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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第7話 Wing編 (4P)
29/42

2.ハンカチ鬼

おひさまてっぺんに、夏の日差しがセリオン学園を照らす。

暑さをすく爽やかな風が裏庭に通った。


エレナは、ジュリアの話に思わず声を上げた。

「えっ今朝ここで、そんなことがあったの?」

ミシェルは飲んでいたイチゴミルクを思わず吹き出すところだった。


ジュリアは不服そうに頷き、オニギリを一口。空いた片手でチビを撫でる。

「トラエとかいってたわ、なんなのあの猿」


それにエレナは、待ってましたと言わんばかりにくっちゃべった。

「トラエくんはスポーツ特待生の陸上選手だよ。登校する日は稀だけど、写真部でインタビューしたことあるの。

中等部期待のエースでね、すっごく運動神経がいいんだよ。インターハイもごぼうぬき! ね、ミシェル」


ミシェルは軽く頷いて言い添えた。

「あたしはトラエを子どもの時から知ってるけど、まぁ陽気な奴だよ。貧民街(スラム)に住んでて、ステゴロの腕っぷしはピカイチさ」


スラムというワードに、ジュリアの視線がチラと動く。動いて、心底興味なさげに「へぇ」と嫌味たっぷりに乙に澄ました。

続けて、嫌味たっぷりに嫌悪感を添えて「よかったわ、二度と関わり合いになることがないお家柄で」


「言うねぇ」と苦笑にミシェル。

エレナがちょっと胸を痛め、ジュリアを見た。

「良い部分だけの人もいないし悪い部分だけの人もいないから、難しいところだよねぇ」とやんわりおさめる。

ジュリアはそれにはたとして、不服ながらも頷いたのだった。



パンのお手製サンドイッチを頬張ったエレナが、ふと黄色い声にまばたきひとつ。女生徒達のめろめろな声だ。

近くにパンがいるなと思った矢先、黄色い声をまとったパン先生が渡り廊下からひょっこり顔を出す。

まとわる女生徒たちは北条ジュリアの姿に仰天し、そそと退散していった。


パンが襟を正して一息。

「食事中にすまない。B組のトラエ・D・リドナーを知ってるか?」


エレナはとミシェルは、ジュリアを見た。

ジュリアは眉をひそめ、嫌悪感丸出しに舌打ちをついたのだった。


……・……


部室にそそと移動したパンとエレナは、ことのあらましを話し合った。


「ねぇパン、どうしてトラエくんを探してるの?」


パンがさてと、流し台を背に両腕を組む。

「トラエは、インターブリード(ヒトとエイリアンの混血種)でな」


エレナはひとつ頷いた。

「……そうなんだ。多いとは知ってたけど、まさかあのトラエくんがなんて」

「よくあることだ。自身がインターブリードと知らないまま生涯を終える者も多い」


「わかった。今回はそんなトラエくんを調査するのね?」

「いや、今回はトラエを母親のもとに同行させるだけだ。本日中にな」


エレナはちょっとまばたきひとつ。なにもMIBが動くほどではないのでは? といった目で。

パンは添えるように、やや気まずげに続けた。

「……インセクトイドの夜、〔 任務中の馬鹿が一般女性を妊娠させた 〕と言ったろう。その一般女性が、トラエの母親なんだ」


それにエレナは一瞬目を見開き、面食らって驚いた。

「えっ、MIBの仲間の再婚相手が、トラエくんのお母さん?」

パンはしっかりと頷き、本題を〆る。

「10年ぶりの再会になるそうだが、トラエは頑なに面会を拒否している。どこにいるか心当たりは?」と。


その時だった。

底の厚いローファーの音が響く。エレナとパンが出入口を見ると、ジュリアが示し合わせたかのように現れた。


「トラエくんは、屋上にいるはずよ」

見透かした目で2人を見て、「半分エイリアンでしょ、彼。わかるもの」


それにエレナとパンは合点に、手のひらに拳をおとしたのだった。


……・……


先を行くジュリアに続き、エレナとパン先生は屋上に出た。ミシェルも何事かと後を追う。


