入学 5
やはりというか、当然だが、入学早々遅刻した。
なんというか、知らない顔だらけの教室に後で自分だけ入ると、自分だけが注目されるわけで。
まさに、針のむしろ状態。
俺の担任になる氷室先生は、呆れ顔を見せながらも大目に見てくれた。それに、どうやら遅刻は俺だけではないようだ。
「すみません! 遅刻しましたっ!」
教室の後ろのドアを思いっきり開けて入ってきたのは、女子だった。
「……あ」「……あ」
二人の声が同時にハモる。
なんということだ。
遅刻してきたのは、さっき不良から助けた女子じゃないか。
「あ~やっと来たか。おい遅刻2号。さっさと席に座れ。ほら、お前もだ」
「は、はい」
氷室先生に促され、空いている席に適当に座る。チラッとさっきの女子を見ると、あちらも俺を見ていたようで、俺と目が合った瞬間パッと顔を反らした。
「よし。これで全員揃ったな」
氷室先生がクラス全員を見渡して言う。
ちなみに、クラス全員いるうち、男女の比率は2:8と圧倒的に女子が多勢である。それは、この学校の生い立ちに関係する。
――――朝霞学園高校は元女子高である。それが3年前に共学になり男子も取るようになったのだが、あまりに女子高としての歴史が長く、かつ長年の優良校だったため、当時の保護者が風紀を乱すという名目で、極端に男子の募集数を減らしたそうだ。
だが、共学とうたっていながら公には出来ないことなので、学校側は男子と女子の合格ラインに差をつけることでこの問題を解決した。
実質、女子の平均合格ラインが100点のうち80点なのに対し、男子は90点を超えなければまず合格しない。
実際にこの手法は学校側の狙い通りの結果になった。
超高得点を取れる優秀な男子のみが合格することによって、男子生徒の数は圧倒的に少なく、かつ優良な生徒のみが残る。
その点女子の合格ラインは通常よりやや高めでも入れないレベルではない。実質、絶不調だった倉林千鶴が合格できたのもこの制度が大きい。
逆に、柏晶がこの学校に入学できたのは奇跡に近い。やはり愛が準備した模擬問題集が功を為したといえるだろう。
「それではこれからの日程を軽く説明するぞ」
氷室先生が淡々と説明していく。
まず、これから入学式が行われる。その後LHRが行われ、クラスの組織を決めたり、席替えを行うそうだ。
「…はぁ」
俺は誰ともなく溜め息を洩らした。
どうも気が重い。朝からハプニング続きだからだろう。
……今日は大人しくしていよう。
俺は肩肘をつき、ぼんやりと氷室先生の話を聞き続けた。
遅刻してまず目に映ったのは、朝自分から助けてくれたあの男の子だった。
彼女――――金田茜〔かねたあかね〕は胸を踊らせていた。
だが、彼が何故一人で教師の前に立っているのか。それを理解したら胸が痛んだ。
――どうやら間に合わなかったみたい。あたしのせいだよね……悪いことしちゃったなぁ。
晶と茜に担任の教師に席を座るよう指示され、茜は近くの空いている席に座る。
ただ、座っても教師の話は聞いていない。彼女の関心は彼――柏晶に向いているからだ。
彼は肩肘をついてぼんやりと担任の話を聞いていた。
さっき彼がこちらを向いたときは、心臓が止まりそうになった。
咄嗟に視線を反らしたが、自分が見つめていたことは薄々感じていたのだろう。
茜は気づいていた。
自分の正直な気持ちを。
――――これが、初恋ってやつなのかなぁ。
茜はその男勝りな性格からか、友達は多くても好きになる相手はいままでいなかった。まず、自分より弱いやつは駄目だからだ。
その点、晶は強さと優しさを持ち合わせていた。
そこに茜は惹かれたのだ。
「…でも、まさか同じクラスだったなんて…ね」
こればかりは運命の神様とやらに感謝しなくてはいけないだろう。
茜はそう思った。




