103話 魔族の来訪者
「クエルドゼロ、逢いたかったわ」
「おい、よせ。みんな見てるぞ?」
狼男風のルークさんを乗せているであろう自動車から降りてきたのは、シルバーウルフ風のスラッとした女性。聞き慣れない名前を呼びながら、嬉しそうにクロさんに抱きつく。そんな彼女を優しく受け止めるも、突然のことに驚きを隠せずにいる。
クロさんの彼女?
さっき聞いた限りでは、特定の彼女がいる感じはなかったけれど。
「こら、レイア。殿下が困っているだろう」
次に降りてきたのは、同じくシルバーウルフ風で片眼鏡を掛けた男性。
この人が考古学者のルークさん?
それで彼女の名前はレイア。
「いいじゃない、このぐらい。軽いスキンシップよ」
「軽いスキンシップね。少なくとも、その名前呼びはわざとだろう?」
レイアさんを下ろし、呆れた口調で問うクロさん。
「ええ。あんたの今の女を把握しておきたかったんだけれども、どうやらこの二人ではなかったようね?」
口調はさっぱりなのに、言い方がなんだか怖い。
もしクロさんの彼女だったら、先制布告されるのだろうか?
「クロ、そいつは誰なんだ? しかもクエルドゼロって?」
怖いもの知らずのアーロンが、すべての謎を聞いてくれる。
「悪い。こいつはオレの許嫁で、考古学者のレイア。そっちの彼、ルークの娘でもある。クエルドゼロってのはオレのフルネームだ。通称クロ」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
『おー!!』
すぐに両方の答えが返ってきて、周囲からどよめきが起きる。
どっちも驚くべき答えだけれど、私は名前の方が驚きだ。
仲間なのに、フルネームを名乗らない。
クロさんらしいと言えば、らしいのか?
でもそれならゼロの方が格好……それは私の主観だね。
「呼びにくいのもあって、今じゃ誰も呼ばねぇ。別に信用してないから黙っていたわけじゃねぇからな」
「疑ってないですよ。私もフルネームが好きではないですから、気持ちは分かります」
疑ってもいないのに自ら潔白だと主張すると、はにかむ撫子さんから逆に同情される。
意味が分からないのか眉をひそめるクロさん。でも私は妙に納得し、笑いそうになってしまう。
大和撫子。
だもんね?
「そ、それはもしかして、ディスファクトシリーズNo.005ではありませんか?」
今度はルークさんが目を丸くし、撫子さんに近づき腕をがしっと掴む。撫子さんの眉がピクリと動く。
「ディスファクトシリーズNo.005?」
「はい。ディスファクトは、魔族の王族に伝わる秘宝のレプリカ。五つあると言われています。秘宝は主が変わる度に形状が変化するのですが、ディスファクトは大きく変化するのは一回限りです」
必要以上にフェリオスについて説明してくれるも、私とクロさんの心臓には悪く、冷や汗が止まらない。
そんなの私、聞いてませんけど?
え、じゃあフェリオスって、キュアちゃんのコピーってこと?
だから仲良くしてくれないの?
「ならアーティも、そのディ――」
『あー!!』
なにも知らない少年は無邪気に反応を見せるけれど、私とクロさんは同時に声を上げる。 それは明らかにおかしくて――
「アーティ? ディスファクトが、もうひとつあるのですか?」
興味を強く持たれ、問われる。
隣のレイアさんは何か閃いたのか、不気味に笑う。
「クロ、もしかして秘宝を使った?」
「は、何のことだ? オレは使ってないぞ」
嘘はついていないが、クロさんらしくない焦りが見える。
「オレはね……。なら女に贈ったの?」
「なっ!? そんなわけねぇだろう?」
完全に詰んだ。
クロさん、隠し事が下手なんですね?
「殿下。どういうことなんですか?」
もちろん聞き逃すはずもないルークさんは、鬼の形相に変わり問い詰める。
迫力がありすぎて怖い。
「まぁ成り行き上でこいつに渡した。キュアアーティと名付け、えらく懐かれている」
あっさり私を売るような台詞。視線を泳がせ、逃れようと必死になる。
売られてしまった私は、とっさにエルヴィスさんの手を握りしめた。
「彼女は関係ない。それに元はと言えば俺が原因だ。罰があるのならば、俺がすべて受ける」
強く握り返してくれ、私を抱き寄せ迷いなく言う。
彼はこういう人なんだ。何があっても私を護ってくれる。
こんな状況にも関わらず、胸が高まり、ますます彼に惚れてしまう。
「いいえ。私が怒っているのは無断で持ち出し、勝手に譲渡した殿下に対してです。あなた方には、何の落ち度もありません」
クロさんが言った通り、私と彼には優しい表情を向けられる。
「殿下。このことは陛下に伝えさせていただきます。きっちり怒られてください。そして反省なさい」
「……はい。申し訳ありませんでした」
ポカンとする私たちの前で、再びクロさんに迫力あるお説教。
あのクロさんがシュンとなり、怯えた謝罪でこの件は終わった。




