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100話 熟年夫婦

100 熟年夫婦


 楽しいティータイム? が終わった頃、マミア様が訪れた。

 エルヴィスさんは業務的に「プロポーズをしたので、正式に婚約を」と伝えると、部屋を見回したマミア様の笑顔が凍りつく。


「まさかプロポーズ、“結婚しよう”だけで終わらせてないわよね?」


さすがお姉。 弟のことを熟知していらっしゃる。


「はい。なにか問題がありますか? 今回は穂香も了承しています」

「穂香ちゃん、本当にそれで良かったの?」


 まったく分かっていない彼を置き去りに、血相を変えて両肩をつかまれ確認される。


 デジャヴ?


「はい。この人なら、結婚生活もやっていけると思えました」


  いろいろ言いたいことはまだあるけれど、それだけは自信をもって言える。

彼を見上げ、微笑み合う。


「…………。熟年夫婦みたい」


 一瞬の沈黙のあと、ため息交じりのうんざり顔。


 熟年夫婦。


 さすがにその呼び名は嫌で、笑顔が引きつる。


「そうだな」


 なのに彼は妙に納得する。 けれど、そこはマミア様だった。


「駄目よ。どんなに忙しくても、毎日十分でいいから会話。デートも定期的に。寄り添う安心だけじゃなく、恋愛の刺激も求めなさい」


 ビシッと言い切る。

 経験者からのありがたいお言葉に、衝撃が走った。


 思えば確かに、私たちは愛し合っているけれど、戦場の中で深まった絆というか……。 まさか、吊り橋効果ではないよね?

 今さらだけど、私たちって恋愛してないんじゃ……?

 だから、彼との間に微妙なズレが生まれている?


「分かりました。話し合いますし、デートもします」

「よろしい。なら婚約の日取りはこちらで決めておくわね?」


 彼も何か思うところがあるのか、眉を細めて考えながら答える。 それで満足したのか、マミア様は微笑んだ。

 そして私の耳元で、そっとささやく。


「そうそう、穂香ちゃん。エルに指輪を返してね。引き出しの中身は見てないからね」 「はい!」


 思わず声を上げ、ビシッと敬礼してしまった。




「エルヴィスさん、これ返しますね。マミア様から預かってました」

「そうか。ありがとう。もう二度と手放さないと約束する」


 指輪を返すと、固く誓われる。 聞きたかった言葉に、自然と笑みがこぼれた。


「絶対ですからね」

「ああ」

『…………』


 いつも通り、それ以上の会話は続かない。 

 自然と無言になる。

 それでも私は幸せでいられたから、彼にそれ以上を求めなかった。


 えーと……何か話題は……。


「あ、そういえば私、マグカップのほかに、お揃いの部屋着と寝間着も買ってきたんですよ」

「そうか。それは楽しみだ」

「どういたしまして」

『…………』


 せっかく絞り出した話題のはずなのに、わずか数秒で終わってしまう。


 あれ?

 あれれ?

 私たち、普段どんな会話してたっけ?

 戦闘以外の話。

 …………


 思えば、さっきのティータイムでも会話のキャッチボール、してたっけ?

 私が話して、彼が相槌を打つ。 それが、いつの間にか普通になっていた。


 確かに、これでは熟年夫婦だね。


「寝間着は、着て寝ると疲れが取れるそうですよ。エルヴィスさんにぴったりですね」


 もう一度、話題を振ってみる。


 これが駄目なら、次にいけばいい。


「そういえばケインも似たようなことを言って、この前の誕生日にプレゼントしてくれた「そうなんですね。それで効果は?」


ケインさんは、彼の嫁ですか?


 先を越されたようで、少しムッとする。 でも彼を気遣ってくれる存在なのはありがたい。 おかげで会話は続きそうだし、今回は素直に感謝しよう。


  ……次は負けないんだからね?


「ある程度は取れたが、徐々に衰える。一ヶ月くらいだな」

「効果があるなんて意外ですね。気休め程度だと思ってました」

「……? ならなぜそれにした?」


首をかしげられる。 意味不明、という顔。


「柄と質感です。すごく肌触りがいいんですよ。今持ってきますね」


 そう言って席を立ち、棚の上のショッピングバッグを取ってくる。 包みを取り出して、彼に渡した。


「ありがとう。……」


 表情を和らげて包みを開けたものの、すぐに口を閉ざし、眉がわずかに動く。


「……もしかして、気に入らなかったですか?」

「いや。俺には可愛すぎると思ってな。部屋着はいい」

「そんなことない ですよ。ほら、私のを見てくださ――」


 言いかけて、固まる。


「穂香?」

「恥ずかしいですね、これ……なんでこんなの買ってきちゃったんだろう……」


 今さらながら、可愛い全開の寝間着。

 しかもワンピース。


 一気に顔が熱くなる。


 わぁ~、私のバカやろう!!


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