第2話 同期率。
《……コード:KAI》
機械音声が、静かに響く。
カイの背筋を、冷たいものが走った。
「なんで……俺の名前を知ってる」
返事はない。
ただ、青白い光だけが装甲の隙間で脈打っている。
◆
遠くで爆発音が響いた。
アストロ帝国の制圧部隊。
まだこの区域にいる。
レオが荒く息を吐きながら立ち上がる。
額から血が流れていた。
「……おいカイ」
「……」
「それ、本当に止まってんのか?」
カイは自分の腕を見る。
黒い装甲。
指先に走る青白いライン。
感覚がおかしい。
まるで、自分の身体が増えたみたいだった。
握れば、装甲の指も動く。
呼吸すれば、内部の駆動音が脈に合わせて響く。
気味が悪い。
けど――妙に馴染む。
◆
《神経同期率:70.8%》
突然、視界の端に文字が浮かぶ。
「うわっ!?」
カイは反射的に後ろへ下がった。
だが表示は消えない。
半透明の数字が、視界に焼き付いている。
《神経接続:安定》
《戦闘行動:実行可能》
「なんだよ…これ」
レオが目を見開く。
「待て……今、同期率って出たのか?」
「同期率?」
「リンクスーツの適合値だよ。噂くらい聞いたことあんだろ」
レオの声が少し震えていた。
「60%以上でようやく動かせるって話だ。普通の兵士は良くて62とか63……」
そこで言葉が止まる。
レオの視線は、表示された数字に釘付けになっていた。
「70って……お前、なんなんだよ」
◆
その瞬間だった。
――ピピッ。
警告音。
カイの視界に赤い表示が走る。
《WARNING》
《高熱源反応接近》
「来る…!」
空気が震える。
次の瞬間。
辺り一体が、隕石が衝突したかのように吹き飛んだ。
轟音。
粉塵。
その中から、黒い装甲が姿を現す。
敵リンクスーツ。
だが、さっきまでの機体とは違う。
肩部装甲が赤い。
細い。
そして何より――速そうだった。
◆
《ENEMY SYNC RATE:72.1%》
数字を見た瞬間、
レオの顔色が変わる。
「72……!?」
「ヤバいのか?」
「ヤバいなんてもんじゃねぇよ……!」
敵機が、一歩踏み出す。
その瞬間にはもう、
カイの目の前にいた。
「――ッ!?」
速い。
さっきの敵とは別次元だった。
反応した時には、蹴りが腹部へ突き刺さっている。
爆音。
カイの身体が吹き飛ぶ。
道路を削りながら転がった。
◆
「ぐっ……!!」
立て。
立たなきゃ死ぬ。
だが敵は待たない。
赤い装甲が迫る。
《ENEMY SYNC RATE:72.4%》
数字が上がる。
敵の動きがさらに鋭くなる。
「カイ!あいつ…やばいぞ……!」
レオが叫ぶ。
カイは歯を食いしばった。
たった2%。
なのに、
まるで子供と大人くらい差がある。
◆
敵が腕を振り上げる。
避けられない。
その瞬間――
レオが、瓦礫を敵へ投げつけた。
「カイッ!!」
一瞬だけ敵の視線が逸れる。
カイは反射的に踏み込んだ。
拳を叩き込む。
だが浅い。
敵は止まらない。
逆に腕を掴まれる。
装甲が軋む。
《SYNC RATE低下》
《69.9%》
「なっ……!?」
恐怖。
焦り。
その瞬間、
同期率が落ちた。
◆
敵が、静かに呟く。
「未熟」
スピーカー越しの声。
感情はない。
「その程度で、帝国に抗うつもりか」
次の一撃が来る。
カイは歯を食いしばった。
負ける。
また、
何も守れない。
その瞬間。
視界の端で、
レオが立ち上がるのが見えた。
ボロボロなのに。
それでも前に出てくる。
――なんでそんな顔してんだよ。
カイの中で、何かが燃えた。
《SYNC RATE:71.3%》
《71.9%》
《72.5%》
敵を、超える。
その瞬間、
世界が加速した。




