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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第6話 インセクトイド編 (4P)
21/42

1.デート


通学バスから降りたエレナとゴハンは、セリオン学園へと続く黄金街道を歩いていた。

朝日に照らされた金色の街道眩しく、緑に歌う小鳥達の可愛らしい鳴き声が響く。


挿絵(By みてみん)


喋らせ上手・聞き上手のパンと違い、ゴハンの会話はツッコミ・ツッコまれのオンパレードだ。

腹を抱えて笑う日もあれば、鞄を振り回して追いまわす日もある。だが今日は、そのどちらでもなかった。


ゴハンからもらったボールガムを口に放り込んだエレナが、街路樹の影でふとスマホを開く。

「あ、今日はジュリアがお休みなの。サムソン先生は休日が少ないから、デートなんだって」

言って、画面をゴハンに向けた。


海の見える海岸線で、ジュリアがサムソンと映っている画像だ。まるで映画のワンシーンのようなそれに、ゴハンは小馬鹿に片眉を上げる。

「う~わ、白のベントレー最新モデル! いつの時代も医者はお金持ちだね~」


対してエレナが手を腰に、軽くスマホを振ってみせた。

「も~、車じゃなくってデ・エ・ト! 大人だよね、ジュリアって」


エレナは口の中でガム風船を割った。舌にザラつくガム風船が、カエルの腹のように弾ける。

ジュリアはきっとこんなカラフルなボールガムは食べないだろうとエレナは思った。ガム風船を膨らませて遊んだりもしないだろうと。

「あーあ……みーんな彼氏いるんだもん。大学生の彼氏がいる子もいるのよ、ドライブデートとかしてるんだって」


その異世界を語るような口調に、ゴハンは軽く笑ってみせた。

「エレナちゃんくらいの年頃は、年上ならアホ男でもミステリアスに感じちゃうもんだよ」

軽く言いもって、すれ違う生徒に陽気な挨拶を返す。さてとエレナに肩をすくめて、軽く両手を広げてみせた。

「ま……この世にゃ、そんな多感で無防備な時期の子猫チャン達を狙うスケベ野郎もい~っぱいいるわけ。男はオオカミなのよん」


今度はエレナが小馬鹿に片眉を下げた。

「あーら、まるで自分はそうじゃないみたいな口ぶり」と。


しかしゴハンは当然至極にしっかりと頷く。

「そりゃもう! 俺チャンすこぶる紳士。お試しで放課後、俺チャンとデートしちゃう?」


ゴハンのウィンクにどきりとしたエレナは、鞄をかつぎ直し、さっさと黄金街道を行く。

「もう。ゴハンとじゃ普通に遊びになっちゃうじゃん。デートってのはそんなんじゃないの。……よく知らないけど」


エレナはお姉さんぶってそう言ったものの、デートというのはどういうものなのか頭を巡らせていた。

一緒に食事をしたり映画をみたりする印象だが、どれもパンやゴハンとの日常風景だ。

昨夜だってソファに3人並んで映画を観たし、今朝だって一緒に朝ご飯も食べた。あれをデートとは言い難いだろうと。

そしてはたとし、釘を刺すように横目見る。

「あ、ちゅーとか絶対ヤだからね! おぇっ」


可愛いエグッ面に笑ったゴハンが、エレナの肩に軽く当たる。


そのままちょっと屈んで目線を合わせ、秘密の呪文を教えるようにエレナに囁いた。

「じゃあ放課後、教えてやるよ」

そう言って、エレナの頭を軽く撫でる。いつもの軽いそれではなく、男らしい声色にエレナは思わず赤くなった。

ゴハンは普段おちゃらけてはいるものの、時折うんと大人っぽいというか、男らしいのだ。


「へぇ~、随分な自信ね。期待はしないでおいてあげる」

エレナは赤くなった頬をゴハンに見られないよう、ツンとそっぽを向いたのだった。



……・……



木々をすく風がさわやかに香る。


サンセット通りのカフェテラスで、サムソンとジュリアは朝食をとっていた。

シックな色合いのテラス脇に、小さな花壇が季節の小花を咲かせている。


食後のコーヒーを置いたサムソンは、ジュリアの話に耳を傾けていた。

チビのこと、エレナのこと……ジュリアの会話に花が咲いた事が嬉しかった。サムソンの手を握ったジュリアが、可憐に頬を染める。


その様子を奇異な目で見た客達の視線に、サムソンはそっと握り返したあと、静かに手を引っ込めた。

親子とも兄妹ともつかない2人の外見差は、どこに行っても視線を集める。ジュリアは少し目をふせ、手を膝に置いた。


「そろそろ出ようか」とサムソン。

ジュリアは小さく頷き、その背に続く。


その時、ふいに窓際の席の老夫婦がジュリアの手を掴んだ。

「お嬢ちゃん、もっと自分を大切にしなきゃいけないよ。お兄さん、あんたこの子の何なんだ?」

正義感あふれる目をしたおじいさんに続き、眉毛をハの字にしたおばあさんがジュリアに続ける。

「もう大丈夫よ、お父さんやお母さんはどこか、言える?」


悪気の無いその言葉に、ジュリアが眉をひそめ睨み返す。とたんサムソンが間に入って、ジュリアの手を引いた。

「姪っ子です、お気遣いどうも」

大きな手がジュリアの小さな手を包む。店を出るまで、いぶかしげな視線は続いた。



「そんなにしょげないで、僕まで悲しくなっちゃうよ」

ハンドルを握るサムソンが横目ふる。

ジュリアは静かにつま先を見ていた。20センチもない小さな足に、ぴったり合った子ども靴が憎かった。

「ごめんね、先生……」


それにサムソンは承知に応えなかった。ウィンカーを点け、流れるように公園の駐車場に停車する。

「……ジュリア、顔を上げて?」


サムソンは言って、ポケットから小さな箱を取り出した。手にすっぽり入るほどのそれは、猫の形をしたジュエリーケースだ。

「大したものじゃないけど」とサムソン。

ジュリアが驚きままに、ケースを見てサムソンを見る。頷くサムソンに応えるように、ジュリアはそっとジュエリーケースを開けた。


中には、小さな猫の可愛らしいイヤリングが光っていた。銀色の猫の首元は、リボンを思わせる小さな赤い石が飾られてある。


「可愛い……」ジュリアが目をきらめかせ顔を上げる。「……もしかしてこの猫、チビ?」

サムソンは頷き、ジュリアの耳にそっとイヤリングをつけた。

「ジュリアに似合うと思って、合間に作ってたんだ。ちょっと不恰好だけど」


小さな耳に、きらりとイヤリングが光る。ジュリアは綿毛に触れるかのように、そっと両耳を包み込んだ。

「……先生、ありがとう。一生大事にするわ」


まぶしいほどの満面のその笑顔に、サムソンは歯を見せ少年のように笑ったのだった。



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