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彼と彼女たち  作者:
第1章
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入学 4

 急いで彼女のもとへ戻ってみたが、心ここにあらず、といった感じだった。


 何度もお礼を言われて逆にこちらが恐縮してしまうほど、まぁこれに懲りて無茶なことはやめてほしいと言って彼女とは別れた。


 ………ヤバイ! 遅刻しそうなんだけど!


 時間……止まってくれねぇかなぁ…





  *   *


 …それは突然だった。


 少し寝坊してしまったあたしは、身だしなみもそこそこに通学路を全速力で走っていた。

 というのも、あたしの家から朝霞までは、歩いて一時間掛かるので、どうしてもバスを使うことになるんだけど、そのバスが出てしまう時間にギリギリ間に合うか間に合わないかだったのだ。


 歩道は広めに作られていたけど、やっぱり時間帯なのか、歩道を歩く人は多い。

 あたしは、人と人の間を縫うようにして走り抜けていた。そしたら、真ん中を遠慮もせず闊歩する不良の一人にぶつかっちゃったわけだ。


 こっちは走っていたわけだから、当然向こうにも衝撃はあったと思う。不良はよろめきながらも顔を上げると、あたしを凄い目付きで睨んできた。


 さすがのあたしもたじろきそうになる。

 でも、こちらも急いでたし、何せ堂々と真ん中を歩くあいつらに素直に謝るのも癪だった。


 やめればいいのに、不良に果敢にも絡んでしまったあたしは、逆上した一人に肩を掴まれ突き飛ばされてしまう。

 女のあたしが勝てるはずない…

 バランスを失った体は、否応なしに地面に向かって崩れていく。

 相当の痛みを覚悟した。

 が、体はアスファルトに打ち付けられず、誰かの手によって支えられた。


 驚くあたしは、顔をあげる。

 すると、凛とした面立ちであたしを見ている男の子と目が合う。


「大丈夫?」

 と優しく訊いてくれる彼。あたしは顔が赤くなるのが分かった。そして柄にもなく小さく頷くことしか出来ない。


 その後彼は意図も簡単に不良を追い払ってしまう。まるで、子供が大人に喧嘩を挑む光景を見ているようだった。


 彼は再度あたしを気遣って大丈夫かと訊いてくれたが、あたしの無茶に彼を巻き込んでしまったことが申し訳なくて、ただ謝ることだけしか出来なかった。


 あの時の彼の顔が頭に焼き付いて離れない。


 あたしとは違う、真の強さを彼は持っている。


 ……どうしよう。彼が気になってしょうがない……

 彼を知りたい。彼と話をして、あたしを知ってほしい。

 そんな衝動に駈られてしまう。


 …そういえば、彼の制服、朝霞のものだった。そして彼のしていたネクタイはあたしと同じ色。


 無意識に顔が弛んでしまう。

 だって、嬉しかったから。


 ということは、まだチャンスはある。

 彼と同じ学校なんだ。こんな偶然あるだろうか。



 ――――彼と同じクラスになれたらいいなぁ

 そう思いを馳せながら、あたしは学校に向かうのだった。


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