第4話 一筋の光
「危険なのは――貴様だ」
敵機の低い声が響く。
次の瞬間。
背部ブースターが、爆発するように点火した。
◆
赤い閃光。
敵機が一瞬で間合いを詰める。
速い。
さっきまでとは別物だった。
カイは咄嗟に反応する。
だが、
赤熱ブレードが肩部装甲を裂いた。
火花。
衝撃。
《左腕部損傷》
《出力低下》
「ぐっ……!」
零式ごと吹き飛ばされる。
道路を削りながら転がった。
◆
敵は止まらない。
ブースターを噴かし、
一直線に迫る。
完全に仕留めに来ている。
◆
「くっ!こんなところで死んでたまるか…!」
《SYNC RATE:73.8%》
カイの視界が研ぎ澄まされる。
敵の重心。
踏み込み。
斬撃軌道。
全部見える。
しかし、
零式のフレームが軋んでいた。
古い機体。
限界が近い。
◆
「終わりだ」
敵機がブレードを振り下ろす。
その瞬間。
カイは半歩だけ動いた。
刃が頬を掠める。
火花が散った。
同時に、
カイの手が敵の腕を掴む。
「ぐっ!!…へへっ…遅いぜ軍人さん。」
◆
全力で捻る金属が悲鳴を上げた。
敵機の腕部装甲が砕け散る。
敵が動揺した。
「なっ……!?」
カイは止まらない。
踏み込む。
拳。
膝。
肘。
零式の古い駆動音を響かせながら、
至近距離で叩き込む。
◆
《ENEMY SYNC RATE:68.7%》
敵の数値が落ちる。
焦り。
恐怖。
精神の乱れが、
性能低下へ直結する。
◆
「ありえん……」
敵の声が震える。
「零式は欠陥機だ……」
「現行機より性能は劣る……!」
カイは荒く息を吐く。
頭が焼けそうだった。
視界も滲む。
それでも。
まだ身体は動く。
「んなこと知ったこっちゃねえよ…。
本気で生きたいと思う気持ちが…
てめえらクズどもに分かるか…!!」
◆
《SYNC RATE:74.6%》
また上がる。
景色が鮮明になる。
そして、
カイには分かった。
敵の動き。
次の攻撃。
その“先”まで。
◆
敵が最後の突撃を仕掛ける。
ブースター全開。
赤熱ブレード最大出力。
空気が裂ける。
だが。
カイには、
その軌道がまるで止まって見えていた。
◆
――今だ。
カイは踏み込む。
敵の懐へ。
零式の装甲が軋む。
限界寸前。
それでも。
カイは拳を振り抜いた。
◆
轟音。
零式の拳が、
敵機の胸部コアを貫く。
赤い装甲が内側から砕け散った。
敵機が吹き飛ぶ。
地面へ激突。
火花を散らしながら滑っていく。
そして――停止した。
◆
静寂。
崩壊した街に、
風だけが吹く。
カイは荒く息を吐いた。
膝が崩れそうになる。
《SYNC RATE低下》
《73.0%》
同時に、
激痛が全身を走った。
「ぐっ…!!」
◆
「カイ!!」
レオが駆け寄る。
零式の装甲はボロボロだった。
左腕は半壊。
胸部にも深い損傷。
青白い火花が漏れている。
それでも、
零式はまだ立っていた。
◆
レオが小さく笑う。
「……やっちまったな」
「帝国のリンクスーツを、
旧式でぶっ倒しやがった」
カイは何も答えない。
ただ、
遠くの夜空を見上げていた。
◆
煙に覆われた街。
崩れた建物。
焼け跡。
絶望しかなかった世界。
でも今、
その暗闇の中に、
確かに一つだけ――
光があった。
◆
数十分後。
地下区画。
崩壊した地下鉄跡の奥。
隠れ家へ戻った瞬間、
仲間達の視線が、
カイの後ろへ釘付けになる。
◆
ボロボロの黒いリンクスーツ。
旧式。
傷だらけ。
しかし、
誰も目を逸らせなかった。
レオが静かに言う。
「……こいつが」
「帝国の現行機を倒した」
地下シェルターに、
静寂が落ちた。