校舎繋ぎの屋上は、生徒たちの憩いの場だ。

頑丈な柵が均一に取り囲まれてあって、フットサルでもできそうなほどべらぼうに広い。

園芸部が置いたささやかな植木鉢が花を咲かせ、ベンチでは生徒たちが仲良く談笑していた。


ぴゅうと風が抜け、ジュリアはやや高台の給水塔に指をさした。

しかしエレナが声を投げるも無反応だった。見かねたミシェルがオーイと声をかけると、トラエがひょっこり顔をのぞかせる。


パン先生はずいと前に出た。

「お前の母親が面会希望だ。いい加減、来なさい」


トラエはバイク雑誌で顔を隠し、「ボクすごく忙しいんで絶対100%無理でェ~す」と煽り返す。


エレナはそれに呆れに腕を組み、ミシェルと見合った。

ミシェルの目が、そらみたことかと物を言う。呆れにパンの背に声を投げた。

「トラエを捕まえるのは無理だよ、雨どいを伝って逃げられるのがオチさ」


それにジュリアはどうということなく給水塔に声をあげる。

「ママに会うのが怖いからって、男のくせにブルってんじゃないわよ」


ぎょっとしたエレナだったが、トラエは単純なのか思いのほか食いついた。

バイク雑誌を放り投げ、顔を大きくくしゃつかせ、盛大なイキり顔でガンを飛ばす。

「ァあ~? ちょッと可愛いからッて調子こいてんじャねーぞコラ!」

言って、給水塔の高台から軽く飛び降りた。さすが陸上選手とあって、トラエは驚くほどの身軽さだ。


「ふっかける相手に可愛いとかいっちゃう系なんだ」とエレナは思わず苦笑い。

ミシェルはなんとも言えない顔で腕を組んだ。


トラエは馬鹿丸出しのイキリ顔で、大きく手のひらに拳を打ち当てる。

「おうおう、オレに勝てたら言う事きいてやんよ! オメーらが負けたら、1人につき食券1か月分な」


ずいと見下ろすトラエを、ジュリアも負けじと睨み返す。「男に二言はないわね」と。

「あったりまえだバーカ、このオレ様が吐いたツバ飲むかよ!」


そして、2人はどんと見合った。

いつの間にやらギャラリーがぽつぽつと増え、やれ誰が勝つだの負けるだの観客かぜだ。



仕切るはエレナだった。

相撲の行司のように間に入って、見合うトラエとジュリアに告げる。


「ルールは1対1の鬼ごっこ、腰に挟んだハンカチをとった方が勝ち! ハンカチ鬼っていうのかな、懐かしいでしょ?」


トラエとジュリアは頷き、笛を咥えたミシェルが手をあげた。

「……それじゃ、勝負開始!」

ピ!と軽く笛の音が通る。


それを合図に、第一戦目のパン先生がよしと腕まくりをした。女生徒たちの黄色い声援が爆発するかの如く響き渡る。

パン先生は構える姿も本業あってか、たいへんかっこよく決まっている。


トラエはそれにふんと鼻を鳴らした。鳴らして、ウゲッと出入り口に声を上げる。

「……げッ学園長ッ?!」

それに皆もパン先生も大仰天に振り返った。しかし、出入口には誰もいない。

パンがしまったと思う前に、トラエは一陣の風のように、パンのハンカチを奪い取り大きく掲げた。


サイリュームライトの如くハンカチを振りまくるトラエの、下品な声が響く。

「げひャひャひャひャ! ひッかかッてやんの、ばッかでー! バカ100%ー!」

女生徒たちのブーイングに尻を叩いてみせるトラエは馬鹿そのものだ。


「待て、今のはノーカンだろう」

パンが不服を申し立てるも、トラエはゲスい嘲笑を返す。

「遠吠えかましてんじャねーぞ、負け犬~! はい食券1か月分ゲーット!」と舌を出し、中指を立ててみせた。


続いて前に出るはジュリアだ。

「何度も馬鹿が通用すると思わないことね」

そうギターを構え、今朝のお返しをする気満々にトラエを睨みつける。


エレナはかつてコンビニで絡んできた不良の末路が頭をよぎった。

「ジュリア、ハンカチをとるだけでいいんだよ」と、声をかけようとした時すでに遅し。

ジュリアはギターを大きく振りかぶって、突風のようにトラエに殴りかかっていた。


その瞬間、みな一斉に大空をあおいだ。トラエが太陽を背に大きくバク転し、高台の給水塔に着地したのだから!

