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86話 三人の決意


 キュンキュー。

「げ、忘れてた」


 キュアちゃんの困ったような鳴き声で、ふとあることを思い出す。大量の冷や汗が流れ出し、恐る恐る視線を向けた。

 そこには、まだ気を失ったままのシャインとマスカット。

 顔色は悪くない。


 たぶん……大丈夫、だよね?


「私、シャインとマスカットの様子を見てきます」

「あっ」


 どうやらエルヴィスさんも二人のことを忘れていたらしく、間の抜けた声を上げる。

 私が取り乱していたから、教え子にまで気が回らなかったのだろう。

 私もずっと、自分のことでいっぱいいっぱいだったから、他人の心配をする余裕なんてなかった。


――優しくしよう。






「姐さん、俺たち情けないよな」

「こんなあっさりやられて……吹き飛ばされて気を失うなんてさ」


 意識を取り戻した二人は、しゃがんだまま肩を落としている。

 珍しく自信をなくしている様子に、どんな言葉をかければいいのか迷っていると――


「……こんなの俺たちじゃねぇよな」

「だな。いくらアーロンが護りし戦士で強いからって、それを言い訳にしたらダメだよな? 俺たちだって、もっと強くなれるはずだ」


 二人は顔を上げる。

 その目には、もう光が戻っていた。


 あれ、勝手に立ち直ってる?

 ……早くない?


 あまりの切り替えの早さに戸惑うけれど、こういうところが双子らしい。どんなときでも強気だ。それにアーロンだけが強くなるなんて、きっと二人のプライドが許さないのだろう。


 その前向きさに感化されて、私の決意もさらに強くなる。


「そうだね。私もだよ。心を強くするって決めたんだ」

「姐さんも?」

「だったら三人で強くなろうぜ」


 三人で新たな決意を胸にする。

 そして、エルヴィスさんたちのもとへ軽い足取りで向かった。

 けれど、そこではまだ揉めている真っ最中だった。

 ルシアは口と手を頑丈に縛られ、それでもじたばたと抗っている。

 困り果てて髪をかくクロさんに駆け寄り、睨みつける。


「クロさん、何してるんですか? いくらあなたが戦場では情けをかけない人だとしても、相手はまだ未成年なんですよ」


 雷が落ちる覚悟で、怖れずに意見する。

 さっき、クロさんは話を聞くだけだと言っていた。

 それなのに、どうしてこうなる?


「すまん。あまりにも暴れるから、つい。どうも女のガキは苦手でな。穂香さんに預けていいか?」

「え、あ……はい」


 意外にもあっさり非を認められ、申し訳なさそうに頼まれる。

 思っていた反応と違い、少し拍子抜けしてしまった。


 女の子が苦手ね?


 面倒見が良さそうだし、撫子さんとは普通に接していると思っていたけれど。


「悪いな。ならオレは……ガキども、復活したんだな? ちょっとオレに付き合え」

『はい』


 ホッとしたらしくニカッと笑い、さっさと離脱する。二人は嬉しそうについていった。


 男の子ならいいんだ。


 率直な感想だった。


「ごめん。痛かったよね」

「どういうつもりよ? 捕虜に同情?」


 警戒したまま口の紐だけ外すと、思いきり睨まれる。

 ちょっと怖いから、手の拘束は様子見かな。確実に私のほうが弱いし。


「そんなつもりは……あるかな? それにルシアはリチャードくんの女友達だから、悪い人だとは思えなくて」


 本音を語ると、ルシアの顔が真っ赤に染まった。


「ち、違うわよ! あいつはただの級友。そりゃ隣の席だったし、選択科目も同じだったけど……って、あんたには関係ないでしょ!」


 声を裏返し、過剰反応。

 聞いてもいないのに、勝手に語ってくれた。

 ほんの少しだけ乙女になっていたことは、ここだけの秘密。


 なに、この子。

 超可愛いんですけど。

 ツンデレ娘、キタ!!


 これからは“ルシアちゃん”だ。


 ほほの筋肉が自然と崩れるのが、自分でも分かった。


「うわぁ~、おばさん気持ち悪いんですけど。ひょっとして変質者?」


 案の定、思いきりドン引きされる。

 一気に現実へ引き戻され、ショックを受けた。


 確かに私はおばさん。一回りくらい離れているんだから当然か。

 メシアのときもそうだし、私って損な立ち回り。


「え、あ……おばさん、大丈夫? ちょっと言い過ぎた」


 絶賛落ち込み中の私を、ルシアちゃんは焦りつつも気遣ってくれる。


 私の天使。

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