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87話 誤解される? 

 

「おばさんって、実は強かったりするの?」

「え?」


 ルシアちゃんの問いに、私は答えに戸惑った。


 答えは“弱い”。

 けれど、そんなことを言ったら張り倒されて逃げられそう。

 かと言って“強い”とハッタリをかましても、即効バレて軽蔑されそう。


「……それなりかな?」


 導き出したのは曖昧な回答。

 これならどっちにも取れるし、何を言われても言い逃れはできる。


「それなりにね? それでその武器で闘うんだ」

 キュ?

「そう」


 なんだか私が尋問されているみたいだ。


 そういえば、あの男もやけに私のことを知りたがっていた。

 そんなに私のことを知りたい?


「デュークは、私の何を知りたがってるの?」


 無意識に、声に出していた。


「突然現れたおばさんを警戒してるだけ。パパは知らないものは、徹底的に調べ尽くす人だから」

「そうなんだ」


 躊躇なく答えてくれるのは、嬉しい。

 でも、その内容に背筋が冷える。


 私を調べても雑魚なのに。

 幻滅されて、下手したら殺されるかもしれない。


「もしかして、パパにビビってる?」

「そりゃあ四天王の一人だから」

「まぁね。しかも四天王のリーダーで、強くてカッコいいんだ」


 目を輝かせてデュークのことを誇らしげに話すルシアは、やっぱり可愛い。

 その無邪気さに、少しだけ怖い気持ちが軽くなる。


 エルヴィスさんの見える範囲で大人しくしていれば、大丈夫だよね?


「でも……パパは一度の失敗は許してくれるけど、二度目は決して許さないんだよね。……あたしは……もう一人ぼっちなんだ」

「ルシアちゃん、泣かないで。だったら私の妹になりなよ」


 涙を静かに流して寂しそうに呟くから、背中をさすりながら願望を口にしてしまった。


 私にはエルヴィスさんがいる。

 一人じゃない。

 でも家族はもういない。


 だったら、ルシアちゃんと姉妹になるのも悪くない。


「は? おばさんはあたしの敵でしょ?……ありえないから」


 返ってきたのは、悲しくなるくらいはっきりした拒否。

 それでも少しだけ言葉を詰まらせた。

 可能性は、まだあるよね?


「あたしのお姉ちゃんになるには、パパの弟子たちより強い人じゃないとダメなんだから」

「うっ……」


 どうやら可能性はなかったらしい。


 私があの男に勝つ? 無理でしょ?

 結界を簡単に壊されないように、能力アップは……私なりに頑張るつもりだけど。


 防御は最大の武器って言うし。


「……そういえば、おばさんの名前はなんていうの?」

「穂香。よろしくね」


 急に思い出したように名前を問われ、愛想よく即答する。


「……穂香ね。……しょうがないから名前で呼んであげる」

「うん、ありがとう」


 とんでもないご褒美をもらった気分。

 再び頬の筋肉が崩れそうになるけど、そこは踏ん張る。





「調子はどうだ?」

「エルヴィス?」


 姿を見るなり、ルシアちゃんは顔をしかめて睨みつける。

 風がざわめき出す。


 確かにルシアにしてみれば、エルヴィスさんとクロさんは天敵。そうなるのも当然かもしれない。


「ルシアちゃん、エルヴィスさんは本当は優しい人だから大丈夫だよ」

「優しい? ラークの鬼軍曹って言われてる人が?」


 信じられない、とばかりにすごい呼び名が返ってくる。


「え、冷血鬼教師じゃなくて?」

「……軍にいた頃の話だ」


 ここで知らなかった事実を知る。

 エルヴィスさんは気まずそうに、私から微妙に視線をそらす。


 元軍人なのか。

 だから軍人のテキサス様から“先輩”と呼ばれているんだ。


 やっと合点がいく。


「怒らないのか?」

「へぇ、なんで? そんなに私、怒りっぽいですか?」

「そんなことはない。ただ軍人だったことを黙っていたから」


 私の反応が意外だったのか、目をぱちくりさせている。


 それは少し心外だった。むしろ、そっちのほうが腹立たしい。


「それは私が聞かなかっただけですよね? なら私に元彼がいたことが発覚したら怒るんですか?」

「!? いたのか?」

「え、あ。いませんけど」


 予想以上のショックの受け方に、申し訳なくなってすぐに否定する。


「……穂香って本当に何者?」


 私たちのやりとりを見ていたルシアちゃんが、ぽつりと呟く。


「なんで?」

「だって鬼軍曹をここまで骨抜きにするなんて、どう見てもただ者じゃないでしょ?」

「うーん。それは私にも分からない。なんでなんだろうね?」


 それ、私も聞きたい。


「俺にとって穂香以上の女性はいないと想っている」

「え、あ、その……ありがとうございます」


 迷いなく断言されて、顔が一気に熱くなる。


 ルシアちゃんは、小さくため息をついた。


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