、ふと肩を叩かれ振り返った。アーロンが手で軽く挨拶をする。
「お疲れさまです、サムソン先生」
それにサムソンの目が若干泳いだ。どこか話したくない、そんな雰囲気で。
「はい、アーロンさん。その……」
言い淀むサムソンにアーロンはまばたきひとつ、小首をかしげる。「? 何でしょう?」と。
サムソンは軽く鼻先をかいた。
「グレアさんの件、ききました。転院されたそうで」
アーロンはパッと目覚めるように、穏やかな笑顔で告げる。
「ええ。それよりも、ミリアムくんは?」
サムソンは頷いた。準備はできている、とでもいうように。少し間があった。妙な間だ。通ずるものは2人にしかわからない。アーロンが古い友人の肩に手をやるように、子どもに諭すように、穏やかに告げた。
「大丈夫、すぐに終わりますよ」
サムソンは奥歯を噛んで、沈むように頷いたのだった。




