102話 考え方の違い
「穂香さん、お願いだ。ルークにけしてキュアアーティを見せないでくれ」
「ルーク?」
キュー?
エルヴィスさんを迎えにトレーニングルームへ行く途中、血相を変えたクロさんがやってきて、すごい勢いでお願いをされる。
しかし初めて聞く名前に首をかしげ、問い返した。
「すまねぇ。ルークは王室お抱えの考古学者だ。オヤジの親友でもある。オレが秘宝を持ち出し第三者に渡したとバレたら、ただじゃすまねぇ。オヤジにも報告される」
やや早口で状況を説明され、すでに詰んでいることを知る。
いつも冷静なクロさんがここまで怯えるなんて、相当恐ろしいんだろう。
冷や汗がどっと出て、唾を飲み込む。
無意識にキュアちゃんを抱き上げた。
キュアちゃんの主である私も、きっと同罪だ。
「殺されたくないので、絶対にバラしません」
「は? 安心しろ。バレたとしても、怒られるのはオレだけだ」
血相を変えて力強く頷くと、軽く笑われ、それはないと言われてしまう。
それが普通なんだろうけれど、化石級の王と取り巻きのせいで、感覚がバグっている。
どうやら魔王の噂は、本当らしい。
「ところで旦那を知らないか?」
「エルヴィスさんなら、トレーニングルームに」
「いなかったぞ」
話は変わり、エルヴィスさんの居場所を問われ即答するも、即否定され考え直す。
てっきり筋トレをしていると思ったのに、魔術の鍛錬かな?
それともランニング?
まさか図書室?
考えれば考えるほど、分からなくなる。
「私、エルヴィスさんのこと、なにも知らないや」
「は? そこ落ち込むことか? 彼女と言っても、所詮他人だろう?」
ショックを受けていると、クロさんは目を丸くし、冷たく言い放つ。
所詮、他人。
確かにそうなんだよね?
たとえ結婚しても、他人……。
「クロさんは好きな人のことを、知りたいと思わないんですか?」
「思わないな。冷たいと思われるが、会っているときが良ければそれでいい。オレ自身、しつこく詮索されるのが好きじゃねぇんだ」
「そういうもんなんですね」
思っている以上にドライすぎる考え方に、エルヴィスさんはどうなんだろうと思ってしまう。
昨日だって会話は弾んだけれど、お互いの話にはならなかったんだよね?
エルヴィスさんって、あんまり自分のことは話さないんだよね?
今まではそこまで気にしてなかったエルヴィスの過去が、今更ながら知りたいと思うようになった。
でもそれを言ったら、嫌がられるかもしれない。
……エルヴィスさんは、私の過去を知りたくないのかな?
「そう落胆すんな。オレのような考えは少数派であって、旦那は違うと思うぜ?」
すかさずフォローを入れてくれるも、余計不安になる。
「そうなのかな?……一人が好きだから、あんまり詮索されるのは嫌なのかもしれません。今は私がすべてだとか言ってますが」
「なんだよ。のろけ話かよ」
「なっ?」
私なりに本気で悩んでいるのに、うんざりしたように言われてしまう。
のろけ話?
今のがのろけ話なの?
「本当にお前ら、日常が絡むと隙がありすぎる。なんならオレが旦那から奪ってやろうか?」
「冗談もほどほどにしてくださいよ。だいたい私の心も身体も、完全にエルヴィスさんのものです。誰にも奪えません」
なのに壁ドンで顎をくいと上げられ、甘い声でからかわれてしまう。
そんなに私は隙だらけだろうか?
しかし私の心は少しも揺れず、強い姿勢でその手を払いのける。
するとクロさんの瞳が、ほんの一瞬だけ曇る。
けれどすぐ元に戻り、
「そう熱くなるなって。そこまで旦那を一途に愛しているんだから、もっと堂々としてればいいだろう? オレには無理だが、旦那ならすべて受け止めてくれるだろう?」
「ならいいんですけどね」
とたんに弱気になってしまう。
自分でもよく分からない。
「だから、なんでそこで弱気になるんだ? な、旦那。もっと嫁さんを大切にしてやれ」
「え、エルヴィスさん?」
振り返ると、不思議そうにこちらへやってくる。
「言われなくても、大切にしている」
当然とばかりに答え、いまいち状況を飲み込めていない様子だ。
「ならよく話し合え。旦那のこと、いろいろ知りたいらしい」
「いろいろ? 聞けば、なんでも答えるが?」
まったくいやそうな感じではない。
「本当に? なら今夜、いろいろ聞かせてください」
「分かった。すべて答える」
ホッとして約束すると、快く頷いてくれる。




