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101話 早朝ランニングにて


 鍛錬は、別々に行う。

 ただし魔術の指導は、前のようにエルヴィスさんがしてくれることになった。

 なので私はキュアちゃんと、早朝のランニングをすることにした。

久しぶりだからバテると思っていたけれど、覚醒の賜物なのか平気だった。


「キュアちゃん、気持ちいいね」

 チュア


 朝の日差しと心地よい風を感じながら、ついてきてくれるキュアちゃんに話しかける。

 楽しそうに、くるっと一回転。


 気持ちいいんだ。

 そんな素直な返事が返ってくると、ますます張り切って速度を上げる。


 今日は調子がいいから、もう少し先まで――




「もう一回だ。もう一回!」


 どこからか、必死に頼むアーロンの声が聞こえる。しかも悔しそうだ。


「駄目。これ以上やっても無意味よ。感情的になったら負け」


 今度は叱責する撫子さんの声。


 怒られてる?


 気になって、キョロキョロと辺りを見回しながら、声のする林の奥へと進む――が。


「誰?」


 低く、抑えた声。

 それでいて警戒は最大。

 空気が一気に張り詰める。

 恐怖のあまり、腰が抜けて尻餅をついた。

 私にも分かる殺気が、ものすごい勢いでこちらに迫ってくる。

 声が出ない。

 動けない。


 キュー!!


 私を庇うようにキュアちゃんが前に出る。

 でもやっぱり、震えている。


 私、仲間に殺される――?


「それ、たぶん……」


 アーロンの戸惑う声が聞こえた、その瞬間。

 草むらから、とてつもない勢いで何かが飛び出してくる。


――が。


「……姐さんだ」

「え、穂香さん?」

「あ、はい……」


 殴る寸前で止まり、気づいてもらえた。

 涙目のまま、ようやく声が出る。


「すみませんでした。つい、いつもの癖で」


 癖?

 癖で、違和感を察知したら誰であろうと殴るの?


 真顔で必死に謝られるも、心の中で全力でツッコむ。


 今まで常識人だと思っていたのに、実は一番の危険人物なんじゃないだろうか。

 それとも、これが戦士としての普通?


「姐さん、大丈夫か?」

「うん、ありがとう」


 哀れみの表情を浮かべながらも、優しく手を差し伸べてくれるアーロン。


「それにしても、撫子も案外そそっかしいんだな?」

「よく言われる。それに、まだフェリオスとうまく調和ができなくてさ」


 どことなく機嫌の良いアーロンの問いに、撫子さんは反省したまま理由を付け加える。

 それで殺意を向けられた。


 つまり私はまだフェリオスに、仲間認定されていないのか。

 キュアちゃんと似たような状況なので、苦笑するしかなかった。


 ウゥ……


 言葉の意味を理解したキュアちゃんは、唸り声をあげてフェリオスを威嚇する。

 宝石が真っ赤に光り出し、ただならぬ雰囲気に。


「え、フェリオスが怯えてる?」

「は? アーティのほうが強い?」


 戸惑う二人。


「キュアちゃん、やめなさい。守ってくれるのは嬉しいけど、フェリオスは味方だよ。同じ武器なんだから仲良くしなさい」

 プイ


 いつもなら素直に聞くのに、今日はそっぽを向いて先へ行ってしまう。

 地味にショックなんだけど。


「なんだよ、あいつ。もう反抗期か?」

「え、そうなの?」


 そんなキュアちゃんをアーロンが不思議そうに見て、私はその後ろ姿を見つめる。

 ある程度進むと立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回す。

 そして何かを見つけたのか、星を回して方向を変え、再び動き出した。


 ?


「何してるんですかね?」

「追ってみようぜ?」


 二人も気になるらしく、後を追うことになった。

 それほど遠くへは行っていない。すぐに――

 曲がった先には、生い茂る茂み。




 チャー!!


 奥からキュアちゃんの声が聞こえる。

 私たちは顔を見合わせ、茂みをかき分けて進んだ。



『わぁ~、綺麗』

「……は、嘘だろ?」


 茂みの先には、百合のような淡い紫の花が三輪、凛と咲き誇っていた。

 朝日に照らされ、花びらから雫がこぼれ落ちる。

 私と撫子さんは思わず声を重ねる。

 けれどアーロンだけは、信じられないという表情を浮かべていた。


 ?


「これは十数年に一度、しかも早朝にだけ咲くと言われている花だ。確か名前は“朝葵”」

「そんなに貴重なんだ。みんなにも見せてあげたいけど……呼びに行く時間はなさそうだね」


 すぐにエルヴィスさんの顔が浮かぶけれど、それは叶いそうもなく少しだけ肩を落とす。


「ですね。リチャードに話したら、羨ましがりますよ」

「確かに。ってアーロン、何してんの?」


 当のアーロンは感動することもなく、ピンセットで花粉を採取し始めていた。

 どこから出したの、それ。


「朝葵の花粉は高く売れるからな。こういう時のために、採取セットは常に持ち歩いてる」

「え、そうなの?」


 当然のように言われけれど、初耳である。


「あ、ずるい。私も」


 すると撫子さんもハッとして、バッグから同じものを取り出した。


「いい小遣い稼ぎになるんだ」


 ニカッと笑う。


 たくましいな。


「キュアちゃん、ありがとう」

 キュー


 そう思いながらも、ここに連れてきてくれた? キュアちゃんに感謝する。

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