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95話 同棲の始まり


 昼過ぎ、ようやく寮に帰宅すると、出迎えてくれたのは、にんまり顔のクレアさんとマミア様だった。


 いったい何?


 と身構えていると――


「おかえりなさい。あなた達には二人部屋を用意してもらったわよ。当然、防音設備は完璧にしてあるわ」

『…………』


 すごいことを、みんなの前でマミア様に言われる。

 私たちは顔を真っ赤にして言葉を失った。

 意味を理解した者は気まずそうに視線を泳がし、理解していない子はキョトンとしている。


「ルシアさんは、撫子さんの隣の部屋を使ってください。最低限のものは、用意しました」

「ランチが終わったらショッピングに行きましょうね? もちろん穂香ちゃんと撫子ちゃんも一緒に」


 それでも二人は構わず話を進める。


 うん、それは大丈夫。私もルシアちゃんを連れて、身の回りのものを買いに行こうと思っていたから。


「は、私は捕虜よ」


 もはやお決まりの返しだ。


「捕虜でも身の回りの物は必要じゃない? それに監視も制限も、すでに発動しているわ」

「……確かにそうね」


 しかしマミア様のほうが上手で、軽く言いくるめられる。


「ではルシアさん、案内しますね」

「……ありがとう。よろしく」


 だからルシアちゃんは素直で可愛い。


 背後からかすかに刺さる痛い視線は、もちろん無視です。


「私も隣だから一緒に行く」


 撫子さんはそう言って、ルシアちゃんと一緒に行く。

 年の近い女の子同士、仲が深まればいいなと思う。


「そんじゃオレ達も一旦部屋に戻るか?」

「ですね。今日は休みにして、明日からまた頑張りましょう」

「アーロン、後でちょっと付き合ってくれますか?」

「もちろんだ」


 男連中もそれぞれ言い合い、その場を後にする。


 リチャードくんはルシアちゃんの一件以来、一向に元気がない。アーロンに何を頼んだのかは知らないけれど、いい気晴らしになればいいと思う。


「二人は私が案内するわね? 話もあるの」


 そして私たちはマミア様に、新居へと案内される。



 私たちの新居となる部屋は、4Fだった。

 ベッドルーム、リビング、書斎(エルヴィスさん用?)、キッチン、バスルーム。

 今までの寮の部屋と違って、完全な住処。


 ……本当に配慮……。




「エル、穂香ちゃんと正式に婚約しなさい」

「はい?」


 マミア様の爆弾発言に、彼は声を裏返らせて固まった。

 私も息が止まりそうになる。その様子をキュアちゃんはオロオロと見回していた。


 この人、さっきから何を言ってるの?

 壊れた?


「それともエルは、穂香ちゃんと結婚する気はないの?」


 え、ないの?


「あります。使命が終わったらするつもりです」


 は、そうなの?

 初耳なんですけど?


 低い声で迷いなく即答する彼には悪いけれど、まったく身に覚えがなく戸惑うだけだ。


 そりゃあ、いつかは結婚したい。

 添い遂げるつもりでいる。


 でも――


 私、プロポーズされてないよね?

 それともこの世界には、プロポーズという概念がない?


「穂香ちゃん、エルからプロポーズされた?」


 私を見て何か察したのか、呆れたように問われる。私は首を横にブンブン振った。


 どうやらプロポーズはあるらしい。


「だそうよ? 実際どうなの?」

「そんなもん欲しいのか?」


 大きくため息をつき彼に確認すると、本気で分かっていない様子で、ありえない答えが返ってきた。


 一瞬で辺りの空気が凍りつく。目の前が真っ白になり、軽い目眩が私を襲う。


 彼がいまいち女心を理解していないのは分かっていた。

 私も男心を分からないから、お互い様だと思っていたけれど、これはさすがにない。


「エル、あなたそんなんじゃ、いつか彼女に捨てられるわよ」

「なっ?」

「プロポーズは女性にとって、結婚以上に一大イベントなの。ケインくんにその辺、ちゃんと教えてもらいなさい」


 私が怒らなくても、マミア様はそれ以上に叱責してくれる。ありがたい。


「穂香、そうなのか?」


 顔を真っ青にして、深刻そうに聞かれる。

 思ってもいなかった。そんな顔だ。


「捨てたりはしませんけど、プロポーズはして欲しいです」

「……分かった。ケインに聞いてくる」


 怒らず冷静に本音を伝えると、彼は真面目に受け取り、肩を落としてトボトボと部屋を出てしまった。


 ……ケインさんに何を聞いてくるんだろう?

 それはそれで怖いんですが……


「穂香ちゃん、ごめんなさいね? こんなことならもっと恋愛について、詳しく教えるべきだったわ」

「まぁ分かってくれたからいいです。でも、ちょっと怖い」


 つい本音が漏れてしまうと、マミア様は苦笑するのだった。

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