98話 武器の選び方
光を帯びたグローブのようなものが、ふわりと宙に浮いていた。
――は?
脳内にハテナが無限に広がっていく。
あれは、一体……?
「私を呼んでいたのは、あなたなの?」
撫子さんはゆっくりと歩み寄り、グローブに向かって問いかける。
呼んでた?
……私には、何も聞こえなかったけど。
「ねぇ、穂香は、聞こえた?」
「ううん。聞こえない」
即答する。
「だよね。……メシアの武器、とか?」
ルシアちゃんも首をかしげながら、それっぽいことを口にした。
でも――そんなものがあるなら、もうとっくに撫子さんの手に渡っているはずだ。
「戦うメシアなんて前代未聞よ。化石連中に知られたら、偽物だと言い出しかねないわ。困ったものね」
マミア様はため息混じりにそう言った。
「相変わらずですね」
私は苦笑する。
化石連中――王様と、その取り巻きたちのことだ。
テキサス様も頭を悩ませていたし、本当にどうにかならないものだろうか。
……と。
その会話は、撫子さんにも届いていたらしい。
わずかに動きが固くなる。
「撫子ちゃん、安心して」
マミア様はにっこりと微笑む。
「もしそうなったら、私たちが護――それとも、撫子ちゃんが張り倒す?」
軽く首をかしげる。
「後処理は、私たちに任せて」
……さらっと、とんでもないことを言う。
しかもグーサイン付き。
冗談のようにも聞こえるけれど、十中八九本気で言っているのだろう。
むしろ、それを望んでる?
まったく怖い人だ。
「……あれ、パパが言ってることと違ってる?」
困惑気味のルシアちゃんが、小声で呟く。
デュークはルシアちゃんに何を吹き込んだ?
それとも、デュークはデュークなりの正義が……――いや。
デュークは禁忌に誓い、仮面を操り、エルヴィスさんを苦しめた。
何があろうと、私の敵だ。
……でも、あとでルシアちゃんとはちゃんと話し合おう。
「ありがとう。よろしくね」
その間に話は進んでいたようで、撫子さんの声が弾む。
そしてグローブは、撫子さんの右手にスボッとはまり、形を変える。
水色のグローブ。
今、私たちが見たのは――きっと、貴重な瞬間だったんだろう。
「お待たせしました」
直後、チョビ髭の店長がやってきた。トレーには三つの武器がのっている。
伝説と言う割には、武道家の武器だけで三つもあるんだ。
なんか面白い。
「あ、ごめんなさい。武器の方から会いに来たみたいで……それにするわ」
「はい。このグローブにします。名前はフェリオス」
「フェリオス? ……まさか……もう少々お待ちください」
名前を聞いた途端、店長の顔が真っ青になり、そう言い残して飛び出していった。
あからさまに何かあるのだろう。
「フェリオスはいわく付きなの?……それとも、主を待ってただけ?」
「撫子は武器と会話できるの?」
フェリオスと会話する撫子さんに、目を輝かせながら問いかけるルシアちゃん。
私も気になる。
「会話っていうより、なんとなく言ってることが分かる感じかな?」
神秘的で奥が深い回答が、妙に納得できる。
「霊が繋がってる感じか。じゃあ、前の持ち主のことを聞いてみたら?」
「あ、そうだね……え、覚えてない?でも優しい人だった。それならよかった」
あまりいい情報は得られなかったものの、撫子さんは安堵した。私もそれは分かる。
キュアちゃんの前の主はどんな人だったのかな?
魔族っていうのは分かるんだけど、それ以外は分からない。
チュピチュピ。
そんなことを考えていたら、キュアちゃんが元気よく登場。
私を見つけるなり、星をくるくる回しながら一目散にやってくる。
突撃はせず、スリスリと寄り添った。
その場の空気が、一気に和む。
チュンチュン。
「キュアちゃん、ごめんね」
チュチュピ。
怒ってるかなと思いきや、まったく怒ってない。
「こっちの武器は分かりやすいわよね? 穂香が持ち主だから?」
「そうなのかな?」
確かに私は分かりやすい。
「ねぇ、キュアちゃん。いきなりで悪いんだけど、このぐらいの大きさになれたりする?」
伸縮魔術を使うよりも、試しにペンを出して聞いてみる。
それなら気軽に持ち運べる。
――チュピン
少し考えたあと、キュアちゃんは大きくうなずき、
大きくジャンプし回転すると、指定の大きさに変化した。
『可愛い!!』
キュアちゃんにハートを撃ち抜かれた私たちの黄色い声が、部屋中にこだまする。
「……あれ、リチャード様。そんなところでどうかされましたか?」
「あ、うん。ちょっと入りにくくってね」
しばらくして店長の声が聞こえたと思えば、気まずそうなリチャードくんの声も聞こえてきた。
そういえばキュアちゃんを連れてきたのは、リチャードくん。
すっかり忘れてた。
「いるならいるって言いなさいよね? 気を使ってるのかもしれないけど、こういう時ははっきり言ってくれた方がいいの」
真っ先に反応したのはルシアちゃん。
顔を真っ赤に染め、リチャードくんに駆け寄り、腕を組みながら早口で怒る。
恥ずかしさを隠しているのが丸分かりだ。
「す、すみません」
しかし当の本人には気づくはずもなく、シュンと小さくなって押されていた。
「リチャードはああいう子がタイプなのね?」
お母様は、のんきに観察中。
「メシア様、その武器は自ら主を選ぶものなので、彼が望んでいれば差し上げます」
「え、いいんですか?」
撫子さんと店長は商談を始める。とはいえ、すでに交渉は成立しかけていた。
「ええ。ここは彼の寝床だと聞いております。主との契約が切れると戻ってきて眠りにつくそうです。資料によると、二百年ぶりの目覚めでしょうか?」
「そうですか。そういうことでしたら、大切に使わせてもらいます」
太っ腹な店長だ。




