第3話 72.5。
《SYNC RATE:72.5%》
その瞬間。
世界が、変わった。
◆
遅い。
いや、
違う。
カイが速くなっている。
空中に舞う瓦礫。
崩れた鉄骨。
敵リンクスーツの駆動軸。
全部が見える。
まるで、
頭の中に“答え”が流れ込んでくるみたいだった。
◆
敵機が動く。
鋭い踏み込み。
だがカイの身体は、
考える前に反応していた。
躱す。
踏み込む。
回転。
拳。
――爆音。
敵機の装甲が軋む。
「っ!?」
初めて、
敵の声に動揺が混じった。
◆
カイは止まらない。
身体が軽い。
今なら何でもできる気がした。
視界の中で、
敵機の同期率表示が揺れる。
《72.1%》
下がっている。
焦っているんだ。
――行ける。
カイは地面を蹴った。
アスファルトが砕ける。
超高速で接近。
敵機の腕を弾き、
腹部へ膝を叩き込む。
衝撃波。
黒い装甲が浮いた。
◆
「化け物かよ……」
レオが呆然と呟く。
さっきまで押されていたとは思えない。
たった数%。
それだけで、
戦況がひっくり返っている。
◆
敵機が後退する。
初めてだった。
帝国兵が、
明確に“退いた”。
「対象危険度修正」
「戦闘プロセス変更」
機械音声。
次の瞬間。
敵機の背部装甲が展開した。
「……っ!?」
内部から現れたのは、
二本の高熱ブレード。
赤熱。
空気が焼ける。
◆
「おい待て……!」
レオの顔が青ざめる。
「あれ、近接戦仕様じゃねぇぞ……!」
敵機が構える。
瞬間。
消えた。
「――ッ!!」
火花。
カイは咄嗟に後退する。
だが遅い。
胸部装甲が浅く裂けた。
高熱。
焦げる匂い。
《損傷確認》
《外部装甲 12%破損》
「くそ……!」
◆
敵が速い。
さっきまでと比べ物にならない。
カイはギリギリで攻撃を避け続ける。
だが。
《SYNC RATE:72.1%》
数字が落ち始める。
息が苦しい。
頭が熱い。
集中が切れれば、
死ぬ。
◆
「カイ!!」
レオの叫び。
その瞬間、
敵ブレードが振り下ろされる。
避けきれない。
終わる。
そう思った時だった。
視界の奥で、
青白い光が脈打つ。
リンクスーツ内部。
深部コア。
そこから、
知らない声が聞こえた。
『――戦え』
「……は?」
声と同時に、
同期率が跳ね上がる。
《73.8%》
景色が、一瞬で引き延ばされた。
◆
敵の動きが見える。
いや、
“次にどこへ動くか”が分かる。
カイは半歩だけ動いた。
それだけで、
敵の斬撃が空を切る。
そして。
カイの拳が、
敵機の胸部コアへ叩き込まれた。
轟音。
青白い衝撃が走る。
敵機が吹き飛ぶ。
ビル壁面へ激突。
大きく亀裂が走った。
◆
煙の向こうで、
敵機が膝をつく。
《ENEMY SYNC RATE:68.2%》
急落。
勝てる。
そう思った瞬間。
敵機のスピーカーから、
ノイズ混じりの声が漏れた。
「……ありえない」
「その機体は……」
言葉が止まる。
そして、
敵は初めて、
明確な“恐怖”を滲ませた。
「なぜ、“零式”が起動している……?」
敵の声が、初めて揺れた。
恐怖。
いや、
理解できないものを見た反応だった。
◆
カイは荒く息を吐く。
頭が熱い。
視界の端で、
同期率表示が脈打っている。
《SYNC RATE:73.1%》
身体が軽い。
なのに、
神経が焼けるみたいに痛かった。
◆
敵機がゆっくり後退する。
その動きに、
さっきまでの余裕はない。
「馬鹿な……」
「零式は旧世代機だ」
「現行機以下の出力しかないはず……」
レオが目を見開く。
「旧世代……?」
「俺も詳しくは知らねぇ。でも昔、“危険すぎて廃棄された機体”があるって噂は聞いたことある」
レオの視線が、
カイの装甲へ向く。
「まさか、それが……」
◆
敵機が構え直す。
赤熱ブレード。
現行型高機動リンクスーツ。
本来なら、
旧型に負けるはずがない。
だが。
《ENEMY SYNC RATE:71.8%》
敵の同期率が落ちていた。
焦っている。
対して、
カイの同期率はまだ上がる。
《73.5%》
◆
敵が動く。
高速踏み込み。
赤熱ブレードが一直線に迫る。
だが。
カイには見えていた。
刃道。
重心。
次の動き。
全部。
「――遅ぇ」
半歩だけ動く。
それだけで斬撃が空を切った。
敵が動揺する。
「なんだ、その反応速度は――」
カイは踏み込む。
零式の装甲が軋む。
古い。
重い。
駆動音も荒い。
なのに。
加速だけは、
現行機を超えていた。
◆
爆音。
敵機の腹部へ拳がめり込む。
衝撃波。
黒い装甲が大きく歪む。
「ぐっ……!?」
敵機が吹き飛ぶ。
壁へ激突。
ビル全体が揺れた。
◆
レオが息を呑む。
「嘘だろ……」
「現行機を、零式が押してる……?」
違う。
押しているのは、
零式じゃない。
カイだ。
◆
敵機が立ち上がる。
装甲は砕け、
火花を散らしていた。
それでも敵はカイを見る。
まるで、
化け物を見る目だった。
「ありえない……」
「零式で、その同期率……」
「人間の神経が耐えられる数値じゃない」
カイは拳を握る。
すると、
零式の装甲が低く唸った。
まるで、
機体そのものが応えているみたいに。
◆
《SYNC RATE:74.0%》
数字が上がる。
同時に、
頭痛も強くなる。
視界が滲む。
なのに止まれない。
止まった瞬間、
負けると分かっていた。
◆
敵機が低く構える。
損傷している。
だが、
まだ戦意は消えていない。
「対象変更」
「零式ではない」
赤い単眼が、
カイを捉える。
「危険なのは――貴様だ」
その瞬間。
敵機の背部ブースターが、最大出力で点火した。