おまけにその手には、ジュリアのハンカチがなびいていた。

「ハイ、オレの圧勝~! 食券2か月分もうけもうけ。さぁ、次は誰だ?」


サーカス団員のような華麗な身軽さに、一同思わず大きな拍手で湧き上がる。


ジュリアが構わず殴りに行くのを止めたのは、見物していたミシェルと桜蘭だった。

「ジュリアさん、これをお使いください」

桜蘭が紙コップを手渡す。ジュリアは紙コップを見て、馬鹿を見る目で桜蘭を睨んだ。


桜蘭はかまわずエレナやミシェルも呼び込んで、女4人でひそひそと作戦会議を始める。そそと周りの女子たちもあつまりはじめる始末。

ジュリアがちいさく頷き、ミシェルがなんともいえぬ顔で首をかしげる。女子の結託力を知るパンが、ふむと様子を伺った。


やがて、よしっと小さく声を合わせたエレナ達は、まるでバレーの選手のように広がっていく。

前に出たのはエレナだった。

「次は、私が相手よ!」


何事かと見守っていたパン先生とトラエが、目を丸くする。

なぜなら、エレナはこれみよがしにハンカチを胸元に挟んでいたからだ。



桜蘭がおっとりと手を振る。

「エレナさん、ファイトですわ~」

ミシェルが元気よく「エレナ、頑張れー!」と声を投げる隣で、ジュリアは紙コップ片手に仁王立ちだ。

声援にガッツポーズを返したエレナは、トラエを指先で煽ってみせる。


それを合図に、トラエがフンと鼻で笑い、エレナめがけて駆けだした。

「後悔すんなよッ」


とたんエレナは大きく息を吸って

「きゃーッえっちーッ! あの目、おっぱいタッチ狙ってるー! スケベえっち変態!」

響き渡る声にトラエが思わずずっこけた。両手を地面につき、顔を真っ赤に声を上げる。

「はァあ!? ばッ……! ちげーし! はァ!?」


エレナはすかさず拳を振り上げ「じゃんけんぽん! はい私の勝ち!」


エレナの出したチョキに、両手をパーでついていたトラエが目を見開き、食いつくように牙を見せ吠え上げた。

「ァあ!? ジャンケン関係ネーだろ! ずりーぞエレナ・モーガン!」


エレナは先ほどの悲鳴はどこへやら、吠えるトラエを余裕で見下ろす。

「何よ、さっきパン先生にズルいことしたのに、それ言うー?」

パン先生を小馬鹿にされ、怒りに震える女生徒たちの非難轟々が輪をかけた。


頃合いを見て、桜蘭が静かに声をかけた。まるで下民を見下すお姫様の顔で、

「あらまあ、先ほど〔オレに勝てたら言う事きいてやんよ〕と大口を叩いておられましたのに……」。


ミシェルが気の毒そうに小首を傾け「トラエ、じゃんけんも立派な勝負だよ。観念しな」。


そして最後にジュリアが、紙コップをトラエの手元に投げてやった。まるで野良犬に食べ残しをやるように。

「納得いかないなら、それにツバを吐いて飲むがいいわ。這いつくばって拾いなさいな」

よりによって保健室の検尿カップだ。それにはパン先生も思わず噴き出した。


ハメられたと気づいたトラエが苛立ちまま地面を殴る。

「ちッくしょー! ……わーッたよ、母親に会えばいいんだろ!」


トラエの観念にエレナ達は見合い、勝利のハイタッチをしたのだった。


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